【No.455】
学習成果測定結果の活用について

○●○ 学習成果測定結果の活用について ○●○

大学教育の内部質保証に対する要求が高まる中で、各大学はそれぞれ独自のやり方でその仕組み作りに努めている。内部質保証という用語自体、多義的であるものの、「機関の一連の活動に関する質の監視と向上に用いられる大学内部の仕組み」として、例えば(近年注目されるあるものを挙げると)、共通教育・教養教育のモジュール化や科目必修化などの手法で、コアカリキュラムを形成し、CP/DPとの関係も含め、教育目標や学習成果の体系化と可視化をねらっているところがあったり、学士課程教育全体にわたり、教職協働にもとづき、目標や情報を共有した上で、有効なカリキュラム・マネジメント体制を構築しようとしているところもある。あるいは、教育コーディネータなどをおいて学部と執行部との意思疎通をスムーズに行い、また各種・各層(ミクロ・ミドル・マクロ)の能力開発プログラムを設け、構成員のそれを高め教育改善に寄与するやり方をとるなどしている。

上記のいずれの場合でも、しかし「機関内にある様々なデータをどう収集し、意味ある情報に変換し可視化し、執行部・教職員・学生など内部質保証のアクターと共有すること」が重要になってくる(鳥居ほか、2013)(1)。さらにそれらのデータをいかに教学改善や学習支援に活用い、またFDと連携させていくかもポイントになってこよう。教育改善が不可欠であることは理解・共有されているが、客観的なデータに基づいて行うというよりも、教員個人の主観・経験知により現状認識し、そのため、具体的な行動に結びつかない可能性も出てくる。

アメリカから日本に輸入され、それに期待が高まっているものの一つとしてのIR(institutional research)について、関連の研究では、IRを設置する大学で共通のIR業務として、外部への説明責任として連邦政府や適格認定団体への報告や学生納付金にかかる情報収集などがあり、学内の改善として、各種の在学者管理(履修コース登録の分析や、進級率、満足度調査など)や、財務分析・競合校との比較分析(ベンチマーク)、主要実績指標の作成・提供に加え、学習成果の測定・分析に携わっている。それらの中で、最後の学習成果の測定・分析については、定義と解釈が教員間でも、また執行部や教授会といった意思決定機関間で違いがあり、問題の捉え方が異なってくるために、正確(適切)な答を提示することが難しく、IRによる意思決定支援には限界があることが指摘されている。

 限界を認識した上でも、学習成果測定の結果の活用は鍵になる部分である。この点で立命館大学の近年の取り組みは興味深いところである。

 これまですでに実施されている各種の調査では全体の集計・分析を行い、フイードバックされてはいるものの、「個別のデータ」を学生や教職員に提供し、学生ならば学習上の問題に気付かせることに、また教職員に対しては学生個人の指導のための資料として有効に活用させるところには至っていないことが課題として認識されている。

 一部の学部において、キャリアチャートを使用し、学生自身が将来の目標や資格試験など実績の記入を行わせ、これらの資料にもとづき全学生対象に個別面談を行っているが、より客観的に学生の現状を知るための資料の必要性を認識し、IR部門に対し要望がなされた。

 そこで、IR部門として、「学びのあしあと」という名称の学習成果測定で得られた正課授業での学生の成長感(34項目、2年次および3年次、レーダチャート形式)と、各学年次でのGPAを収集し、それらのデータ間の関連も含め、分析した結果をフイードバックしている。このとき、IR部門側からは(データの開発・提示・分析方法など)可視化の洗練化に努めようとし、また学部や教職員側からはそれらを活用して、キャリアチャートとのつながりの可視化であったり、成長感の指標の(個別面談・指導など)の説明の追加を行うよう努めており、こうすることで、IRと学部の連携を進めていこうとしている。

 現場では教員にしても、学生にしても、十分には生かしきれていないとの反応もあるが、意外な面への気付きができたとの評価も得ているようである。

 いずれにしても学習成果測定で得られたデータを個別に学生へフイードバックする新しいルートを形成し、多様な集団(組織)内で学生個人の位置を知りうる方法を開発していると評価することができるであろう。

以上述べてきたが、データ収集・活用にかかわって、意思決定者によって、見過ごされたり、やり過ごされたりせずに、地道に共通認識の形成に向け、組織情報を活用していくよう地道に努力を積み重ねていかなければならないであろうと考える。

 

注(1)鳥居朋子・八重樫文・川那部隆司「立命館大学の教学マネジメントにおけるIRの開発と可視化のプロセス」『立命館大学高等教育研究』第13号、2013年

(文責 評価システム研究部門 渡辺達雄)

 

○●○ 新着資料のお知らせ ○●○

大学教育開発・支援センターに、全国の大学や大学教育センター等から各種報告書が届いております。また高等教育関連図書を購入しています。図書資料は、図書室(総合教育1号館6階613号室。センター共同研究室向かい)に所蔵しております。ご関心のあるもの、参照したいものがございましたら、お貸しすることができますので、ご連絡いただければ幸いです。

・稲垣忠ほか編著『教師のためのインストラクショナルデザイン 授業設計マニュアル』北大路書房、2011年

・L・ディ・フィンク著、土持ゲーリー法一監訳『学習経験をつくる大学授業法』玉川大学出版部、2011年

ノエル・エントウィスル著、山口栄一訳『学生の理解を重視する大学授業』玉川大学出版部、2010年
・中留武昭『大学のカリキュラムマネジメント:理論と実際』東信堂、2012年