【No.14】
高等教育開発・支援系/部門ニュースレターNewsletter 第14号(10/9)

PDF版:2020ニュースレター(14号)

 

英国高等教育における新型コロナ禍対応について(その2)「実習、実験の評価について」

高等教育開発・支援系 堀井 祐介

 

前回英国学生局(Office for Students, OfS)による新型コロナ禍での高等教育の対応について記した”Guidance”について紹介させていただいた。今回は、英国高等教育質保証機構(Quality Assurance Agency for Higher Education, QAA)が作成した新型コロナ禍対応資料の中から、”COVID-19: Thematic Guidance Practice and Lab-based Assessment”(新型コロナ禍での実験・実習授業での評価について)について紹介させていただく。QAAは、英国高等教育質保証の柱となるQuality Codeを作成し、OfSの認証を受けて質保証活動を行う実践部隊である。そのQAAが新型コロナ禍において高等教育機関への支援として解説したWebサイト(COVID-19 support and guidance https://www.qaa.ac.uk/news-events/support-and-guidance-covid-19) にはオンライン教育についての全体的な考え方、留意点、分類、質に関する基本的考え方、学生の学習支援などの文書が掲載されている。

その中に今回一部抜粋を紹介させいただく実験、実習授業での評価に関するものがある。目的、導入、基本方針に続いて、先ずは、芸術、音楽、パフォーマンスなどの実習系での評価の章があり、その後に実験室(ラボ)および臨床実習シミュレーションなど実験系の評価について記されている。以下に実験系評価に関する章の要約抜粋を記す。

 

ラボでの評価が組み込まれているなら、ラボが再開されるまでそれらの評価は延期すべきなのか?

  • 化学、物理学、工学、生物学だけでなく、コンピュータサイエンス、心理学、言語学においても、また看護学、医学その他の関連専門分野における臨床実習シミュレーションにおいてもラボでの学習活動が行われている。
  • 学生の学習評価の文脈において実験室での活動評価の重要な要素は、機器の使用と操作に関する精神運動(psychomotor)スキルと能力である。
  • 遠隔でどこまで評価出来るかは、機器使用に際して授業で設定されている学習成果がどの程度スキルと能力を評価することを求めているかによる。
  • 学習成果がラボでの機器を用いての機器操作実演を必須として求めているのなら、その操作実演は延期すべきである。
  • しかし、延期は、他の選択肢を検討し尽くした後であり、かつ、学生の利益になる場合である。
  • 学生にとっては、評価の延期は、学位取得遅れの一因になる可能性があり、それによるキャリア形成機会、費用、やる気の喪失につながりかねない。
  • 高等教育機関にとっても、再評価の機会の提供は計画変更によるリソースの消費やスタッフの時間を取られる事態となる。
  • それにも関わらず、学位授与の公正性は重要であり、必須または選択の学習成果は評価されなければならない。

通常はラボでの評価が行われる学習成果を他の手段で示すことは可能なのか?

  • 可能なら、延期ではなくオンラインまたは遠隔で代替することを考えなければならない。この方式での評価設計は、常に、意図されている学習成果とつながっている。
  • 学習成果が機器操作スキルまたは能力の実演を求めていないのであれば、学習成果は、データ処理、分析、解釈により結論に達することで習得出来る可能性がある。
  • 代替案としては:
      • 学生にデータを提示し、その解釈を求める。
      • 学生に結果データが生み出される実験の録画映像を見せるなど遠隔でのシミュレーションを行う。
      • 学生には実験を行うにあたって重要な点についてのコメントを求める。
      • 学習成果によっては、データの分析まで含む。
      • 学生は、例え、実際にその機器を操作してその操作能力を示せなくとも、用いられている機器の操作を理解していることを示すことが出来るかもしれない。
      • グループ活動ではなく学生個々人の活動に基づく評価の場合、学生にデータを提供する際に多様なデータを用意しておけば、学生間でデータが重複することを防げる。
      • 電子工学およびコンピュータサイエンスにおいては、ラボではなく遠隔で使用できるプログラミング作業が提供されている。

学生に、当該教育プログラムの早い段階でのラボでの経験がある場合、後々のラボでのスキルベース成果活動評価に関わるのか?

