【No.461】
授業デザインにもとづいた能動的学習、そして社会へ転移する統合学習へ

○●○ 授業デザインにもとづいた能動的学習、そして社会へ転移する統合学習へ ○●○

学生がどのような学習成果(ラーニング・アウトカムズ、以下LO)を身につけるか、教育のデザインを考える上では、教師の教育目標と学生の学習目標を確認し、90分の教室での学び(クラスルームLO)・1科目での学び(コースLO)・学域学類プログラムでの学び(カリキュラムLO)・教育機関での学び(インスティテューショナルLO)・教室外での学び(インフォーマルLO)に注目する必要がある。それらの学びに対して、達成するための教育学習内容と教育学習方法が媒介となって、学習成果の達成の測定・評価がなされ、学生と教師のそれぞれのリフレクションと自己評価を進める、学びのサイクルが前進する。大学教職員は、どのLOをいかに教えるかという授業デザインを組み立てることに重要な役割があり、学生の能動的学習を支援する立場に立つ。

6月29日に参加したAssociation of American Colleges & Universities (AAC&U) の評価担当副会長T. Rhodes博士による「ルーブリックワークショップ」および講演会では、ルーブリックの学習評価への適用、生涯にわたる学習への転移を目指す統合学習(Integrative Learning)に関する知見を得た。筆者は、大学におけるFD活動、アクティブ・ラーニング教室での初年次教育実践、リメディアル教育(生物学)での実践の中で、それぞれにルーブリックを作成し学生と大学教員と共有する試みを続けている。ルーブリックを用いれば、レポート評価に妥当性が生まれるのみならず、学生自身のリフレクションが促進され、教室外での自律的な学習活動にやがて転移していくことは経験的に感じている。ルーブリックの中で、実社会で求められる評価指標に近いキャップストーン(卒業時点に求める学習成果)を示すことが、真正の評価(Authentic Evaluation)[1]となり、生涯の学びに接続することまでも期待できる。

AAC&Uでは数十年の議論・対論からLearningのカテゴライズを行い、4つの基本的な学習成果(Essential LO)を定め、課題や変化に焦点を充てた学び(demonstrate)をコミュニティや現実社会での実践(engage)につなげることを試みている。この詳細は、堀井教授の報告による当センターニュースNo.449(AAC&UとLEAP)を参照いただきたい[2]。Essential LOの4番目に掲げられる統合学習の目指すものは、「環境と時間を横断した学習を統合するような学生の能力を育むこと」「個人生活、職業生活、市民生活の実践において学識に基づいて判断できるように準備する性質を持つ」[3]ことであり、学生が教室内外において、様々なアイディアや経験を関連づけることで、より複雑な状況に総合し転移させることにある。これは、基礎と応用、学校と臨床、教養教育と専門教育、プロジェクト・パフォーマンスと現実世界、などの統合でもある。

AAC&UはEssential LOの達成のためのVALUEルーブリックを構成する語句にも、統合学習の特質を明記している。抜粋すると、生涯にわたる学習への自信、多科目との接続と関連づけ、フォーマルな学習とインフォーマルな学習の間の壁を取り除きながら学ぶ、自己評価や省察的な学びによる表面化、深い理解(deep learning)に向けた理論と実践の関連づけ、などである。大学生活を通した学びの連続性とその統合は、実社会への架け橋として、大学卒業時までにポートフォリオのような形で形成的に評価することで、達成可能にはなる。

では、統合的な学習と教育を金沢大学で実践するにはどうしたらよいのだろうか。自大学の文脈に合わせた統合化のプロセスを考えることが必要であるし、共通教育・学域学類・大学院といったフレームが制約としても強みとしても存在する。教養教育と専門教育をつなぐ観点では、日本での実践例の一つに筑波大学の総合科目「現代人のための統合科学」がある[4]。3科目3単位の入門的講義科目では、主に文科系学生を対象に、科目横断(物理学や化学などの科目ごとに単元を振り分けない)的な科学リテラシー教育の実践を試みている。これはAAC&Uや全米科学教育スタンダード[5]の提唱する統合科学の流れを汲むものである。筑波大学では教養教育の中心としてアラカルト的な総合科目群が用意されてきたが、学群・学類制度を活かす学際的科目の実行は簡単では無い。学類を横断するメンバーによる「コアサイエンス研究会」が科目新設にあたった過程も参考になろう。さらに、大人数講義において双方向型の科学教育をどのように可能とするかにも注意を払っている。アクティブ・ラーニング手法として、三面スクリーンによる画像の多用、クリッカーの導入、eラーニングシステムの導入(金沢大学のアカンサス・ポータルに対応)、討論の導入の4点を、大規模化を念頭にティーチング・アシスタント(TA)による授業支援を前提として実施している。

