【No.410】
中教審大学分科会(審議まとめ)とアクティブ・ラーニング(その2)

 

○●○中教審大学分科会(審議まとめ)とアクティブ・ラーニング(その2)○●○
センターニュース400号で述べた通り、3月26日に中教審大学分科会大学教育部会が公表した「予測困難な時代において生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ(審議まとめ)」は、「学士課程教育は、学生の思考力や表現力を引き出し、その知性を鍛え、課題の発見や具体化からその解決へと向かう力の基礎を身につけることを目指す能動的な授業を中心とした教育が保証されるよう、質的に転換する必要がある。大学には、その転換の前提として、学生に、授業時間にとどまらず授業のための事前の準備や事後の展開などの主体的な学びに要する時間を含め、十分な総学修時間の確保を促すことが重要である。」とし、「大学教育の質的な転換」の方策として「双方向の講義、演習、実験、実習や実技等の授業を中心とした課題解決型の能動的学修(アクティブ・ラーニング)」を提示している。この審議のまとめが指摘する「大学教育の質的な転換」については、本学では、中期計画【8-1】「授業の目的に応じて授業形態を多様化し,少人数教育やTA(ティーチング・アシスタント)の活用を推進する。」に沿って検討が進められている。
「大学教育の質的な転換」については、これまでも学生の学びの転換が求められる初年次教育という学士課程教育の最前線で検討されている。「課題の発見や具体化からその解決へと向かう力」を養うことが大学での学びであることを学生に体験的に認識させることが初年次教育の目的であることから、多くの大学が初年次少人数ゼミナールを採用したが、現在においても、学部混成のクラス編成にするのか、必須・選択か、1年次の前期のみか通年かなどその運用について、そして何より授業の設計について議論が続いている。「課題の発見や具体化からその解決へと向かう力」とは、現状を批判的に分析し、課題を発見・設定し、その解決のための仮説形成と仮説検証を行うことのできる能力である。このようなプロセスは研究そのものであり、学生の知識と能力の獲得・発達段階に応じて課題発見・課題解決能力を身につけさせる教育のデザインが、研究というプロセスに熟知する大学教員に求められている[1]。
 我が国の初年次教育がモデルにしたアメリカのFirst Year Experienceは、オリエンテーションやフレッシュマン・セミナーなど様々な教育内容を含んでいるが、これらはラーニング・コミュニティーなど行動を共にする少人数の学生集団を編成して行われており、自発的な協調学習環境形成を意図している。このような教育デザインは、少人数クラスで教員と学生、学生と学生とが対面で向き合い、インテンシブな討論を通して批判的思考力を養い、他者との対比に基づいて自己確立を促そうとするリベラル・アーツ教育に由来するものである[2]。リベラル・アーツ教育の理念は、「考え方の基礎学」である[3]。この理念に沿って初年次少人数ゼミナールにおける課題探求・課題解決型授業をデザインする時、他者の論証の評価が授業の始点となる[1]。各学問分野の知識の獲得は論証の評価のために必要不可欠である。教員の役割は、テーマの設定、つまり課題探求のフィールドの範囲を規定することと知識の獲得の支援を行うことである。他者の論証の妥当性を評価し、そこから疑問が生まれ、独自の反論や異論を組み立てることにより、探究すべき課題が明確になる。このような課題探求・課題発見のプロセスを言語化することが討論であり、レポートを書くことであり、口頭発表することであることを学生に理解させた上で授業を行うことが重要と考えられる。このようにしてスタディ・スキルズの習得は、課題探求・課題解決型授業の中にごく自然に組み込まれる。さらに、明確になった課題解決の仮説形成を行い、その仮説の妥当性を討論により評価させ、仮説を検証する方法を考えさせる[1]。このようなデザインのもとでは、講義における知識獲得とともに授業時間外での能動的な情報収集や論証の組み立てが必然的に促されることになる。
 スタンフォード大学の松本善子氏が、同大学のフレッシュマン・セミナーとご自身の実践について報告されている[4]。同大のフレッシュマン・セミナーとサフォモア(sophomore)・セミナーは、1996-1997年の試行、1997-1998年からの本格実施以来、2400のセミナーが開講されてきた。担当教員は700名を超える。必須科目ではないが、75%以上の学部生が卒業までにセミナーを受講しており、40%の学生は二つ以上受講している。セミナーの教育目標は、初年次の学生を主な対象として、研究者である教員がどのように研究しているのかを直に経験させ、密度の高い知的な経験を与えること、少人数のクラスで意見交換が多くできる環境で、TAを使わず、教員と学生とが知的興味を共有することによって密接な関係を保つことである。選択科目のため、セミナーを開講する教員が募集されるが、自分の研究に関連したテーマでセミナーをしたいと思う教員のみが教える。セミナーの受講に際して、学生の専門的予備知識は問わないため、予備知識を前提としない授業設計が教員には求められる。学生は1年生2年生の時点から、教員つまり研究者がどのようなことに疑問を持ち、何を考えながら問題を解決していくのか、ということを直接体験する機会を得る。松本氏は、「Language and Gender in Japan:Myths and Reality」というテーマのフレッシュマン・セミナーの実践について報告されている[4]。言語、ジェンダー、日本社会に対する学生の関心と問題意識を、先行研究、日常の観察、討論を通して高め、自分自身の研究課題に取り組ませる。例えば寮のダイニングルームで男子学生と女子学生とでどのような言語行動の違いがあるかについて観察し、討論において先行研究を観察結果に基づいて評価する。このような過程を経て、他研究のまとめではなく、自分自身の課題を見つけさせ、研究を進めさせる。
 本学においても、共通教育の初学者ゼミやゼミナール科目、各学類の特色あるプロジェクト型授業、チュートリアル、少人数ゼミナールが開発、実施されている。中期計画【8-1】に沿って、課題探求・課題解決力を養う教育について学問分野を超えて情報共有や学習成果の評価・検証が行われることが期待される。
(文責 大学教育研究開発部門 西山宣昭)
 
[1]西山宣昭「初年次教育とリベラル・アーツ教育」週刊教育資料No.1208、2012年5月28日号.
[2]絹川正吉「初年次・キャリア教育と学士課程」大学教育学会誌、第28巻第1号、2006年.
[3]武村秀雄「新制大学の展開とそのカリキュラム」『大学カリキュラムの再構成-これからの学士教育』玉川大学出版部、1997年.
[4]松本善子「学びの原点に立つ―フレッシュマン・セミナーが提供するもの―」『大学における「学びの転換」と言語・思考・表現』東北大学高等教育開発推進センター編、2009年.