  • 学習成果達成の機会は教育プログラム中に数多くある。
  • 学生が既に早い段階で学習成果を達成していることが後の段階で確認出来る場合もある。そのような場合、既に確認出来ているため、改めて能力を実演させなくてもかまわない。モジュール(複数科目の集合体)での学習成果の場合でも、教育プログラム全体の学習成果を考えておかなければならない。
  • 実際に可能な場合は、学生と相談の上、大学の規則の範囲内で、有効な評価方法への見直しをすべきである。

 

以上見てきたように、QAAの文書においても特に革新的、画期的な提言がなされているわけではない。要点としては、学習成果をしっかり認識し細分化した上で必要な評価を行うこと、データ処理やプログラミングなどは遠隔またはオンラインで実施できること、評価活動が重複することがないように教育プログラム全体での学習成果を考えること、実情に合わせて学内規則の範囲内で価方法の見直しを行うこと、であると考えられる。分野によりラボでの手技習得の重要性が異なるため、一概に代替措置はそぐわないこともあると考えられるが、本稿が何かしらの参考になれば幸いである。

 

オンライン教育が明らかにする大学教育の課題

高等教育開発・支援系/部門 吉永 契一郎

 

『現代思想』2020年10月号は、「コロナ時代の大学」という特集を組んでいる。コロナ対策が開始されて半年、大学教育に対する影響が明らかになると同時に、オンラインによる教育の新たな可能性も生まれつつある。ここでは、この特集で取り上げられたいくつかの論点について考える。

 

(1)教員の授業準備時間・学生の学習時間(両角 p.48)

日本の大学教員の授業準備時間が少なく、学生の学習時間が少ないことは、かねてから指摘されてきた。オンライン教育の導入によって、双方が長くなっているという事実は、これまで、学生の学習意欲に帰せられることが多かった短い学習時間が、課題をきちんと提示してこなかった教員にあることを明らかにしている(佐藤 p.78)。

オンライン・ツールの活用は、これまで、教員は情報を提供し、学生は吸収するという受動的な学習から、教員とやり取りを行い、学生が自ら課題に取り組むことによって学習内容を習得するという積極的な学習への転換を可能にした。これによって、今後、反転授業が進むと考えられる。課題としてあげられるのは、多くなった提出物に対して、教員からのフィードバックが十分行われていないことである。今後は、オンライン教育におけるTAの活用も必要であろう。

(2)授業コマ数(両角 p.53)

(1)をさらに考察すると、短い教員の授業準備時間・短い学生の学習時間は、必ずしも、個人の問題ではない。それは、授業開講・科目履修のあり方に関わる。アメリカの大学では、通常、1学期に3単位科目を、4科目履修するのに対して、日本の大学では、1クォーターに1単位の科目を12 科目履修するため、1つの科目に対して、深い教育や学習をすることが難しい構造となっている。これを機会に、週複数回授業を実現し、少数の科目を深く学ぶというカリキュラムを実現したいものである。アメリカ型の教育スタイルは、ヨーロッパの大学においても、講義・演習・実験を一体化したモジュールという形で実現しつつある。

日本において、週複数回授業を阻む要因は、非常勤講師の存在や週複数回授業に対する教員の抵抗である。また、週複数回科目を実現するためには、開講科目の精査が欠かせない。さらに、授業に対するサポートも必要である。アメリカにおいては、TAによるディスカッション・演習・採点も認められており、教員には、講義以外の負担がない場合もある。オンラインによる講義配信が定着した場合、このような分業体制は、さらに進展すると考えられる。佐藤は、教員の中でも、「スーパー講師」、「協同学習ファシリテーター」、「学習コーチ」という類型化が進むことを指摘している(p.80)。

(3)「課題多過ぎ」問題(佐藤 p.77)

オンライン教育導入以後、多くの大学で、「課題多過ぎ」問題や学生・教員の疲弊が指摘されている。これについて、佐藤は本来の単位制が実質化したまでであるという立場を取る。この意見は、妥当であると考えられるが、課題の多さ、授業外学習時間の長さが、そのまま学習の実質化・学習成果につながるわけではないことに注意する必要がある。既存の教育研究によれば、学習時間が長い=学習成果が高いとは必ずしも言えず、教育内容が整理されていない、課題が授業内容とマッチしていないという事例も報告されている。授業外学習時間は、あくまで、教育効果をあげるための手段であり、目的ではないこと、そして、課題の分量は、すべての学習活動を勘案した授業設計の一部であることに、留意すべきであろう。

