【No.452】
科学研究費補助金による研究「学習意欲を高める授業科目が教育成果全般に及ぼす影響とその評価」を終えて-その2-

 

○●○科学研究費補助金による研究「学習意欲を高める授業科目が教育成果全般に及ぼす影響とその評価」を終えて-その2-○●○

 標記科研は2008年度から2012年度の期間での実施であった。スタートの年の12月24日、中教審答申『学士課程教育の構築に向けて』が公表された。その「現状と課題」の冒頭で「初年次における教育上の配慮」と題され、次のように指摘されていた(35頁、下線引用者)。

新たな学校段階への移行を支援する取組として,初年次教育への注目も高まってきている。初年次教育は,「高等学校や他大学からの円滑な移行を図り,学習及び人格的な成長に向け,大学での学問的・社会的な諸経験を成功させるべく,主に新入生を対象に総合的につくられた教育プログラム」あるいは「初年次学生が大学生になることを支援するプログラム」として説明される。

アメリカの初年次教育は,主体性や意欲の乏しい学生への対応策として考案されたものである。その取組が中退を抑止する上で有効な役割を果たすとともに,その後の大学生活への適応度を規定している。我が国の大学においては,初年次教育として,「レポート・論文などの文章技法」,「コンピュータを用いた情報処理や通信の基礎技術」,「プレゼンテーションやディスカッションなどの口頭発表の技法」,「学問や大学教育全般に対する動機付け」,「論理的思考や問題発見・解決能力の向上」,「図書館の利用・文献検索の方法」などが重視されている。

今後,学部・学科等の縦割りの壁を越えて,充実したプログラムを体系的に提供していくことが課題となる。

 「入学者の在り方も変容しており,総じて,学習意欲の低下や目的意識の希薄化などが顕著となっている。大学教員を対象とする調査によれば,6割を超える教員が『学力低下』を問題視し,特に論理的思考力や表現力,主体性などの能力が低下していると指摘している」とした上での記述である。中教審のこのような指摘を先取りする形で標記科研に取り組んだ次第である。

 学生の学習意欲について中教審が言及したのは、この時が初めてではない。中教審答申『我が国の高等教育の将来像』(2005年1月28日)では「教養教育に携わる教員には高い力量が求められる。加えて,教員は教育のプロとしての自覚を持ち,絶えず授業内容や教育方法の改善に努める必要がある。入門段階の学生にも高度な知識を分かりやすく興味深い形で提供したり,学問を追究する姿勢や生き方を語ったりするなど,学生の学ぶ意欲や目的意識を刺激することも求められる」と指摘されていた。『学士課程教育の構築に向けて』答申では初めて、学習意欲向上を目的に据えた初年次教育のプログラムの充実・体系化を明確に打ち出したわけである。さらに昨年の中教審答申『新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~』(2012年8月28日)において、学修(学習)意欲の重要性の強調が続いている。

 周知のように、本学でも初年次教育に力を入れている。Webでは次のように紹介されている。

「金沢大学に入ってまず学ぶのが共通教育です。3学域のすべての学生が,総合教育棟に集まって,ともに学び,交流します。ここで学ぶ約1年半は,専門を深めるための,また社会へ羽ばたいていくための,基礎と人間性をやしなう貴重な時間です。共通教育には,多彩な科目や授業形態が用意されています。自分の将来を考えながら,さまざまな授業を受けてみましょう」「共通教育科目の目標 大学の教育全体の基盤となるべき知識・技能及び教養を身につけるとともに,幅広い専門外の知識や現代的な教養をも備えて,これからの時代にリーダーシップが発揮できる人材の育成を目指しています。この教育目標を達成するために,共通教育科目には4つの大きな科目区分(全学共通科目,総合科目・テーマ別科目,一般科目,言語科目)が設けられています」「大学生活のスタートをサポートする導入科目 大学生活のスタートはとかくとまどいがちなものです。これをサポートし,大学生活を軌道に乗せる役割を果たすのが,全学共通科目のなかの導入科目です。これには,大学生活の基礎から現代教養や将来設計までの幅広いレクチャーを受ける「大学・社会生活論」と,自発的な学習能力の基礎を身につける「初学者ゼミ」があります。」「導入科目 新入生ができるだけ早く大学のあり方に慣れ,大学生らしい学習態度・生活態度を身につけて,将来を見据えながら充実した大学生活を送れるようになることを目的とした授業科目です。導入科目には,大学生活の基礎から現代教養や将来設計までの幅広いレクチャーを受ける「大学・社会生活論」と,自発的な学習能力の基礎を身につける「初学者ゼミ」があります」

 こうした本学での初年次教育がどれほど学生たちの学習意欲を高めているのか、それが標記科研で知りたいことの重要なポイントの一つであった。

2008年~2011年にかけて、毎年6月、本学ポータルで新入生に学習状況について尋ねた。その中で、「(学習意欲向上への影響) 学習意欲向上について、以下の項目とその影響について、それぞれ、当てはまるものを選択してください」と問うている。その回答のうち、2008年度と2011年度の比較で、顕著な伸びを示した項目がある。

 まず、全学共通教育科目『大学・社会生活論』である。2008年度新入生では「良い影響が大いにあった」+「良い影響が少しあった」との回答が23%だったのに対し、2011年度新入生は41%となった。この科目は「オムニバス形式でさまざまな内容の講義が学類ごとに行われます。いくつかの講義内容については,eラーニングを利用して授業が行われます。講義内容は,図書館の利用法,大学の使命・学類の使命,大学における学習方法,ハラスメント,環境論(環境問題の基礎),人権論,健康論,薬物論,消費者被害に遭わないために,留学と国際交流,ボランティアと地域貢献,企業倫理(技術者倫理),就職・進学論,学問論,大人の交通マナー,医学倫理,新聞から学ぶなどがあります」と共通教育機構Web で紹介されている。細かな検証はできていないが、2006年度に始まったこの科目が、担当教員たちの授業改善により一定の効果を示してきていると考えられる。

次に、同じく全学共通教育科目『初学者ゼミ』である。2008年度新入生では「良い影響が大いにあった」+「良い影響が少しあった」との回答が33%だったのに対し、2011年度新入生は48%となった。この科目は、「少人数クラスに分かれ,大学生としての自己表現能力,学習デザイン能力,科学的な思考方法を育成する授業科目で,ディスカッションやプレゼンテーション,課題発見・調査,レポートの提出などを行います」と同様に紹介されている。既に東北大学をはじめ、多くの大学で学習意欲向上に効果があるとされてきた初年次ゼミが、本学でも定着してきたことになる。

両科目とも学期半ばでの1年生の感想である。これらの科目における学習意欲向上効果が、その後持続しているのか、最終的に卒業時における学修成果につながっているのか、各学類のカリキュラム評価の中でも検討が必要とされるであろう。(文責 教育支援システム研究部門 青野 透)