【No.418】
安心して学べるソーシャルメディア環境 ~何が必要とされるのか~

○●○ 安心して学べるソーシャルメディア環境 ~何が必要とされるのか~ ○●○
 本稿ではソーシャルメディアを使った学習環境について紹介をしてきた。先日、東京大学 情報学環・福武ホールで開催されたBEATセミナー「安心して学べるソーシャルメディア環境」に参加してきたので、その報告を行う。近年、ソーシャルメディアは大学生・社会人の学習だけではなく、小学生、中学生、高校生の学習にも使われるケースも増えてきており、「安心感ある学習環境」の構築が必要である。本セミナーでは島根大学 大学教育センター准教授 松田岳士氏と、株式会社サイバーエージェント・アメーバ事業本部 ゼネラルマネージャー 藤井琢倫氏より講演があった。
 松田氏からは「eメンタリングが支える学びの場づくり」というテーマで講演があった。安心感がある学習環境は人による支援があることが重要であり、その人による支援をコミュニケーションの観点から検討した内容であった。eラーニングで学ぶ学習者の不安要素は、学習自体、人間関係、モチベーションの維持の3つがあり、学習自体の不安は技術的なもの(自分の環境でもシステムは動くのか、特別な技能が必要ではないのか という不安)と課題の難易度等が読めないという不安があり、人間関係ではどういう人が受講しており、どういう人が教員として来るのかという不安があるとのことであった。またeラーニングの問題点として修了率・満足度の低下があり、人間はそう簡単に計画的に1人で学習できるようにはならず、満足度を高くするための利便性を確保しつつ、ドロップアウトを防ぐ有効な手段はない。そのため学習者・教員の負荷が大きくなるという指摘があった。eラーニングは「いつでも・どこでも」学ぶことができるという点はあまり有効な手段ではなく、その環境内のコミュニケーションが豊かになったことが大きな変化であるということであった。講演のテーマになっているeメンタリングはこのコミュニケーションの特徴を考えながら、学習者の学習支援を行うものである。青山学院大学ではeメンタリングコースとして、承認の技術、例えば第一印象を高めるための自己紹介方法、コーチング、フィードバック(Youメッセージ、Iメッセージ、Weメッセージ)スキルの育成を行っていた。しかし、課題も多くある。コースを越えて支援できない、学習者同士の双方向性を高め、自律的な学習コミュニティを形成することが難しい、eメンターの負荷は高いということであった。
 株式会社サイバーエージェント・アメーバ事業本部の藤井氏からは「Amebaのコミュニティ運営における取り組み」と題して、1000万人を越える、アバターベースのオンラインコミュニティサービス”Ameba”におけるAmeba健全化の取り組みについて紹介があった。動画を一緒に見るというPiggチャンネルは1日10万アクセスあり、また「ピグカフェ」はカフェを経営するソーシャルゲームであり、自分でつくったメニューでポイントを稼ぎ、カフェを発展させていくというものである。しかし、Amebaサービスでも未成年による不正アクセスが発端となる刑事事件が起こり、健全化の取り組みを行っている。Amebaの3つの取り組みとして(1)年齢情報による機能制限、(2)人的パトロール、(3)啓発活動が挙げられる。未成年者の利用において、相手にパスワードを教え、悪用されるケースが多発し、啓発コンテンツの設置、特設看板などをサイト内に設置している。また15歳以下はコミュニケーション機能を禁止するということになっている。これにより売り上げが15~20%の低減という大きな問題が見込まれたが、起こっている刑事事件が、社会的インパクトが大きいものであり、18歳以上を主な利用ターゲットであることとし、サービスの展開をしているとのことであった。
 パネルディスカッションでは適切なオンラインコミュニティの人数、アバターベースのコミュニケーションとテキストベースのコミュニケーションの違い等について話合われた。オンラインコミュニティの適性人数は、そのコミュニケーションが同期・非同期にも関わるが、非同期の場合は150人から500人であろうということであった。それはFacebook社のソーシャルネットの研究者Paul Adams氏の著書”Grouped”の中で人のつながりの典型として「困ったときに助けてくれる人は5人、自分が死ぬと動揺する人は15人、最近の動向について知っている人は50人、ムラ的関係の人が150人、知っているが親しくはない弱い紐帯が500人」という言及に基づくものであった。アバターベースのコミュニケーションの特徴として、慶應義塾大学で行われた、セカンドライフを使ったオンライン授業の特徴について説明があった。アバターを使ったオンラインコミュニケーションでは、「相手がどういう人であるのか」という相手の探り合いがなく、授業内容に関するディスカッションが始まることや、実際に1つの場所に集まり、相手が発言を入力しているといった様子を見ながら、コミュニケーションを行っているという特徴があることが示された。このコミュニケーションと学びの関係は興味深いことに、アメリカでは負の関係があるが、日本人の場合は正の関係であるという。達成動機と親和動機の分析において、その結果が出たとのことであった。日本人の場合は、「誰かと学ぶ・誰かのために学ぶ」という意識が強いのではないかと言われているとのことであった。
 本学でもポータルを中心としたオンライン学習環境が整備され、その中で電子掲示板やWikiを使った協調学習を進めていく環境はある。授業利用においても、ドロップアウトする学生が少なからず存在する。対面で会うことが前提となっている場合、相手の存在に対する不安感は少なくなっていくものの、メンターのようなサポーターが必要なケースも存在する。会場では対面授業とブレンドしたオンライン学習を効果的に進めていくために、メンター育成を行うという大学からの参加者もいた。TAの活用も本学では重要であるが、メンターの役割も担ってもらい、育成することも検討の余地があると思われる。メンタリングスキルは実社会に活用できるスキルであり、実践的な人材育成にも期待できるのではないだろうか。
 
(文責 教育支援システム研究部門 山田政寛)
 
○●○ FD特別講演会(第9回FD研究会)のご案内○●○
大学教育開発・支援センター・理工学域教育方法改善委員会 共催
日時:平成24年9月7日(金)13:00-15:00
場所:自然科学大講義棟AV講義室
テーマ:ヨーロッパでの高等教育改革の動き
プログラム:
1.解説 「ボローニャプロセスについて」大学教育開発・支援センター 堀井 祐介
2.講演 Physics Education in Europe? (「ヨーロッパにおける物理教育」)
Hendrik FERDINANDE (UGent [BE] & Hokudai [JP])(ベルギー・ゲント大学(北海道大学客員教授) 
概要:はじめに,堀井から、ヨーロッパにおける高等教育改革の大きな流れである「ボローニャプロセス」について概要を説明し、その後,ヨーロッパ物理教育学会の会長を務められたフェルディナンド先生に,物理教育を通した改革への取り組み,単位互換制度,国際カリキュラムによる質保証の問題等々についてお話しいただきます。これらの取り組みは世界的に広まりつつあり,今後の我が国の大学教育改革にも大きな影響を与えると考えられます。皆様の積極的なご参加をお願いします。
 ※問い合わせ先:大学教育開発・支援センター 堀井(内線5858、horii@staff.kanazawa-u.ac.jp)