【No.450】
学習成果とNCS・NQF―韓国での取り組みを中心に

 

○●○ 学習成果とNCSNQF―韓国での取り組みを中心に○●○

 教育活動にあって各段階の学校でこれらの内容は最低限身につけてほしいという(学力)基準や標準的なカリキュラム等が設定され、国家間のグローバル競争が激化する環境の中で、その重要性はいよいよ高まってきている。小中高校では学習指導要領で学習内容が事細かに決められ(いわゆるナショナル・カリキュラム)、教育の質を維持する有効な装置となっている。一方で大学は、(各専門分野の)研究教育活動の自由(自律)や、組織の成り立ち等その固有の性格も影響して、上記のような装置は必ずしも必要とされなかった。しかし、最終的な教育段階として教養ある市民を育成するのみならず、高度な専門人材を輩出する役割を社会からそして企業から強く求められる中にあって、大学も例外ではなくなってきている。欧米を中心に着々と整備されつつある国家資格枠組(National Qualification Framework)や英国における学科目ベンチマーク・ステートメント(注1)などはその代表的な事例といえる。日本もこうした潮流に呼応するように、例えば各大学でディプロマポリシー・カリキュラムポリシーの策定と公開がなされたり、最近では日本学術会議(大学教育の分野別質保証の在り方検討委員会)から分野別の参照基準が主要分野を中心に提示されてきている。それらをどう参考にし、各大学が具体的に自律的に教育課程を編成し改訂していくかは今後の課題ではある。

 前置きが長くなったが、隣国の韓国においては現在急ピッチで、国家資格枠組(韓国資格枠組)および国家職務能力基準(National Competency Standards)を制定し、それらを実質化するためのさまざまな環境整備が進んでいる。後者の国家職務能力標準を簡単に説明すると、産業現場で職務を遂行するために要求される知識・技術・素養などの内容を国家が産業別・水準別に体系化しまた資格化することで人材養成と(企業からの)採用にあって活用できるようにするものである。日本では、企業側の観点から大学における学修により身につけてほしい能力として「社会人基礎力」が経済産業省を主管として推奨され、関連の取り組み(コンテスト)も実施されてはいるが、上記の枠組・体系の必要性は論じられているものの、まだ具体的な動きには至っていない。

 どの種類の資格が職務遂行能力の向上に役立つのかの目印となることで、個人の学習を持続的に促進することが可能となるキャリア開発のステップを理解させ、各教育段階及び国家資格・民間資格間の能力・知識の関連性を意識しながら、必要に応じて個々人が能力を育成できる。また類似の教育訓練課程を重複して履修することで生じる学習ロスを除去することが可能になるほか、韓国が強力に推し進めている生涯学習の観点から、正規教育機関外での非形式(non-formal) 学習や経験に対する認定もできるといったメリットもある。

 少しその内容を見ていくと、国家職務能力基準を基盤とする教育課程の編成や運営が、具体的に100校の特性化高校およびマイスター高校(いずれも韓国政府が推し進める職業特化教育機関である)で進められており、また半導体産業や自動車産業など一部の分野をコアに専門大学(職業教育中心の短期高等教育機関)や4年制大学合わせて10数校でも教育課程開発が進められてきている(2005年より)。学校関係者そして企業(人事)からの評価も少しずつであるが高まってきている。これを基礎に各高等教育機関までどう活用し普及させていくか(産学連携の視点も取り込みながら)が重要になってくると考えられる。

 

表 韓国資格枠組と国家職務能力標準と業務水準

職務水準

NCS資格

KQF

最小単位

履修時間

水準

管理/事務職

技術職

専門職

学歴

 

 

8

高級管理職

KVQ8

博士

120

3600

7

中級管理職

高級技術職

高級専門職

KVQ7

碩士(修士)

60

1800

6

初級管理職

中級技術職

中級専門職

KVQ6

学士

30

900

5

中間実務職

初級技術職

初級専門職

KVQ5

専門学士+1年

30

900

4

実務職

単純技術職

準専門職

KVQ4

専門学士(高卒+2年)

40

1200

3

初級実務職

KVQ3

高卒+1年

40

1200

2

KVQ2

高卒

204

6120

1

KVQ1

高卒未満

~204

~6120

 

課題は多く残っている。国民への広報も含めた意識改革のための本体系のデリバリーシステム構築や政策的なロードマップ策定はもちろん、国家職務能力基準モデュール開発とそれらに係る産学官でのさらなる連携と活用をどのようにしていくか、大胆に考えていかなければならない。

 こうした韓国の取り組みは、日本の大学にとっても、現場志向的な教育課程はどういうものか、また教育プログラムの運営をどう改善していくべきか考える上でも参考になると思われる。

(注1)特定の学科目でのプログラムの本質や特徴を説明するものであり、各学位レベルでの資格授与基準やそれら資格に必要な特質(学習時間も含まれている)と能力も説明されている。教育プログラムで達成されるべき学習成果を明示するガイドラインになっているといえる。

(文責 評価システム研究部門 渡辺達雄)

 

○●○ 第10回FD研究会・第11回評価システム研究会開催のお知らせ ○●○

日時:5月14日(火)16時30分~18時00分

場所:総合教育1号館2階大会議室

テーマ:「授業におけるわかりやすい説明とは?―認知心理学から考える―」

報告者:島田英昭(信州大学教育学部・准教授)

趣旨:授業におけるわかりやすい説明」が求められているが、どのようにすればそれを実現できるのか、手がかりがつかめないという声がある。今回は、認知心理学を手がかりに、学生の頭の中で行われている情報処理のプロセスを明らかにして、わかりやすさについて考えてみたい。具体的には、情報処理の容量限界、既有知識の影響、知覚的特性について、簡単な心理実験のデモンストレーションをしながら説明し、議論する。