【No.442】
大学教育改革のキーワードとしての「合理的配慮」と「大学間連携」

 

○●○大学教育改革のキーワードとしての「合理的配慮」と「大学間連携」○●○
 文部科学省より各高等教育機関に本年一月、「障がいのある学生の修学支援に関する検討会報告(第一次まとめ)について』が通知された。政府が批准を目指している「障がい者の権利に関する条約」は、教育を受ける権利の実現にあたり「個人に必要とされる合理的配慮が提供されること」と規定しており、今後、この報告に基づき、それぞれの大学等の責任で、障がい学生に対して具体的にどのような配慮・支援を行うか、より詳細に検討することが求められることになる。
 春3月、各大学等で合格発表の時期である。障がいのある受験生たちも一喜一憂していると思われるが、学生募集・入試の時点で、条約未批准であり障がい学生支援後進国の日本ゆえの不合理を彼ら彼女らは体験している。すなわち、「障害学生の入試における合理的配慮は、国連の障害者権利条約を背景に,国際的にも常識化しつつある概念である。しかし,日本においては,障害学生が受験において合理的配慮を要求するための根拠となる法律がない。そのため,個別の障害状況に合わせた配慮/ 調整(accommodation)は提供されておらず,またその義務もない」「合理的配慮の根拠となる法制度の欠如によって、『試験を受けられるか』『入学後に学ぶ環境が整えられているのか』を一校ずつ確認し交渉しなければならず、それは受験を目前に控えた学生にとって大きな負担となっている。合理的配慮が日本の大学に義務づけられていないことは、障害学生にとって、入試や入学後の支援について不明瞭な状況を作り出している要因だと考えられる」(井上恵梨子「高等教育における障害学生支援のための基礎的研究」『関西学院大学先端社会研究所紀要』6号、2011年)と指摘されているとおりである。
 この状況を誰がどうやって正さねばならないのか。上記、検討会報告は、「学長がリーダーシップを発揮し、大学等全体として専門性のある支援体制の確保に努めることが重要である。」と指摘する。学長は何をすればいいのか。「障害学生の支援を専門に行う担当部署の設置及び適切な人的配置(専門性のある専任教職員、コーディネーター、相談員、手話通訳等の専門技術を有する支援者等)を行う」「障害により、日常生活や学習場面において様々な困難が生じることについて、周囲の学生や教職員の理解促進・意識啓発を図る」など、とるべき策は明らかにされており、あとは大学の責任でするかしないかだけである。
 もちろん、「障害は多岐にわたり、各大学内の資源のみでは十分な対応が困難な場合がある」から「学外(自治体、NPO、他大学等、特別支援学校など)の教育資源の活用や医療、福祉、労働関係機関等との連携についても検討する」ことは当然である。そして、報告書は、最も大切な「大学等が合理的配慮を決定するに当たって」は、「学生本人の教育的ニーズと意思を尊重した配慮ができない場合の合理的理由を含め、学生本人を含む関係者間において、可能な限り合意形成・共通理解を図った上で決定し、提供されることが望まれる」と指摘した上で、「合理的配慮の決定は、各大学等の責任において行うこととなるが、その決定過程においては、必要に応じ、学外の専門家等の第三者による意見を参照することも重要」と指摘しているのである。
 なにが合理的配慮か分からないから配慮をしない・・・などということがあってはならない。これは障がい学生の教育を受ける権利を、不作為によって侵害することであり、障がい者に対する差別となる。学内にそれぞれの障がい種の専門家が揃っている大学など存在しない。だから、まずは大学間連携である。これまでは学生募集や就職活動でしのぎを削ってきた大学どうしであっても、障がい学生支援については、経験が少なく分からないのは同じである、だから、近隣の大学間あるいは全国のネットワークで、情報共有をしなければならない。大学設置基準は「授業の内容及び方法の改善を図るための組織的な研修及び研究」(FD)を私たちに義務付けた。大学の教員は研究者であり、研究ではお互いに情報共有をし合う。そこに学問の進歩の可能性がある。同様に、「うちの大学にこういう障がいのある学生の入学が決まったんだけれど、どういう配慮や支援をしたらいいんだろうか」と他の大学の専門家に訊けばいいのである。配慮に合理性があるかどうかを客観的に確認する方法はある。障がい学生支援に研究力を発揮するかどうかが、問われている。学生たちにアクティブラーニングをというのであれば、教員自身がここでアクティブラーニングをすべきなのである。
大学コンソーシアム石川では、文部科学省平成24年度「大学間連携共同教育推進事業」『学都いしかわ・課題解決型グローカル人材育成システムの構築』の取組で、第1回障がい学生支援セミナー「聴覚障がい学生に対する合理的配慮の実質化-大学間連携が目指すもの-」を、日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)の後援、石川県聴覚障害者協会の協力により、3月8日(金)に金沢星稜大学にて開催した。
 三好茂樹氏(筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター准教授)による「パソコンノートテイクについて-モバイル型遠隔情報保障システムを中心に-」と、白澤麻弓 氏(同)「授業情報保障を中心とした合理的配慮と大学間連携」の二つのご講演であった。
 三好先生が実演で示されたのは、ある大学の聴覚障がい学生の手元のスマートフォンに、遠く離れた大学のノートテイカーの変換した文字が、ほとんどタイムラグ無く示されるという画期的な技術である。学内のノートテイカーの数が足りないから情報保障できる科目が限られる、といった不合理な「配慮」には、根拠が無くなる。近隣や全国の大学のノートテイカーの力を借りればいいだけである。自分の大学のノートテイカーが他大学の障がい学生を支援する時がやってくることも想定しての援助依頼であり、基本には、OCW(講義資料の共有が原点)などと同様、学生を一つの大学だけで教育するのでなく、大学どうしで育てるという発想が求められるのである。
大学は連携の時代である。白澤先生が事務局長のPEPNet-Japanも、東京大学や日本社会事業大学も加わるなど加盟校が増えており、筑波技術大学を中心とした先進大学の事例を相互に共有しながら、聴覚障害学生支援の全国的な底上げを行っている。今週金曜日15日午後には、第2回障がい学生支援セミナー「高等教育を学ぶ権利と聴覚障がい・発達障がい」を、しいのき迎賓館(金沢市広坂)で開催する(手話による情報保障あり)。連携の前進が楽しみである。    (文責:教育支援システム研究部門 青野 透)