【No.456】
初年次教育と、学習支援・リメディアル教育・初等中等教育を接続するには

○●○ 初年次教育と、学習支援・リメディアル教育・初等中等教育を接続するには ○●○

大学進学率の増加を背景に、大学を含む高等教育機関は多様な能力の新入生を受け入れる状況となっている。大学教育改革の流れの中で「学生主体の学びへの質的転換」のための学修成果の評価とアセスメントが求められており、高大接続を捉え直しつつ、初年次の大学生に対する学習支援および学生支援に力を注ぐ必要性がある。その1つの方策であるリメディアル教育は「大学教育を受ける前提となる基礎的な知識等を身につけさせる教育。補習教育とも呼ばれる。」[1]ように、主に正課外の教育活動であり、大学生活へと移行させる導入教育・初年次教育、卒後の職業生活へ接続するキャリア教育とは、学士課程教育の内と外に分けられ概念整理がなされている[2]。さらに、大学の入口から出口までの質保証(図1)を捉えるにあたって、リメディアル教育と初年次教育の前後を結ぶ、入学前教育などを含む高大接続と連携、入学後の個別的/組織的な学習(修)支援、障がい学生支援を含む包括的な学生支援が、各大学の文脈のもとで展開されるようになっている[3],[4]

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筆者による医療・保健系学部でのリメディアル教育の事例[5]では、卒業時に国家試験合格が必須であるため、一部の理数系科目を高等学校段階で履修してきていない学生には早い段階からの基礎固めが求められる。正課内では、修学担当教員(アドバイザー教員にあたる)が担当する初年次導入科目によって、学習スキル(レポート作成法、図書館活用など)修得を支援する。また、修学担当教員による個人面談や一人一人の学修状況の把握は、入学直後からの講義への動機付けを高める上で効果を上げている。これに、入学前準備学習とその成果把握、入学時のプレースメントテスト(日本語能力、英語・数学・理科の基礎学力)による入学時能力把握・成績の推移の分析結果の共有を合わせることで、初年次教育・リメディアル教育・入学前教育・学生支援が連携・接続した新たな包括的支援が生まれる可能性がある。

大学入学者の各種プレースメントテストとリメディアル教育・他科目の成績を紐付けることは、正課の科目間連携やカリキュラムのチェックにも有用な情報を与える。これは、成績データ分析による教学IR(Institutional Research、機関調査)の一種であろう。教学IRとは、「大学における諸活動に関する情報を収集・分析することで大学の質の向上を支援し、外部に対して説明責任を果たす活動」[6]だが、学修支援センターでのデータ分析[7]や大学組織としてIR戦略室を持つケースが多い。対して、本稿での学部単位で行われるIR事例は、教員自身が教育活動から得たデータを持ち寄り、学生の生活状況といった質的な情報も裏付けとしながら行う分析であり、問いを持つアクター自身が行う戦略策定であるミクロ・レベルIR [8]とも呼べる。日々の学生の学びの姿を教員一人一人が再発見する、ボトムアップ型の実質的FD活動とも捉えられよう。

学士課程を通したディプロマ・ポリシーの達成には、悉皆的な学習到達度評価による教員と学生の学びの振り返りによって、マクロな視点からのカリキュラム整合性の検証と評価が問われる。しかしながら、教員が既に持っている資源=成績データ[9]と日々の学生の観察といった、ミクロな客観と主観を持ち寄り「分析」することによっても、明日からの教育学習活動が新しい創造性を持ち、いま眼前にいる学生たちの成長を支える推進力を帯びてくるのである。

(文責 教育支援システム研究部門 杉森公一)

 

○●○第11回FD研究会・第12回評価システム研究会開催のお知らせ○●○

日時:6月25日(火)16時30分~18時00分場所:総合教育1号館1階小会議室

テーマ:「医療・保健系大学における初年次導入教育・リメディアル教育の実践と展望」

報告者:杉森公一(大学教育開発・支援センター・准教授)

趣旨:医療・保健系大学においては、卒業時に国家試験合格が必須であるため、専門教育への接続のために入学前後から初年次にかけての早期からの基礎固めが求められる。今回は、生物学の自習用教材を用いた入学前準備学習とその成果把握、入学時プレースメントテストによる学力の推移のような学部レベルでの機関調査(IR)活動によって、入学直後からの動機付けを高める工夫についての実践例を報告し、初年次導入教育・リメディアル教育の展望について議論する。

 

 


[1]中井俊樹・上西浩司、「大学の教務Q&A」、p.163、玉川大学出版部(2012)

[2]濱名篤、「日本の学士課程教育における初年次教育の位置づけと効果—初年次教育・導入教育・リメディアル教育・キャリア教育—」、大学教育学会誌、29(1)、36-41(2007)

[3]日本リメディアル教育学会、「大学における学習支援への挑戦 リメディアル教育の現状と課題」、ナカニシヤ出版(2012)

[4]谷川裕稔ほか、「学士力を支える学習支援の方法論」、ナカニシヤ出版(2012)

[5]杉森公一、「私立大学におけるリメディアル教育の実践と課題(上)(下)」、週刊教育資料1219号・1221号(2012) 当センター所蔵

[6]中井俊樹・上西浩司、「大学の教務Q&A」、p.157、玉川大学出版部(2012)

[7]新井正義・遠山紘司、「大学におけるリメディアル教育」、大学教育学会誌、27(2)、107-110(2005)

[8]ここでのミクロ・マクロの定義は、佐藤浩章らによるFDマップおよび高等教育開発の3×3モデルに従っている。能力開発の対象者をミクロ(教員個人)・ミドル(学部・学科)・マクロ(全学)に分けており、それらによる教育活動をミクロ・レベル(授業・学生指導)、ミドル・レベル(カリキュラム・プログラム)、マクロ・レベル(組織・制度・規則)のマトリクスで描くことが可能である。本稿での「ミクロ・レベルIR」は、教員個人が授業・学生指導から得た成績データと経験を出発点とするという意味で「ボトムアップ」型に位置づけた。

[9]成績データは、期末テストのように学期最終に行われる総括的評価のみにとどまらない。ブルームによる学習成果の分類=ブルーム・タキソノミーによれば、認知的領域(知識・理解、思考・判断)、情意的領域(関心・意欲、態度)、精神運動的領域に大別される。後に改定された認知的領域の分類は、記憶・理解・応用・分析・評価・創造の6段階が提唱されている。学習成果は、ペーパーテストで測ることができるものだけでなく、レポートや実技・作品などによっても、形成的に評価できるものであり、学生の学びに注目する教育評価は多面的な情報として得ることが可能である。そうした「直接評価」と、学生生活のような「間接評価」を合わせて分析することが、教学IRとして分析・戦略立案につながる。