【No.407】
学士課程教育の教学マネジメントについて -日本高等教育学会第15回大会参加報告

 

○●○ 学士課程教育の教学マネジメントについて -日本高等教育学会第15回大会参加報告 ○●○
 カリキュラムマップの公表を行った大学が増え、学部等の教育目標や学習成果も示されている。本誌405号でも指摘されているように、次の段階として教育目標や学習成果に照らし成績評価基準をどのようにデザインし、具体的に把握し、自己検証していくことが要となるが、これらに関連し、目標設定・教育学習活動(の内容や方法)・成績評価方法の3要素を決定するのに、いかに調整し、共有していくのかといった側面も重要になってこよう。東京大学で開催された日本高等教育学会第15回大会(6月1、2日)の課題部会において、学士課程教育の「教学マネジメント」として取り上げられ、興味深い報告がなされたので、ここで簡単に紹介したい。
 私立大学協会附置私学高等教育研究所「第2回学士課程教育の改革状況と現状認識に関する調査」(2010年9~10月実施)の大学・学科長733名からの回答をベースにした分析(濱名篤関西国際大学学長報告)によると、学部・学科目標の決定は、①学部(学科)で独自に検討・決定する【自律型】がそれぞれ39%、33%②学部(学科)で検討した後、全学(学部全体)的審議を経て決定する【事後審議型】が32%、42%③全学(学部)の方針が存在しそれに沿って学部・学科で検討・決定する【事前方針型】が29%、25%で、3タイプが併存している。また2009、2010年調査との比較から、全学・学部の学科教育への影響力が強まったと認識されている。さらに教育目標等の記述が、1)教員の立場からか、2)学習者の立場からか、3)学習者の立場から行動目標を定義しているか、という観点を加え、②③
方式で調整し2)3)の様式で学習者に配慮した学科を【意思疎通型】、これ以外の方式を【意思疎通なし型】と分けると、【意思疎通型】では対人的能力向上や認知能力向上、自己管理能力など学士力などで指摘された汎用的能力・スキルを重視する傾向が表れている。つまり、「上部との意思疎通を経て目標決定というマネジメントが、共通・教養教育も視野に入れた学士課程教育構築に有効である」ことが推測される。
 ケーススタデイによれば、共通する特徴としてトップマネジメントによるプロジェクト方式で、短期間で教育・学習目標案を作成した後に、学内の了解を取り付けているようで、こうした集権方式の意思疎通型のマネジメントにおいては、学部・学科の専門分野の論理を尊重し学士課程を設計していくのが困難で、そのために汎用的知識・スキル、教養への配慮が行われやすくなっているということが指摘されている。本学について、上記のうちのどの方式で決定されたのかを明らかにすることは目的ではないが、プロセスがどのように進んだのか、教員間での意思疎通はどうであったのか、さらにそのあり方によって目標共有や教育実践のあり方も変化してくると考えられ、教学マネジメントのとり方にも留意しまた検証をしつつ、(PDCAサイクルの)運営を行っていく必要があるように思われる。
 さて、上記でも触れた汎用的能力の形成に関わって、3要素のうちの教育学習活動についての串本剛氏(東北大学講師)の報告も示唆にとむものである。専門分野を問わず、課題探求能力や主体的に学習する力を育成することが、中教審答申や各大学の実践でも重視され議論されている中で、教育方法が大きな位置を占めるからである。
単位制の実質化のためにも、最近の河合塾や東京大学大学教育研究センターの調査分析から指摘されるように、能動的学習(アクティブ・ラーニング)が鍵となり、カリキュラムや授業の設計上、大学内の活動だけで完結させないで、授業外学修を当然のものと考えかつそれを保証する術を考えていかなければならない。一方で、授業時間外学修を前提とするCAP制は、学習(時間)そのものを保証するものではなく、教育方法が変わらないままに履修科目数が減少するれば、能動的学習にもとづく成果が出ないだけでなく、大学での学習全体の質量の低下を招くことになる可能性があると指摘する。
 先の学科長調査のデータから、工学・医学系で省察的(学習者による振り返り)な学習経験の広がりが見られるものの、現状では、全般的にそれらを促すような教育方法が十分に採用されていないこと、全学的な意思疎通という方式であっても、教育方法の方向付けにはあまり影響を与えるものでなく、分野や学科に限らない目標設定を促すことはできても、それら目標を達成するための具体的で能動的な教育学習活動にはつながっていないということであり、この課題についても改めて教員間で論じるべきであると考えられるし、あるいはそうした活動を促すような授業方法に関する(新たな?)FDやコミュニテイ作りというものも必要になってこよう。
併せて、ルーブリックやポートフォリオといったツールを導入して、成績分布状況の把握・分析や効果検証による客観的なデータに基づき議論し、マネジメントして全体的なシステムとして機能させていくことが質保証のサイクルとして求められてきているといえる。
 (文責 評価システム研究部門 渡辺達雄)
 
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『カリフォルニア大学バークレー校の講師による大学院生のための大学教員養成(PFF)講座:テイーチングとライテイングの基礎評価報告書』北海道大学高等教育推進機構、2012年
『北海道大学を中心とした相互評価のための比較分析報告書』北海道大学高等教育推進機構、2012年
『学生による授業評価報告書』香川大学、平成24年3月
『「オフ』と「オン」の調和による学生支援』平成19~22年度最終報告書(文部科学省新たな社会的ニーズに対応した学生支援プログラム)富山大学、平成23年3月
『大学教育研究フォーラム17―学習ツールいまむかし』立教大学全学共通カリキュラム運営センター編、平成24年3月
『不登校傾向の学生へのアウトリーチ型支援(平成22年版)』平成20~21年度中間報告書(文部科学省新たな社会的ニーズに対応した学生支援プログラム)大分大学、平成23年3月