【No.425】
中教審大学分科会(審議まとめ)とアクティブ・ラーニング(その3)

 

○●○中教審大学分科会(審議まとめ)とアクティブ・ラーニング(その3)○●○
 センターニュース410号で述べた通り、3月26日に中教審大学分科会大学教育部会が公表した「予測困難な時代において生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ(審議まとめ)」は、「学士課程教育は、学生の思考力や表現力を引き出し、その知性を鍛え、課題の発見や具体化からその解決へと向かう力の基礎を身につけることを目指す能動的な授業を中心とした教育が保証されるよう、質的に転換する必要がある。」とし、「大学教育の質的な転換」の方策として「双方向の講義、演習、実験、実習や実技等の授業を中心とした課題解決型の能動的学修(アクティブ・ラーニング)」を提示している。この審議のまとめが指摘する「大学教育の質的な転換」については、本学では、中期計画【8-1】「授業の目的に応じて授業形態を多様化し,少人数教育やTA(ティーチング・アシスタント)の活用を推進する。」に沿って検討が進められている。
課題発見・課題設定、課題解決のための批判的思考を引き出し、そのプロセスを口頭あるいは文章として表現する能力を身につけさせるために、4年次の卒業研究等の本格的なアクティブ・ラーニングに至るカリキュラム上にいかなる学習機会を設けるか、多くの大学で試みがなされている。少人数授業の設計ばかりでなく、大人数授業での取組についても検討が進んでいる。大人数授業に双方向性を組み込んで能動的思考を促そうとするサンデル教授による「ハーバード白熱教室」(NKHが放送)が注目されたことは記憶に新しい。
 10月17日、本学学校教育学類のFD研究授業を参観し、授業後の討論に指定討論者として参加した。今回は、篠原秀雄教授による「初等音楽科教育法」である。配布された資料から、この授業の学習目標が、教材や指導方法について工夫し、独自の指導案を作成し、それらに基づいた教授行為ができるようになることと理解した。まず、前回授業での「小学校音楽科教育の目標」についての説明に補足が加えられた上で、各自、教育目標について考察することが促された。今回の授業では、表現領域(歌唱)の指導法において、歌唱技能を身につけるとともに「歌うこと」に「身を乗り出す」ような手立てを考えたい、という主題が設定された。例示された専門的指導法の詳細は省略するが、200名近くであったと思うが受講生が天井の高い音楽ホール(教室)で、例えば3グループに分かれて輪唱を行った。時間差を変化させたときの音のsynchronizationの多様さとその面白さ、そして指導法を工夫するとはどういうことかについて、受講生が身を持って納得できたと思う。受講生全体が「身を乗り出して」授業に参加していた。大人数授業の特性と考えさせるべき指導法の特性とが共鳴したアクティブ・ラーニングの現場であった。
 大人数授業での討論を促す授業方法として、岡山大学を経て、現在、富山大学の橋本勝教授により開発された「橋本メソッド」がよく知られている[1]。150名を超える大人数の受講生を3~4名のグループに分けて、各グループは、あらかじめ設定されている複数のテーマから2テーマを選択し、授業時間外で調査分析を行い、文章にまとめて提出する。毎回の授業で、設定されていたテーマを一つずつ取り上げ、そのテーマを選択したグループの中から事前に提出したレジュメに基づいて授業者が2グループを選び、それぞれ5~10分程度の発表を行う。あるテーマを選んで調査分析を行ったにも関わらず、1テーマについて2グループしか選ばれないので、発表するためには調査分析の質を高める必要がある。2グループの発表後に25分程度の質疑応答が行われるが、調査分析を行ったが発表できなかったグループから必然的に質問が飛ぶ。発表チーム以外の受講生は支持投票により、発表した2チームの勝敗を決める。橋本氏自身によって行われた昨年度の授業のテーマは、「東日本大震災を学ぶ13の切り口」である[2]。橋本氏は、「「きっと誰かがなんとかしてくれる」「自分とは直接、関係ない」と安易に捉えがちな若者の心を揺り動かし、自分たち自身が大学生の自覚を持ってしっかり考えなければ、と心底思わせ、どうすべきかを真剣に議論させるには、東日本大震災はまたとない「題在」なのである」と述べている[2]。268名の受講生が、設定された13の切り口、「地震・津波はなぜ想定を越えたのか」「原発被害から学ぶべきこと」「長期避難生活の盲点」「プロ野球の開幕延期を検証する」「震災被害はどう報じられたか」「二次的被害はこんなところまで」「政府対応は適切だったのか」などについて熱い議論を行ったことが、授業風景を写した1枚の写真から伝わってくる[2]。
 筆者も共通教育科目の少人数ゼミナール科目であるが、高年次における批判的思考力を養う学習の基礎と位置づけられる授業について試行錯誤している。後期には、「論理的思考と科学技術社会問題」「健康問題を化学、生物学で検証する」の2科目の少人数ゼミナールを開講している。他者の論証の根拠の同定やその妥当性について分析し、疑問を持つ、つまり些細なことで構わないので独自の課題発見・課題設定を行うことを学習目標としている。例えば、「遺伝子組み換え食品の安全性」についての厚生労働省の一般向けパンフレットを始点として、この資料中の記述でわからない単語などについて自分で調べたこと、疑問に思ったこと、資料で述べられている遺伝子組換え食品の安全性の検証方法の問題点などを授業時間外で自己学習させ、その学習内容をポータル内の会議室に書き込ませる。授業では、各自パソコンを開いて、ポータルの会議室に書き込まれた情報や考えを基に、議論のプロセスを各自、会議室にメモを入力していく。事前学習および授業中の議論の過程で、遺伝子とは何か、遺伝子組み換えの具体的な操作など、基礎事項を理解しながら、最終的には資料に示されている遺伝子組み換え食品の安全性の検証方法以外の検証方法を独自に考案する、あるいはより一般的に遺伝子組み換えを行った細胞の安全性について議論する、さらに人工遺伝子回路の可能性や問題点などについて議論することを目標にしている。卒業研究に至るまでの授業科目においても、疑問を持ち、ささやかな問題を見つけ、その過程を口頭、文章で表現する経験をさせることを意図している。
 本学の各学類でも、学生の能動的学習を促す様々な取り組みについて検討されている。中期計画【8-1】の24年度計画「各学域・学類及び共通教育機構において,授業の形態や授業における教育方法の多様化の方策を引き続き検討し,実施可能な部局ではそれらの方策を実施する。」の一環として、能動的学習に基づく課題発見・課題設定力、課題解決力を養う学類の優れた取組みについて全学で共有し、各学類での取組みを促すため、教育改革部会とFD委員会との共催で教育実践報告会「能動的学習と学習成果(仮題)」(学内限定)が年度内に行われる予定である。
                         (文責 大学教育研究開発部門 西山宣昭)
 
[1]吉田博、金西計英「双方向授業の取り組みにおける成果と課題 ―「橋本メソッド」の実践を
通して―」大学教育研究ジャーナル 第8号(2011)128.
[2]橋本勝「東日本大震災を学ぶ13の切り口」大学教育学会2011年度課題研究集会要旨集
 p.14.
 
 
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