【No.443】
教育実践報告会「能動的学修と学修成果」

 

○●○教育実践報告会「能動的学修と学修成果」○●○
 3月4日、教育企画会議下の教育改革部会とFD委員会との共催で、教育実践報告会「能動的学修と学修成果」が学内限定で行われた。中期計画【8-1】の24年度計画「各学域・学類及び共通教育機構において、授業の形態や授業における教育方法の多様化の方策を引き続き検討し、実施可能な部局ではそれらの方策を実施する。」の実施の一環として、能動的学習に基づく課題探求・課題解決力等を養う学類の優れた取組について全学で共有し、各学類の取組を促そうとするものである。本中期計画は、本学が26年度に受審する大学評価学位授与機構による大学機関別認証評価における評価基準(・教育の目的に照らして十分な教育効果が得られるように授業形態(講義、演習、実験、実習等)の組合せ・バランスが適切なものになっているか、・各科目の教育内容に応じた適切な学習指導法の工夫がなされているか、・学生の主体的な学習を促し、十分かつ必要な学習時間を確保するような工夫がなされているか)を満たすことにも対応している。これらの評価基準の妥当性は、昨年8月に出された中教審答申「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」の骨子である「予測困難な現代において、主体的に問題を発見し解を見出していく能動的学習(アクティブ・ラーニング)への転換とそれに伴う学習時間の確保(授業時間外学習)」の必要性に疑問を挟む余地がないことから明らかである。しかし、このような答申を待つまでもなく、本学では、課題探求・課題解決力を養う能動的学習を促す授業設計について教養教育、専門教育の枠組みの中で各教員、各組織が検討している。今回報告された取組は、多様な教育方法の総称と考えられているアクティブ・ラーニングが、専門分野が異なっていてもほぼ同一の授業デザインに収斂していることから、課題探求・課題解決力を養う能動的学習を促すための必須の要素が専門分野を異にする教員、組織によって捉えられていることを示している。
 法学類の東川浩ニ先生からは、大人数講義での学生の能動性を引き出す取組が報告された。外国法(英米法)および外国法特論(交渉学)の授業で学生に提示される具体的な問題が紹介された。1例のみ要約すると、「原告は、右耳に違和感を感じて受診し、確かに右耳に腫瘍が確認されたため、同意書にサインして摘出手術を受けたが、被告である医師は手術中に左耳のより重大な腫瘍を確認したため、左耳の腫瘍摘出を行った。医学的に手術の必要性が認められ、その手術が成功し、追加料金を請求されなかったとしても、同意がなければ暴行となるか」。この問題が授業中、学生に提示される。挙手によって、賛否両論を出させて、最後に結論を述べる。学生は、持っている法律の知識、その解釈、判例等を総動員して自分なりの論証形成を試みる。この事例は、学生の能動性を引き出すためには、各専門分野の現場を体感できる問題をいかに設計できるか、この1点にかかっていることを示している。法律を適用して論証形成を行う法学のおもしろさが素人の筆者にもわかるような気がした。
 自然システム学類の奥野正幸先生からは、学類のカリキュラム・ポリシーに沿って配置された問題解決能力を養う実験、実習等の体験に重点をおいた能動的学修科目での取組が報告された。2年次後期に開講されている生物学グループ演習では、学生自ら観察等から生じた疑問を研究テーマとして明確にし、その解決のための研究計画、研究実施、研究成果の中間発表、最終発表を行う。研究テーマという問題の設定のプロセスについては、研究動機、関連分野の研究動向、研究目的、予想される研究成果、研究の新規性、研究計画、必要経費等について記述させる企画書を提出させた上で、3~4人のグループ単位でTA、指導教員の助言を得ながら研究を行う。問題設定力、問題解決力を研究プロセスを体験させることによって養おうとするものである。
 3年次後期に開講されているプロセス創成では、学生自ら入浴剤、豆腐、石鹸、断熱シートなど市販の既製品の機能や特性を分析・評価する実験の立案、実施を行い、研究発表会では、その分析・評価の結果に基づいた新機能を持った製品とその製造プロセスを複数提案させる。この科目もまた、学生に専門分野の現場を体感させる授業デザインによって問題設定力、問題解決力を養成しようとするものである。
 生物学グループ演習、プロセス創成の他、自然科学教育における代表的な能動的体験学習の一つといえると思うが、地球科学の実際のフィールドに学生を対峙させる大巡検についても紹介された。
 医学類の松村正巳先生からは、4年次冬学期に開講されている医学チュートリアル教育について報告された。この授業もまた、医学の現場に学生を対峙させることによって、講義等で得た知識を総動員し、また能動的学習によって必要な情報を検索しながら、医師として必須の問題解決力を高めようとするものである。病歴、身体所見、検査所見といった実際の患者を想定した患者シナリオが用意された上で、一つのテーマ(例:発熱、胸痛、腹痛など)について、シナリオに基づいた患者の問題の解釈、解決を学生自身が行う。9~10名を1グループとして、想定された患者について、学習すべき問題の抽出、病態の仮説形成を、知識を総動員して、また教科書、データベース、医学文献等の自己学習、グループ討論に基づいて行う。各グループには1名のチューター(議論の促進、助言を行う教員)がつく。最終的にグループごとにまとめたものについて全体で発表を行う。この授業は、5年次の付属病院での病棟、外来実習であるベッドサイド・ラーニング、つまり実際の症状から診断名を探る問題解決プロセスの教室でのシミュレーションとなり、医学チュートリアル教育とベッドサイド・ラーニングとはカリキュラム上で連結している。医学分野におけるチュートリアル教育は、アクティブ・ラーニングの代名詞となっているPBL(Problem Based Learning)の典型例として知られているが、今回、分かりやすいご報告によりその理由を理解することができた。
 地域創造学類の神谷浩夫先生からは、「まちづくりインターンシップ」について報告された。この授業の目的は、現場である地域を実際に体感、観察し、地域に関する政策立案・提言能力を養うこととし、現場に学生を対峙させることによって能動性を発揮させて問題設定力、問題解決力を養成しようとするものである。地方自治体や地域の協議会等に学生3~4名づつ2週間程度派遣する。派遣先によって、学生の活動テーマをあらかじめ設定している課題設定型とテーマ自身も学生に決めさせる課題探求型とに大別されるが、ともに地域住民からの聞き取りを中心に地域の特性を客観的に観察し調査し、テーマに関わる課題を具体化した上で、資源マップや広報コンテンツの作成など地域振興等に関連する活動を学生が主体的に行う。2週間という限られた期間で、かつ、地理的要因等による情報収集の制約もある中で、受け入れ先の事後の感想からは、学生の奮闘が伝わってきた。やはり、現場に対面させることが能動的に問題や課題を探求しようとする動機付けのための最も有効な方法であることが、この事例からも明らかである。
今回の報告会は、異なる専門分野における能動的学習を促す教育実践について全学で情報共有する機会となった。専門分野は異なっても解は同じであると感じた。今後、各分野内および教養と専門との連携などカリキュラムについての議論も引き続き行われることが望まれる。
                       (文責 大学教育研究開発部門 西山宣昭)