【No.441】
学生の学習の質量の確保のために(2)-中教審答申の受け止め方

 

○●○ 学生の学習の質量の確保のために(2)-中教審答申の受け止め方 ○●○
 前回に続き、中教審答申「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ」(平成24年8月)が、学生の学習の質量の確保のために、各大学に教育の質的転換への方策を求めていることを受け、実際どのように考えていけばよいか話題提供がなされた昨年末開催の私学高等教育研究所公開研究会「中教審答申をどのように受け止めるか-これからの具体的な課題は何か」の内容について紹介していきたい。
川嶋太津夫氏(神戸大学大学教育推進機構教授)の報告は、大学教育制度の核ともいえる単位制度に関わるもので、歴史的経緯を踏まえ、最近の議論の動向について考察を加えたものであった。
 2008年に出された答申「学士課程教育の構築に向けて」もそうであるが、自主的な学修時間の確保(1単位は45時間の学修)による単位の実質化を問うている。アメリカの高等教育法でも単位の公的定義が示されており、1単位は1時間のseat time(授業)と2時間以上のstudy time(課外学習)/週(セメスター制15週、クォーター制10~12週)で構成されカーネギー単位※とも言われる。この誕生は、20世紀初頃にハイスクールが拡大多様化して、大学が入学者選考に関わり標準的単位によるハイスクール教育の評価を取り入れたことに依ると考えられている。日本の旧制では、単位あたりの授業時間数(授業外学習時間は含まれていなかった)は大学・学部により多様であったのが、民間情報教育局(CIE)の指示の下、1単位は毎週3時間学習×15週で、その3時間は科目の正確に応じ授業と自学自習を配分することとし、一般の肉体的労働時間(8時間)を基に週45時間、4年間で120単位と定め、新制大学に統一的な単位制度が導入されることになる。当時、大学の設置基準制定に寄与した大学基準協会もこうした単位の考え方を採用したとされ、旧制大学での詰め込み教育による受動的学習から脱し自学自習の奨励による学生の自発性を喚起する意図もあった。
 翻って現在の日本の大学では、つとに学生の学習時間が減少し、諸外国と比べても少ないことが指摘されている。また理念上求められる学習時間の半分に満たず、単位制度の形骸化が指摘されている。一方のアメリカでも、一部大学での単位の安売り(5週間プログラムで9単位授与)の問題や、オンライン大学・OCWによる授業公開の進展も関わり、授業プラス自学自習パラダイムが転換し、単位認定(あるいは大学間の単位相互認定)のあり方について議論がなされているという。「学習時間」と「単位」と「学習成果」の三者の関係が、合理的に均衡していると捉えられず、単位は卒業要件を充たしても、学修時間は不足し当然学習成果も不十分なままという現実の状況にあって、時間に基づいて学習を評価する単位制度という発想が妥当なのか、しかし国際的には学習成果を重視する流れにあり、時間からコンピテンシーに基づく単位制度への転換する可能性も含め、我々には大きな課題が突きつけられていると思われる。奇しくも、今年1月中旬に出された「大学設置基準及び短期大学設置基準の改正について」(中央教育審議会)により、授業科目の期間について10週または15週を原則としつつ、多様な期間設定が可能となり、単位制度の柔軟化ととれる提言がなされたばかりである。各大学は、その特性や教育プログラムの必要に応じ、柔軟な対応が求められているといえる。
 次に山田礼子氏(同支社大学高等教育・学生研究センター長)は、長期間実施している全国レベルの学生調査のデータ分析にもとづき学習成果につながるアクテイブラーニングについて報告がなされた。 近年の教員の研究至上から教育志向への変化、初年次教育やアクテイブラーニング手法の取り込みなど工夫を重ねても、大学生は産業界やグローバル社会に符合したスキルを必ずしも身に着けていないとの批判がなされていることは繰り返すまでもないが、継続データから、履修授業数は多いが、やはり少ない学修時間が明らかで、とくに人文社会科学系は低いこと、しかし学士力関連の学習成果が伸びたかどうかの比率は、少しずつではあるが増加し、その意味で大学教育の効果も見受けられ、アクテイブラーニングが広く導入されさらなる進捗への期待が投げかけられている。とくにアクテイブラーニングを取りいれやすいのは、初年次ゼミなどの初年次教育で、スタディスキルを通じた大学での学習スタイル(能動的な学び)への転換がなされるために、ディスカッションや発表、グループ学習などが多用されるべきであると主張している。
 学生調査の質問項目の中には、学生のengagementを促すような体験の有無・程度に関する複数の設問も含まれ、データ上からもある程度実証されているようで、例えば人間関係能力に関する高得点グループが多いとみられる人文・社会系では、プレゼンテーション経験が多く、それへの学生の反応・評価も相対的に高い。また学習能力向上に向け、教員やTAなどによる指導やサポートを受けた経験が多いと、理工農生命系学生は回答し、評価も高い。こうした専門分野の違いはあるものの、自分の考えを発表する機会がある授業経験があることが、現代的課題への対応力や認知的能力の獲得につながっていることが、分野に関係なく機能していることも示されていて、非常に興味深い。
 いずれにせよ、各大学そして学部が、学生の主体的な学習をどう確立させていくかに係っており、それらを支える有効な組織的な環境整備が求められているということであろう。
※1科目、毎日1時間の授業×5日×24週=120時間
(文責 評価システム研究部門 渡辺達雄)
 
○●○ 第9回評価システム研究会開催のお知らせ ○●○
日時:3月12日(火)16時~17時30分
場所:総合教育1号館2階大会議室
テーマ:学習成果達成度把握に関する他大学の事例調査報告
報告者:渡辺達雄、西山宣昭(大学教育開発・支援センター)
趣旨:学習成果の達成度をいかに評価し、教育改善にフィードバックするかは、今、社会から求められている大学教育の質保証の重要なプロセスであり、多くの大学が様々な取組を行っている。今回は、神戸大学の学習成果達成度を把握するために実施されている各種アンケート、および九州工業大学の学習成果達成度自己評価システムについて、聞き取り調査を行ったので、その結果を報告する。得られた知見は、本学が現在進めている内部質保証システムの構築に参考になると思われるが、参加者間でこの点について議論したい。
 
○●○第15回カリキュラム研究会・第10回評価システム研究会合同開催のお知らせ○●○
日時:3月18日(月)13時~14時30分
場所:総合教育1号館2階大会議室
テーマ:「共通教育特設プログラム・「環境・ESDリテラシー」授業報告」
報告者:寳學淳郎(保健管理センター)、西山宣昭(大学教育開発・支援センター)
趣旨:共通教育特設プログラムの平成23年度開設時から開講されている授業科目群「環境・ESDリテラシー」の中から、今回は2科目について今年度の授業報告を行う。現在、環境・ESD関連の新規の副専攻および大学院科目のパッケージ化について全学で検討が進められており、これらの教育プログラムの基盤として「環境・ESDリテラシー」は位置づけられる。環境・ESDについての実践的能動的な学習を意図した2科目を取り上げ、授業内容の報告に基づき、その成績評価方法について参加者間で議論したい。