(4)教育リソース共有(佐藤 p.89)

日本の大学は、非常勤講師に依存する一方、教育リソースに関しては、自前主義を貫いてきた。その上、財政的・経営的な観点から適性コマ数が分析されていない(両角 p.53)。しかしながら、コロナ後、大学役職者は、開講科目数が多過ぎるという意識を持ち始めている(両角 p.54)。ここでも、(2)と同様、開講科目の精選が必要であり、教員も学生も、少ない科目に労力を集中するというカリキュラム への転換が望ましい。

オンライン教育は、学生・教員の移動上の制約を取り払いつつある。そのため、標準的な内容を提供する教養科目を中心に、大学間の単位互換が、今後、進展すると思われる。講義配信の手法については、前期において、かなりの実績が生まれている。今後は、遠隔授業におけるアクティブ・ラーニングや双方向性の確立、期末試験の実施、TAによるサポートなどについて、ノウハウを蓄積することが求められる。現在、大学コンソーシアム石川においても、会員校間での単位互換を推進する計画がある。

(5)大学キャンパス(上野 p.132)

既存の講義室がアクティブ・ラーニングに適していないことは、以前から指摘されてきた。今後、オンライン教育が定着した場合、対面授業の役割は、オンライン教育では得られない学習経験ということになる。講義室については、さらに、演習、グループ活動への対応が求められ、固定机や大講義室の見直しが必要となるであろう。また、オンライン教育と対面教育が混在するようになった場合、大学内に、オンライン授業を受講するための環境整備が必要である。

また、オンライン教育が明らかにしたことは、対面による学生間の交流の重要性である。この点に関しては、これまでの大学設備は、教室が中心であり、ラウンジ、自習室、サークル室など授業外で学生が利用できる施設は限定されてきた。今後は、ラーニング・コモンズを講義棟に拡張することも考えらえれ、オンライン教育では実現のできない交流空間が生まれることを期待したい。

 

Q2を終えて、反転授業へ

高等教育開発・支援系 西山 宣昭

Q3の原則対面での授業が始まった。Q2までは、全回教室での対面の授業も一部あったが、多くはオンデマンド型あるいは教室での対面も含むオンライン授業が行われた。現在、当部門では、共通教育科目の学生による授業評価アンケートの集計作業を行っており、まだ集計途中で結果は出ていないが、Q2に教室で行われた少数の対面授業とオンラインで行われた授業との比較では、授業内容の理解度については対面とオンラインとは同等の傾向がみられるようである。一方、興味・関心が高まり、知識や技能が身に着いたことの実感を問う総合的な学修成果については、対面授業のほうが優れている傾向が出つつある。対面授業のクラス数が少ないため、昨年度の対面授業あるいはQ3以降の対面授業の結果との比較が必要であるが、予想できる範囲内の結果となりそうである。むしろ、授業内容の理解度が同等であることに注目したい。緊急的な教材作成が必要となったが、オンデマンド、オンラインという制約下で、学習内容を理解させたいという各教員の危機意識の中での努力の結果ではないだろうか。

今年度、当部門が企画・実施したFDで、多くの教員のオンライン授業の実践、課題が共有され、筆者も様々な工夫や優れたアイデアを知ることができた。特に注目したのは、オンライン授業から反転授業への発想の転換である。対面授業と同等の理解をオンライン授業によって得ることができるのであれば、「せっかく苦労して作った教材なので、来年度は反転授業をやってみたい。」「対面とオンデマンドのミックス型の授業形態を検討するうちに、オンライン教材を基調として、対面授業では質問や深い議論を行うという授業設計は、まさしく反転授業なのではないかと気づいた。コロナ禍で急場をしのぐという意味ではなく、アクティブ・ラーニングの一形態として今後も続けていけるのかもしれない。」といった意見であった。期せずして、獲得した知識に基づいて疑問を明確にする、問題を設定する、そして自律的な知識獲得の動機を与えるという知識基盤社会で求められる批判的思考力を養うための反転授業設計への契機となったのかもしれない。反転授業設計の鍵を握るすべての始まりである「問い」の設計がその成否を決めることになるであろう。

