【No.405】
学習成果(Ability-based Learning Outcomes)とその達成度評価(Assessment)

 

○●○学習成果(Ability-based Learning Outcomes)とその達成度評価(Assessment)○●○
 
 4月に公表された各学類のカリキュラム・マップには、各学類の学位授与方針から導出された複数の学習成果(Ability-based Learning Outcomes)が列記されている。このカリキュラム・マップには、各学類の各専門科目の学習目標も列記されており、一つの学習成果の達成にどの授業科目が寄与するかが一目瞭然でわかるようになっている。卒業研究も含む各授業科目の学習目標は、授業科目レベルでのAbility-based Learning Outcomes であり、それらの累積が各学類の学位授与方針から導出された学習成果となる。ここで、学習成果、学習目標、成績評価基準の相互の関係を整理してみる。成績評価基準は、授業科目の学習目標の達成度評価基準であるが、学習目標がその授業科目の履修によってどのようなことができるようになるのか、どのような能力が身につくのか、つまりAbility-based Learning Outcomesを具体的に記述したものであれば、学習目標の記述は成績評価基準と見なすことができる。カリキュラム・マップに基づき、各学類の学習成果は、複数の授業科目の学習目標が参照すべきAbility-based Learning Outcomesと見なすことができることから、同時にそれらの授業科目の成績評価基準の策定においても対応する学習成果の記述を参照しながら行われる必要がある。学位授与方針から導出された学習成果の達成に寄与する各授業科目において、対応する学習成果の達成度評価に整合する達成度評価(Assessment)基準、つまり成績評価基準をいかにデザインするかが今求められている教育の質保証の核心であり、本学の中期計画においては、以下の24年度計画に対応している。
 
【10-1】各学類の学位授与方針と各科目の学習目標に照らして,成績評価基準を明確にする。
【10-2】成績評価基準と学位授与方針に基づき各科目の成績評価や学位論文の審査を厳格に行う。
【13-1】各学類のカリキュラム・マップにおける学習成果の分析に基づき、学類ごとに共通する卒業時における学力の達成度評価のための具体的な評価基準を開発する。
 
 ここで、【10-1】(学類)および【10-2】(研究科)は、それぞれ学習成果および学位授与方針と授業科目の学習目標との整合を念頭に置いた上で、学習目標の記述を成績評価基準としても活用できるようにより具体的な記述について検討することを、【13-1】は学習成果の記述を、その学習成果を共有している複数の授業科目における成績評価基準が参照できるよう、より具体的な記述について検討することを示している。
 学習成果(Ability-based Learning Outcomes)をいかに設定するか、そしてその達成度をいかに評価するか(Assessment)が、現在、教育の質保証における国際的な課題となっている。アメリカやイギリスでは、専門分野別の学習成果についての検討が進んでいる。以下の例からわかるように、専門分野の知識の獲得は大前提であり、学習成果として知識の運用能力などAbility-based Learning Outcomesが明確である。
 
アメリカのAccreditation Board for Engineering and Technology (ABET) が策定した学習成果 
・数学、科学、工学の知識の応用する能力 
・実験をデザインして進行し、データを分析して解釈する能力 
・経済、環境、社会、政治、倫理、健康、安全、生産可能性、 持続可能性などの現実的な制約の
もとで、ニーズに応えるために、システム、要素、過程をデザインする能力 
・学際的なチームの一員として、役割を果たす能力 
・工学の課題を設定し、解決法を考案し、解決する能力 など
イギリスの高等教育質保証機構(QAA)が策定した学問分野ごとの学習成果(【法学】の例)
 ・複雑すぎない状況に知識を適用し、具体的な問題に論拠ある結論を出す基礎的な能力 
 ・いくつかの解決策の選択肢を提示し、それらの中から論拠ある選択を行うことができる。 
 
 学習成果の達成度評価(Assessment)基準の開発については、OECDによるAssessment of Higher Education Learning Outcomes(AHELO)の検討が国際的な枠組みで進められている。我が国もAssessmentの方法の開発に工学系が参加している。また、3月26日に中教審大学分科会大学教育部会が公表した「予測困難な時代において生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ(審議まとめ)」においても、学生の学修到達度を測る方法(アセスメントテスト、ルーブリック等)の研究・開発の推進の必要性が指摘されている。
 以下に、学習成果(Ability-based Learning Outcomes)の達成度評価(成績評価)基準の記述の例を紹介したい。以下の本学工学部卒業研究(2003年度)の達成度評価の例では、学習成果の一つとして課題発見・設定能力が設定され、この能力がさらに5つに分割された上で、それぞれの能力が身についたかどうかの評価基準が(成績評価が可能となる)具体性をもって設定されている。
 
・課題発見・設定能力
・提案能力:与えられた大枠の課題に関連する意義ある具体的な研究課題を提案できる。
・課題の意義付け:提案した課題の背景、重要性や意義 について主張できる・間違っても良い。
・課題実施の見通し:提案した課題遂行の可能性について、測定装置や設備、ソフトウエアの
環境の限界を考慮して課題実施の概要計画を立てることができる。
・課題設定能力:指導教官、大学院生と討議して、最終的に実施する課題を適切に選択できる。
・結果の予測能力:課題実施結果から得られるであろう結論をある程度予測できる。
 
 以下は、アメリカのFresno City Collegeの生物学の学習目標の記述を成績評価基準の記述に転用した事例である。学習目標の記述は、成績評価に用いるには具体性に欠けるが、成績評価基準は、どのようなことができることが求められているかが明快である。
 
【学習目標】科学的な方法を理解し適用することができる。 
【成績評価基準】ある仮説が与えられた時、様々な方法で科学的方法を調べることができ、問題を明確化し、その問題に答える実験を設計し、結論を得るために実験データを分析し、評価することができることを示すこと。
 
 学習成果(Ability-based Learning Outcomes)とその達成度評価(Assessment)基準の明確化は、教育の質保証に必要であるばかりでなく、学生にとってはどのような能力を身につけるべきか、求められているかを具体的に把握し、自身の学修の振り返り(reflection)を促す上で極めて重要である。学生に身につけさせるべき能力の養成に担当する授業科目が寄与しているかを検証するために、学習成果を参照した上で成績評価基準を自己検証することが求められる。
(文責 大学教育研究開発部門 西山宣昭)