統合的な学びを双方向で進めることで獲得される、実社会でも発揮可能な汎用的能力群(キー・コンピテンシー、社会人基礎力)は、実は伝統的には卒業研究・ゼミナール活動を通した卒業論文指導によって培われてきたものである。双方向の能動的学習でさえ、研究室コミュニティでの徒弟的でオーダーメイドな文化継承の過程がまさに究極のアクティブ・ティーチングでありアクティブ・ラーニングと言える。OECDの提案する学習の質を向上する原則と方法論[6]、物理教育から発している双方向のピア・インストラクションと探究的学習[7]、注目される実践は国内外で現在進行しているが、何より、我々がそれぞれの学問領域で持っている固有の研究者自身の学習・研究の経験を持ち寄り、大学の文脈に沿ったスタンダードを議論し統合する過程[8]にこそ、高い価値がある。同僚のスタッフ、学生とともに目指す教育と学習を創る、険しく挑戦的な道の途上に我々は立っている。

(文責 教育支援システム研究部門 杉森公一)

 

○●○第14回FD研究会(外国語教育研究センター 共催)のお知らせ○●○

日時:7月30日(火)14:45~16:15   場所:角間キャンパス・総合教育1号館(2F)会議室

タイトル:語学に特化した「学生による授業評価アンケート」の集計結果

報告者:小林 恵美子(外国語教育研究センター)  杉村 安幾子(外国語教育研究センター)

要旨:外国語教育研究センターでは、本学の教育の質の向上を目指すFD活動の一環として、語学に特化した「学生による授業評価アンケート」を平成24年後期に実施しました。本研究会では、英語科目と初習言語科目に分けて集計結果を報告します。その結果に基づき、学生の授業の受け止め方(意識)を把握し、今後の授業改善点、さらには改善を支援するために共通教育機構および大学が整備しなくてはならない教育環境や制度について議論したいと思います。

 

 


[1]真正の評価は、「複雑な現実世界の文脈の中で、創造性に富んだ課題を解く学習活動の過程に関する評価」と定義され、現実に起こりうるような状況や文脈の設定が行われる(日本理科教育学会、「今こそ理科の学力を問う」、東洋館出版社(2012)p.230)。学校知は、現実に近い状況で試されてこそ真正性を帯びる。医学教育で、設定された患者像(paper patient)を探究するProblem-Based Learning、模擬患者に対して実技試験を行う客観的臨床能力試験(ObjectiveStructured Clinical Examination; OSCE)が実施されているなど、成功事例であろう。

[2]堀井祐介、「AAC&UとLEAP」、週刊センターニュース、449(2013)http://herd.w3.kanazawa-u.ac.jp/news/2013/201304_449.html

[3]M.T. Huber & P. Hutchings, Integrative Learning: Mapping the Terrain, AAC&U (2005)

[4]小笠原正明ら、「現代人のための統合科学」、筑波大学出版会(2012)

[5]National Research Council(長洲南海男 監修、熊野善介・丹沢哲郎 訳)、「National Education Standards(全米科学教育スタンダード―アメリカ科学教育の未来を展望する)」、梓出版(1996=2001)

[6]OECD教育研究革新センター 編著(立田慶裕ら訳)、「学習の本質」、明石書店(2010=2013)

[7]E. F. レディッシュ(日本物理教育学会 監訳)、「科学をどう教えるか」、丸善出版(2003=2012)

[8]当センター主催の各種研究会http://herd.w3.kanazawa-u.ac.jp/research/、最近立ち上げられた先端科学イノベーション推進機構内のe教育サロン http://www.facebook.com/edusalon、アカンサスFD(学内限定)など、多くの機会をご活用ください。