Q3は共通教育GS科目を担当している。GS「細胞・分子生物学」は、分子生物学の基礎の学習に続いて、遺伝子変異によって制御が破綻したシステムとしてがん細胞をとらえる2部構成となっており、細胞機能と遺伝子発現制御の関係を身に迫る問題として捉えさせようとしている。全クラス、共通の教科書に沿って授業が進められている。Q3は2クラスを担当し、全回教室での対面授業を行う。授業全体の概要を内容とする第1回「細胞とは」が終了した。代表教員からいただいている生きている細胞内でのタンパク質の移動や細胞分裂のビデオをまず見せて、巨大な化学反応システムである細胞が、どうしてこのような自律的な、そして現存する人工のシステムには決して真似のできない制御が可能なのか、不思議とは思わないかと切り出す。次週は、分子のエネルギーに導くために、「そもそも我々は何のために食べ物を食べているのか」と問おうと考えている。この「問い」は意図通りうまく機能するであろうか。

担当する1クラスのGS「科学技術と科学方法論」も第1回が終わった。本授業科目の開設当初から小グループごとのグループ討論と実験を主体とする授業設計がなされているため、今年度Q3はオンデマンド型ビデオと教室でのクラス全体の議論を併用する。オンデマンド型ビデオはすべて代表教員が作成されたものを転用させていただくこととなった。第1回のオンデマンド型ビデオでは、代表教員が、再現性/斉一性/実証性そして反証可能性が科学方法論の中心概念であることを概説し、これらについて深く考えさせるための身近な題材を用いた「問い」を提示した。受講生は各自考えをまとめ、webClassのコースに投稿を済ませている。これを受けて、筆者が教室において全体で議論を行う。今回、筆者はこのような反転授業を初めて試みることとなった。代表教員によるビデオ授業に対するミニッツペーパーでの反応を見ると、「科学とは何かに関連する質問自体はいたってシンプルなものであるのに考えるのに非常に苦労した。」と多くの受講生が「問い」について深く考えたこと、また、「オンラインとは思えないほど臨場感があって、とても面白かった。」「あと7回自分の中で新しい気づきをさらにできるのが楽しみだ。」など、学習意欲を高められたことが見てとれた。筆者が担当する次回の対面授業に大いにプレッシャーをかけられた形になったが、高められた期待や学習意欲を損ねないようにしなければならない。

反転授業への授業形態の変更によって本当にいい授業ができるようになるのであれば、来年度は本格的に試みてみたい。今年度、多くの教員が教室での対面授業とオンライン授業との併用を行っているはずであり、今後さらなるFDでの情報共有が望まれる。

 

ハイフレックス・ハイブリッド型授業の可能性と課題

高等教育開発・支援系 杉森 公一

 

後期からの対面授業の再開に向けて、国内外の大学がオンラインと対面を組み合わせて、低密度のキャンパス設計の工夫をはじめている。通常の対面授業に回帰するのか、それとも完全な遠隔教育に移行するのかは、前号ニュースレターで紹介した「秋以降の15のシナリオ(エドワード・J・マロニー、ヨシュア・キム著、大阪大学教育学習支援部にて共同監訳を公開中)」[1]と、同著者らによる「低密度の大学教育(Low Density University、未邦訳)」で議論されている[2]

同書では、時期・学生層・カリキュラム・教授法に分類される15の可能性を連続体上に配置している(下図)。

これは、ともすればオンラインか対面かの二分思考に陥りがちなところを、大学の立地や状況、学生の状況や教員の取りうる教授法の多様性に応じた選択肢(とその組み合わせ)が提起されており、本邦の後期授業の検討にも有効な題材と考えた。そこで、同記事を共同監訳した佐藤浩章氏とともに、緊急研究会「2020年後学期の15のシナリオ徹底検討~新型コロナウイルスに対応する”低密度な大学”の姿とは?~」を2020年8月18日にオンライン開催した。参加対象者は、教育担当副学長、学部長、学科長、教務委員長、教務職員、ICT教育・FD担当者、教員とし、実際にキャンパス再開に悩む大学関係者71名の参加者を得た。研究会では、杉森から話題提供「15のシナリオの背景」、佐藤・杉森の対談による解説の後、参加者によるブレイクアウト・セッションを経て、参加者がどの選択肢を採用したいかを考える契機とした。当日の解説については、YouTubeへ公開されている[3]。本研究会後の参加者アンケート結果(N=47)によれば、13.ハイフレックス・モデル、4.1年生限定モデル、12.低滞在時間モデル(上位3つ)を採用したいという回答が多く、また研修会後に、14.修正版チュートリアル・モデル、4.1年生限定モデル、10.モジュール制(上位3つ)への回答変更が見られた。この報告の詳細については、後日JAEDウェブサイト( https://www.jaedweb.org/ )へ掲載される予定である。

