【No.445】
教育実践のデザインについて

 

○●○ 教育実践のデザインについて ○●○

 主体的に考える力を育成するという学生の学習の質量の転換、あるいは大学教育の質的転換のために、必要なことは何か。そのための糸口として、教育活動の縦と横の連携を可能にする教学マネジメントのあり方(これまで例えば、DP/CPに基づくカリキュラムの体系化や科目間・教員間連携、教員間・教員学生間でのルーブリック観点の共有、TAなどの活用、アクテイブラーニング)について、本センターニュースでたびたび触れられてきた。これらの重要性は認識されてはいると思うが、継続的に、またある意味標準化して、どの分野・コースでも利用可能な域にまでもっていくことはなかなか難しい。3月14日、15日に京都大学で開催された第19回大学教育研究フオーラムに参加し、企画セッションの一つとして設定された「学習理論に基づく教育実践のデザイン」で報告された内容は、その解決の一手段として有効であると考えたので、ここで簡単に紹介したいと思う。

松下佳代氏(京都大学高等教育研究開発推進センター)は、現在の教育実践が、上記の様々な道具を活用して学士課程教育プログラムの質保証を確保しようとするもので、大学経営論として理解できても、学生を製品メタフアー(付加価値をつけて社会に送り出す)として強調し過ぎてはいないか、主体的学びの第一義的な責任をもつ学生の学習の生成を深く理解すべきではないかというのが、当セッションの目的となっていた。前半の二つの報告はY.エンゲストロームの探究的学習論を基底にしている。探究的学習は、動機づけ(自分の既有知識・経験や他者の意見とのコンフリクト)→方向づけ(対象の方向付けのベースの提示)→内化(内的なモデルへの変換・習得)→外化(モデルの活用とそれを通じた再構成)→批評(モデル自体の批判的評価)→統制(学習についての省察と修正)という6つの学習ステップで周っていく(詳細は、『拡張による学習―活動理論からのアプローチ』山住勝広他訳、新曜社、1999年を参照)。現在進行中のいわゆる成果に基づく教育が、学習成果を目標基準に、そこから逆向きにデザインし、またそれを効率的に達成するためにカリキュラムマップによって配列するというやり方から一段上がって、行動目標と認知的目標の両者をみ、目標をモザイクでなく全体的な学習プロセスに配慮しながら組み合わせ、学習が深くなるように学習内容も重視するということになるようである。

上記理論による実践報告(松田岳士・島根大学教育開発センター)では、「雲から天気を読もう」という全学部対象で1年生が受講の大規模授業の状況が紹介された。文系学生の受講もあることから、数式などを中心にした授業組立ができないことから、①気象現象②気象観測③観測データについて、それぞれの原理や構成概念から始めて、その関連を常に意識させるような構成にしている。これにより、行動目標に留まっていたものを認知的目標へ書き直す(例えば、気象現象の説明法則と気象観測技術を学ぶ)必要が出てきただけでなく、そのモデルに肉付けする形で授業計画や授業方法など授業設計を変化させることになった。実践への影響として、授業では何に戻って説明すればよいか分かり(法則・概念の繰りかえしの説明)、協調学習の課題作成が容易でがグループ学習での役割分担決定で迷わなくなったといった部分は、注目すべきところであろう。

後半は、認知科学を基盤とする学習科学にもとづく報告で、益川弘如氏(静岡大学大学院教育学研究科)によれば、人間の知識構築過程の特徴として、知識は各自の先行知識の制約の下に構成され、人の理解は社会的・対人的な文脈に依存し、一度構築した知識の深化や修正は自然には起きにくいことから、学習環境のデザイン、具体的には対話的な相互作用に従事させ、理解のための時間が確保され、理解を推奨してくれるコミュニティ作りが大事になってくるとされている。これらに基づき、当大学教職大学院で、現職教員院生が、同僚とともに授業改善を行う力量を高めるカリキュラムの開発や実践に取り組んでおり、そこでは例えば、自分と他者の担当内容を比較統合する活動を通して理解をより深める、学習者の分かり方の違いを生かした「ジグゾー学習法」を用いた実践と理論の統合に向けた取り組み、子どもたちの学習プロセスを効果的に記録する可視化の取り組みなどが進められているようである。

また森朋子氏(島根大学教育開発センター)の報告では、同理論に基づく実践として、初年次教育での学習デザインの取り組みが紹介され、同級生同士の協調学習において、学習レベルの異なる者同士の組み合わせ(具体的には、同レベル→異レベル→同レベル)を有効に行うことで、異なる能力をもつ社会的なアイデンテイテイが同レベル(例えば、自己肯定感の低さ)の新入生間で、他者との関わり、他者からの働きかけが自分の力を引き出すことが可能となったり、また無意識的に学生同士でスキャフオールデイング(「足場作り」)を行うことで、(大学内外での)居場所づくりが構築されて、その効果が高いということも明らかにされた。

以上のような、学習理論と実践のデザインによる大学教育改善は、まだ実験的な部分は多いものの、確立されれば、同様の文脈を抱える大学でも転用・応用が可能になるなど、その潜在的な可能性は高いと考えられる。今後の発展が期待される。

(文責 評価システム研究部門 渡辺達雄)

 

○●○ 新着資料のお知らせ ○●○

大学教育開発・支援センターに、全国の大学や大学教育センター等から各種報告書が届いております。また高等教育関連図書を購入しています。図書資料は、図書室(総合教育1号館6階613号室。センター共同研究室向かい)に所蔵しております。ご関心のあるもの、参照したいものがございましたら、お貸しすることができますので、ご連絡いただければ幸いです。

・篠田道夫『中長期経営システムの確立、強化に向けて』私学高等教育研究叢書1、私学高等教育研究所、2013年2月

・『各国の高等教育の新潮流-第53回公開研究会から』私学高等教育研究所シリーズNo.50、私学高等教育研究所、2013年3月

・『名古屋高等教育研究 特集 大学職員の職務遂行能力開発』第13号、名古屋大学高等教育研究センター
・『大学職員論叢』第1号、大学基準協会、2013年3月
・『京都大学 自学自習等学生の学習生活実態調査報告書』京都大学FD研究検討委員会・高等教育研究開発推進センター、2013年3月