【No.457】
「障害を理由とする差別の解消の促進に関する法律」成立と大学教育の質保証-障がい学生支援のグローバル・スタンダード-

○●○「障害を理由とする差別の解消の促進に関する法律」成立と大学教育の質保証-障がい学生支援のグローバル・スタンダード-○●○

6月19日、「障害を理由とする差別の解消の促進に関する法律」(障害者差別解消法)が成立した(施行は2016年4月1日)。障害者権利条約の批准に向けた国内法整備の一環で、改正障害者基本法(2011年)において障害者への差別禁止が定められたことを受け、差別解消策を具体化するため制定された。教育を含む各領域で障害者差別が今も存在することを認めた上での法律である。

おりしも、14日に閣議決定された「第2期教育振興基本計画」では、第1期にはなかった大学における障害学生支援が明記され、「高等教育段階においては、障害のある学生の在籍者数が平成23年には1万人を超え、各大学等においては受入れや修学支援体制の整備が急務となっている」「意欲・能力ある障害者の高等教育における修学機会の確保に向けて、支援する」とされた。初中等教育における特別支援教育の一層の充実とともに、今後、大学等の障害学生支援が文部科学省の政策において重視されることになる。そのようなもとでの障害者差別解消法の成立、そして3年後の施行である。これらが高等教育機関(特に国公立の機関)に与える影響は極めて重大である。

 筑波技術大学の白澤麻弓准教授は「聴覚障害学生支援の現状と展望(上)」(週刊教育資料、5月27日号)で、障害学生支援におけるパラダイム転換が今始まっていると指摘する。すなわち「個々の大学の『自主性』に任せられてきた障害学生支援が、かっこたる法的裏付けをもった義務へと変貌を遂げようとしており、これを遂行することが大学にとっての『コンプライアンス(法令遵守)』になる時代が訪れようとしている」という。法律成立の本質的意義を的確に示す一文である。

 障害者差別解消法は規定する。「第7条 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。2 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。」

 国立大学・公立大学および国立高専は、法律第2条が定義する「行政機関等」に含まれ、第7条2項は法的義務となる。一方、私立の高等教育機関は、第8条2項「事業者は・・・必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない」との規定により、努力義務にとどめられている。

 そもそも国立大学は、国立大学法人法第22条「国立大学法人は、次の業務を行う。一国立大学を設置し、これを運営すること。二 学生に対し、修学、進路選択及び心身の健康等に関する相談その他の援助を行うこと」との規定のもと、修学支援・相談を主要な法人業務として義務付けられており、その学生の中に障害学生が含まれることは当然のことである。

白澤准教授は、昨年末に出された文部科学省高等教育局「障がいのある学生の修学支援に関する検討会報告(第一次まとめ)」の検討会委員であったが、この報告は、「各大学等は、受入れ姿勢・方針を明確に示し、それに加え、入試における配慮の内容、大学構内のバリアフリーの状況、入学後の支援内容・支援体制(支援に関する窓口の設置状況、授業等における支援体制、教材の保障等)、受入れ実績(入学者数、在学者数、卒業・修了者数、就職者数等)をホームページ等に掲載するなど、情報アクセシビリティに配慮しつつ、広く情報を公開することが必要である。また、利用者の利便性の面等から相談窓口の統一や障害学生支援担当部署を設置することが必要である。」「国は、より多くの大学等でこれらの取組が行われるよう促進すべきである。また、国のこうした促進策を踏まえ、大学の認証評価においても、各大学等における情報公開及び相談窓口の整備状況について考慮されることが望まれる」と、高等教育機関と国のそれぞれに対して、指摘していた。

文部科学省は、国立大学に、国立大学法人運営費交付金(一般運営費交付金)として、「各大学における障害者の受入れ方針や相談窓口、入学後の支援体制等に関する情報発信を促進し、障害者の受入れに当たっての入学前相談や学内外の連絡調整機能の充実を図るため、既に障害のある学生への支援を専門的に担当する部署を設置し、その部署に専属の教職員を配置している大学に対し、これらの充実に係る教職員の配置に必要な経費」(教員経費1名分)を用意し、支援促進のための対応を始めている。今年度も各国立大学に状況調査票の提出を求め、「障害学生支援室」など専門的に担当する部署の有無、そこへの専任の教員と職員の配置等に関し尋ねている。障害学生支援は片手間の業務ではなく専門の部署が必要で、専門的知識による支援が不可欠との認識からである。

では、法律がいう「障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合」の「除去の実施について必要かつ合理的な配慮」とは具体的に何なのか。障害者差別禁止法制化は、アメリカでAmericans with Disabilities Act of 1990が制定されたのを皮切りに国際的な流れとなり、障害者権利条約は、「平等を促進し、及び差別を撤廃することを目的として、合理的配慮が提供されることを確保するためのすべての適当な措置をとる」(第5条第3項)と定めた。「障害を理由とする差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む。)を含む」とし、「合理的配慮」は、「障害者が他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」(第2条)と定義されている。かつて法律により聴覚障害者が医師や薬剤師になれなかった(大学の当該専門教育から排除されてきた)日本は、障害学生支援においてこそアメリカ等のグローバル・スタンダードに学ぶべきである。

教育振興基本計画は、昨年8月の中教審答申「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」を踏まえたものである。教育の質、それも国際的な質の保障という以上、障害学生への授業情報保障を中心とした「合理的配慮」の体制整備が前提となる。それが実現しないまま大学教育改革が進めば、障害学生が学習・研究する権利そのものが脅かされ、不利益な状態が放置され、さらに拡大してしまうおそれすらある。授業外学習時間をめぐる議論も、授業時間における学生の学習が十分担保されてのことである。グローバル人材育成は、障害学生支援のグローバル・スタンダードに則った学校教育の中で行われねばならず、障害学生もまたグローバル人材として期待される。

大きなパラダイム転換が始まる。障害学生支援情報を公開していない、専門家が対応する相談窓口や障害学生支援担当部署も無いような、つまり差別を温存した法律違反の高等教育機関は、認証評価に耐えることはできず、退場していくしかないであろう。ことは公教育における人権問題であり、言い訳はゆるされない。そんな時代である。(文責 教育支援システム研究部門 青野 透)