この中でも注目度が高い「ハイフレックス・モデル」は、対面・非同期・同期オンライン学習の混成(ハイブリッド)と学生が参加形態を自由に選べる(フレキシブル)を合わせた造語であるが、実施するためには課題も大きい。米国クレムソン大学の木原によれば、『新たに330台のカメラ等機材を購入し、教室への取り付け作業が始まっている。ただし、対面授業を行い、それをビデオで同時配信するということではない。反転授業や、対面の受講学生と遠隔での受講学生が対話的に参加できる方法など、授業形態や教授法の再構築が必要である。』[4] と、教員が設備・人的支援が乏しい状態で始めるのは大きな困難がある。筆者も、この10月から、共通教育科目、大学院科目でのハイフレックス授業を試行しているが、対面教室で受講する5名とのディスカッションを行いながら、オンラインで受講する10名からの意見を聴取する/オンライン投票やコメントを使いながらの双方向性を工夫しながら、教室カメラとマイク2系統を切り替える、など複雑なオペレーションを行う必要があった。教員・学生双方に負荷の高すぎない形で実施するためには、その授業の学修目標にあったオンデマンド教材と対面の適した組合せや、機材の購入設置・ビデオ会議システムの活用支援やTAのサポートなど物的・人的支援体制が必要となる。学年や学問分野、学域・学類の状況に応じて、キャンパスの低密度化という制約のもとで学生の学修の充実を図る授業設計の試行錯誤の延長線上に、新しい大学像が描かれることを願っている。

 

韓国における新型コロナ感染症に関わる大学の状況(その2)

高等教育開発・支援系 渡辺 達雄

 

この半年の間に、韓国の教育現場は一変し、大学の多くは講義と試験をオンラインに切り替えた。大学にとっても学生にとっても初めての経験であった。

韓国教育部は先日「デジタル基盤の高等教育革新支援策」を発表し、新型コロナウイルス感染症のため準備なしに進めてきた「遠隔授業」を、今後は大学の学事運営の新たな標準として確立するという。「デジタル基盤の高等教育革新支援策」は、新型コロナ感染症で一時的に緩和した遠隔授業関連の規制の完全撤廃を推し進めることがその主な趣旨となっている。後期に総単位の20%以内となっていた「遠隔授業運営基準指針」をなくし、各大学が学則を通じ自主的に定めることができるようにする。1学期に続き2学期も当分の間、全面的に「非対面授業」を行う大学は144校(全体の3分の1に相当)にのぼるということである。こうした教育当局の希望とは異なり、大学生の間では遠隔授業の質に対する不満は高い。1学期を通して講義室で授業を受けることができなかった学生の大半は、教育というよりはただの授業の真似にすぎなかったと指摘する。

「遠隔授業」に対する不満は、特に実習・実験・実技など、対面授業で効果が期待できる科目に集中している。理工系は実験・実習授業の比重が高いが、以前は学科ごとに設けられた実験室で実験を行いその結果を提出したが、オンライン講義では、動画で教授が実験する様子を見た後、課題を出すことしかできなかった。家などで課題を進めるための基本プログラムもまともに提供されなかったケースもあったという。芸術系の大学生たちは実習室に出入りできず、直撃を受けた。美術学部の場合、家で自分が描いた絵を写真に撮り、音楽学部の場合、演奏などを録音して教授に送る方式であったといい、実習スペースがないため課題を完成するために私費を投じた者もいたようである。実習授業が多い教育系学部・教育大学や医系の学部でも、程度の差こそあれ同様に困難な状況に陥っている。また地方大学の場合、オンライン講義を管理する学習管理システム(LMS)が十分に整備されておらず、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を活用して講義動画を掲載するなどの対応に迫られた。

