【No.406】
グローバル人材としての力をどう育成し測定するのか

○●○グローバル人材としての力をどう育成し測定するのか○●○
 5月18日(金)に明治大学アカデミーホールで開催された「国際教育プログラムと学習成果分析「グローバル人材を測る物差しを考える」-Eポートフォリオの有効活用の可能性-」(国際教育研究所開設記念国際シンポジウムシリーズ3)に参加した。国内外から識者による「グローバル人材評価指標」および「その測定方法としてのeポートフォリオの有効性」に関する報告・発表があった。シンポジウムの詳細および関連資料は以下のURLを参照いただきたい。http://www.meiji.ac.jp/cip/riie/2012/6t5h7p00000c1qwy.html
 近年、欧州におけるボローニャ・プロセスやOECDが進めるAHELO(Assessment of Higher Education Learning Outcomes)プロジェクトなどにより国際的な学位の質保証への関心が高まり、学位の質を実質的にどのように証明するのかの議論が盛んに行われてきている。日本においてもいわゆるグローバル30プロジェクトや、今年度公募が行われている大学の世界展開力事業、グローバル人材育成推進事業などにより日本の大学におけるグローバル人材育成への支援が進められている。そこで、このシンポジウムでは、このような各種補助事業だけでなく、大学が自ら行っているグローバル人材育成活動における成果を評価するにはどのような方法が有効なのか、そもそもグローバル人材にはどのような能力が求められているのかについて、日本、米国、オーストラリアの大学関係者、グローバル展開企業の人事責任者、文部科学省担当者からの情報提供、論点整理、議論が行われた。
 先ず、飯吉透氏(京都大学高等教育研究開発推進センター教授)から「なぜ今、グローバル人材なのか」についての説明において、現在、企業、大学、国際機関の間での世界規模での頭脳循環が一層活発になっている点があげられた。この流れに乗り遅れまいと欧米の大学はアジアを中心に世界進出を進めており、インターンシップ先開拓も含めた海外事務所の活用、魅力的な教育プログラムによるデュアルディグリー制度整備などを行っている。この頭脳循環で活躍できる人材には、語学力だけではなく、グローバルという視点が必要であるため外国語力強化だけを考えた教育プログラムでは対応不十分であるとの指摘がなされた。また、高等教育においては、世界規模でのオープン(公開)による健全な競争が求められている。教育のオープン化の一例としてOpen Course Ware(OCW)があげられるが、現在では、それを更に進め、インターネットでの配信授業を受講し、課題をこなした学生に対して、学習証明書を出すというような米国スタンフォード大学他の取組も始まっている。これらの取組が成果をあげるようになると、現在の大学教員は不要となり、学習ガイド役がいればいいということにもなりかねない。そうならないためにも、大学教員が積極的にグローバルな頭脳循環の輪に入り、自らの経験を公開し、それらを教員団として共有し、より効果的な教育(=人材育成活動)を行うことが必要である。
 次に、宮田裕子氏( ユニリーバ・ジャパン取締役・人事総務本部長)からグローバル人材に求められる資質についての報告があった。グローバル展開企業には、グローバルな人材ローテーションおよび現地展開力強化のための現地人材育成の二つの観点が必須であり、そのような状況においてグローバル人材には以下のような資質が求められている。
 
・論理的・戦略的・概念的考え
 論理的・戦略的・概念的に考え、それを(英語で)コミュニケーションできる
・多様性の許容度と対応力
  多様な人材の中で比較した場合の、自分の強みを知っている
  文化やスタイルを「良い・悪い」と判断せず、興味・理解を示し、柔軟に対応できる
  チームメンバーとしてリーダーとして、多様なメンバーの強みを掛け算して、高い成果を上げられる
・「不確定」の許容度と推進力
  不確定の状況や詳細が不明のときでも、方向がわかれば前に進める
・パッション
・自分のやりたいことやミッションがはっきりしており、他者の一時的な評価に左右されず、常に大きなエネルギーをもって進める
 
 日本人は、仕事の正確さ、時間を守ること、アイデアを具体化するなどの能力は優れているが、上記資質については欠けている。そのため、特に「論理的・戦略的・概念的考え」については高等教育での養成が期待されており、これらが身につけば、就業における必要性と相まって語学力はついてくるとの考えが示された。また、上記資質の欠如から来るものであるが、「日本では、多様な人材と共にチームで働ける・チームをリードできる人材が不足している。大学の成績はリーダーシップの指標にならない」との厳しい指摘もあった。これらグローバル人材に求められる資質獲得には、若いうちからの海外経験が必須であり、この考え方には、後のパネルディスカッションでも報告者、フロア参加者から大きな賛同が得られていた。
 両氏の報告の後、米国のDarla Deardorff氏(Executive Director, AIEA / Research Scholar, Program in Education, Duke University)、Susan Kahn氏(Director, Indiana University-Purdue University Indianapolis ePortfolio)、オーストラリアのBeverley Oliver氏(Pro Vice-Chancellor (Learning Futures), Deakin University)からeポートフォリオの実践報告がなされた。3氏の報告から、eポートフォリオにおいても、目的を決めて資料、データを収集し、数値だけでなくその背後にあるものについても考え、その上で適切な測定・評価につなげることが重要であることがわかった。この点は、大学におけるIR活動にも共通する課題である。eポートフォリオは、万能ではないが、現在、社会から求められている学習成果の可視化(どのような能力を、どのような方法で、どのように測定し評価するのかを明示的に示す)において有効なツールの一つであり、今後、金沢大学においてもアカンサスポータルのポートフォリオ機能を発展拡充させて積極的に活用していく必要があると感じた。
 ここまで「グローバル人材育成に大学が果たす役割」、「グローバル人材に求められる資質」、「グローバル人材能力測定ツールとしてのeポートフォリオ」について紹介させていただいた。これらに加えて、個別大学が自らのディプロマポリシー、カリキュラムポリシー、アドミッションポリシーに照らし合わせてグローバル人材を育成する際には、以下の2つの点が問題となる。一つ目は体系的な教育課程整備に関するものである。せっかく教員や大学が授業や各種指導の現場において学生にグローバルな視点を与え、資質、能力を向上させる取り組みを行っても、学生が身に付けた資質、能力を国際的に証明するための体系的な教育課程整備がなされていなければ、その努力が報われない可能性がある。科目ナンバリング制度導入、シラバスの多言語化、学修時間確保による単位制度の実質化などのシステム整備がなされてこそ体系的な教育課程としての国際的な信頼性が担保できるのである。二つ目はFDに関するものである。双方向型授業やアクティブ・ラーニングなどの課題解決型の能動的学修推進は、上記グローバル人材に求められる資質獲得にも有効であり、今後のFDの大きな柱であると考えられる。
 金沢大学においても、国際学類を中心にグローバル人材育成に取り組んできている。これら全学および各学類の取組およびその成果を学内外に示すことは金沢大学の世界的教育・研究拠点(大学憲章にある「東アジアの地の拠点」)としての社会的認知につながると思われる。既に策定されているディプロマポリシーや学習成果が、かなりの部分でグローバル人材育成で求められている資質、能力と重複している点、また、大学が「地域と世界に開かれた教育重視の研究大学」、「東アジアの地の拠点」を標榜している点を踏まえ、今後、グローバル人材育成をより意識した教育プログラムの組織的運用が求められるのではないだろうか。
(文責 評価システム研究部門 堀井祐介)