【No.415】
アメリカの大学での学習成果アセスメント

 

○●○アメリカの大学での学習成果アセスメント○●○
 7月23日、大学評価・学位授与機構の主催で行われた大学評価フォーラム「学びからみる高等教育の未来」に参加した。ジョージア工科大学特別教授のRichard DeMillo氏の講演では、予算削減によって上位のエリート校でも研究環境が悪化し、また全米に2000近くある「ミドル」とよばれる下位の大学では状況は一層深刻である一方、アップル社のiTunes U など何百もの営利のバーチャル大学が急速に進展し、このような状況下で学生獲得競争と就職難の状況もあり、エリート校でも「優」が乱発されるなど成績評価への信頼が薄らいでいるアメリカの近況が述べられた。他方、適格認定や外部へのアカウンタビリティーのための必要性からばかりでなく、学生の学習の質を高めようとする大学の自発的な取組として、学習成果の明確化とそのアセスメントについての研究が地道に行われ、得られた知見が蓄積・共有されている。DeMillo氏の講演に続き、全米学習成果アセスメント研究所(National Institute for Learning Outcomes Assessment, NILOA, http://www.learningoutcomesassessment.org)のStaci Provezis氏は、学生の学習成果アセスメントにかかる取組を文書化し、大学の優れた取組を特定・発信することにより各大学のアセスメントの取組を支援するNILOAの活動の概要について紹介された。NILOAのHPから学習アセスメントに関する優れた取組を行う大学の情報にアクセスできる。以下に、ペンシルバニア州立大学の取組の一部を紹介する。(なお、大学評価フォーラムでの講演等の資料は以下のHPからダウンロードできる。http://www.niad.ac.jp/n_kenkyukai/1203251_1207.html)
 ペンシルバニア州立大学では、2005年以降、学生の学習成果を評価し学習の質を高めることを目的とした教育プログラム評価(academic program assessment)、授業評価(course assessment)、機関評価(institutional assessment)、一般教育評価(general education assessment) 等の内部質保証プロセスに取り組んでいる。これらの内部質保証プロセスを、Schrever Institute for Teaching Excellenceと評価企画委員会(Assessment Coordinating Committee, ACC)とが協働して主導し、教育プログラムについては実施部局が提出する学習成果アセスメント計画をACCが評価し各部局にフィードバックする。教育プログラム評価は以下の手順で行われる。
1. 教育プログラムの学習成果を同定する。(本学の学類ごとの学習成果に対応する。)
2. 教育プログラムを構成する各授業科目を教育プログラムの学習成果に整合させる。(本学のカリキュラム・マップに対応する。)
3. 同定した学習成果を学生がどの程度達成したかを把握する方法(アセスメント方法)を開発あるいは選択する。
4. 同定した学習成果を学生がどの程度達成したかを示す証拠を準備する。
5. アセスメントを実施し、その結果を分析し、教育改善にフィードバックする。
学習成果がどの程度達成されたかが何をもって把握されるのかを学生もまた理解し学習動機付けに結びつくことがアセスメント(学生の学習の改善および向上を目的として教育プログラムを注意深く検証すること)の意義付けにおいて特に重要である。
 以下に、2011年7、8月に実施部局から提出された4年間の教育プログラムのアセスメント計画を2例紹介する。
 
【化学】
 学習成果
1.学生は化学の十分な幅と深さを持った基礎知識を身につけ、化学の文献を批判的に評価することができる。
2.学生は研究に必要な基本的な推論と問題解決のための能力を身につけている。
3.学生は実験をデザインし安全に遂行するスキルを身につけ、さらに実験データを正確に文書化し解釈することができる。
4.学生は文章および口頭で科学に関する情報を他者に伝達することができる。
5.学生はプロフェッショナリズム、つまりチームとして仕事をすることができ、そして倫理的に自身を律することができることを認識している。
6.学生は化学の学際性と現代社会で果たす役割を理解している。
上記の学習成果4のアセスメントのためのデータ収集計画(2011-2012)
 サイエンスコミュニケーションの一つであるポスタープレゼンテーションに焦点を当てる。その理由は、カリキュラム上の学生の学習過程の各段階に配置された複数の授業科目でポスタープレゼンテーションを組み込んでいること、またポスタープレゼンテーションが文章表現と口頭発表の両方の要素を必然的に必要とすることによる。まず、ポスタープレゼンテーションの文章表現と口頭発表についてのルーブリック(求められる明確な要件、つまり成績評価基準)を開発する。次に数名の特定された学生について、授業科目(CHEM111,CHEM227,CHEM431W,CHEM457,CHEM213H,CHEM423,CHEM459、数字は科目ナンバリングを示している。低年次開講から高年次開講に配列)で時系列データを収集し、年次進行に伴うプレゼンテーションの変化を調べる。
【心理学】
 本学部は7つの学習成果を設定しており、これらはアメリカ心理学会のガイドラインに準拠したものである。
現行の学習成果アセスメント
 現行では、特定の学習目標を持った授業科目での学生のパフォーマンス、卒業予定者を対象とする7つの学習成果の達成度の調査、研究に触れる機会をどの程度持ったかについての統計データに基づいて学習成果アセスメントを行っているが、知識を統合し心理学の分野での問題に対して批判的思考を行うことができるかについての直接的証拠を欠いている。
学習成果アセスメント計画(2011-2012)
 本年の目標は、学生の思考能力を示すより直接的な行動の証拠を得ることである。そのため、研究に関連する学習成果2,3,4に焦点を絞る。つまり、本教育プログラムで獲得した知識と批判的思考力を応用する能力を把握する方法を開発する。
(注:学習成果2,3,4それぞれの達成度を把握する証拠が列挙されているが、学習成果3のみを以下に抜粋する。)
学習成果3
 学生は、心理学の知見の把握と実験といった基本的な研究手法に熟知し実際に行うことができる。
   証拠
   ・授業科目Stat200、PSYCH301W(研究手法)を履修し合格している。
   ・卒業前の学習成果の達成度の調査結果
   ・能力判定(・仮説を検証するための実験をデザインする、・適切な統計テストを決定する、・研究計画を記述する、・データに基づいて何が結論できて何ができないかを理解している、・誤った主張を同定する)
提案(一部のみ抜粋)
  学習成果2,3,4のアセスメント方法の開発をPSYCH490(the senior seminar capstone course)を対象として行う。
 以上から、科目間の連携により4年間を通した学習成果の達成過程を定量的に把握しようとしていること、また我が国の大学で従来より浸透している卒業研究にあたるcapstoneを学習成果の達成度評価に活用しようとしていることがわかる。以上の知見は、本学がすでに作成したカリキュラム・マップ、カリキュラム・ツリーに基づいた学習成果を達成するための戦略立案、卒業研究の学習成果アセスメントへの活用の充実について示唆を与える。
(文責 大学教育研究開発部門 西山宣昭)