実習・実験・実技授業と違い、理論中心の授業(講義)は良かったかというと、対面授業との質的な面で差が大きかったと口を揃える。テレビ会議アプリなどでリアルタイムで講義を進めたり、事前録画した講義動画をアップロードする場合が大多数であるが、教員側と学習者さらに学習者同士で必要な相互作用はほとんど期待できなかったという。特に、教員ごとの遠隔授業の力量の差が大きいことへの不満が大きい。一部の教授が10年前に撮った講義の動画をそのまま用いていたり、背景知識のない低学年生が何を言っているのか聞き取れないと授業をあきらめるケースも多く、ある大学では、遠隔授業が始まってからしばらく授業を行わず、期末試験直前に授業をまとめて行うという事例もあった。

一方で、教育当局や大学当局が適切な時期に指針を下さ(せ)なかったため、教員の立場からみても、授業運営、評価など、オンライン講義の責任が各教員にすべて任せられ。負担が大きかったのも事実であろう。また例えば当初は対面での試験を予定していたのに、感染症流行により急にオンライン試験へ替わり、相対評価の方針を絶対評価へと変えなければならなかったり、授業内容がきちんと伝わったのか、学生が今後の深化課程(専門課程・科目)についてこられるのか、今後のことを心配する声も多く挙がっている。

さらに対面なのか非対面なのかを決める過程で、授業を聞く学生たちの意見集約が行われていないとの指摘を投げかける学生もおり、またこれまでの大学教育の状況、たとえば学期ごとの受講申請競争や大人数での単純な知識伝達型の授業、就職率だけを目標や成果とする大学本部など、大学教育に対する不満が新型コロナをきっかけに増幅しているともされる。

大学側はオンライン教育システムの大々的な整備など新たに進めており。未来の教育のあり方に関する議論も活発化している。ある識者は、非対面を経験したことで対面式の授業の価値を実感できたとしながら、「(対面と非対面の)ハイブリッド式で進むことになるポストコロナの教育は、防疫指針が許す範囲で対面授業の重要性を生かす方向へ進むだろう」と論じているが、韓国の大学(教育)のポストコロナにおけるニューノーマルの醸成に大きく期待をしつつ、今後を見守っていきたい。

 

イベント案内

 

高等教育開発・支援部門では、部門FDセミナー・FD研修会をオンライン開催しています。詳細は、アカンサス・ポータルのメッセージからの案内や、当部門Webサイトのお知らせを参照ください。

 

Webサイト情報

金沢大学 国際基幹教育院
高等教育開発・支援系/部門金沢市角間町
金沢大学総合教育1号館
https://herd.w3.kanazawa-u.ac.jp

オンライン授業に関するガイド・リソースを随時更新中です。遠隔授業設計に関する情報、LMS(WebClass)マニュアル・ガイド、お役立ちリンク集などを掲載しています。ぜひ、ご覧ください。https://herd.w3.kanazawa-u.ac.jp/support/online/

 

 

[1] 「秋学期以降の15のシナリオ-ソーシャル・ディスタンス時代における高等教育-」根岸千悠・田尾俊輔訳、佐藤浩章・杉森公一監訳、大阪大学全学教育推進機構教育学習支援部、2020/7/13 https://www.tlsc.osaka-u.ac.jp/news/2020/07/15.html

[2] “The Low-Density University: 15 Scenarios for Higher Education”, Joshua Kim, Edward J. Maloney, Johns Hopkins University Press, 2020. https://muse.jhu.edu/book/77218

[3] 日本高等教育開発協会JAED緊急研究会「2020年後学期の15のシナリオ徹底検討【前編】~新型コロナウイルスに対応する”低密度な大学”の姿とは?~」、2020/8/18 https://youtu.be/ELGk0LiTueU (前編) https://youtu.be/viqt3_KHUGI (中編) https://youtu.be/mL-YShUZoPg (後編)

[4] 寄稿「広がるハイフレックス教育コロナ時代のアメリカ高等教育」、クレムソン大学理学部国際担当アシスタントディレクター木原由貴教育学術新聞第2809号、2020/7/08 https://www.shidaikyo.or.jp/newspaper/back_number/2809.html