【No.404】
秋入学を学生の学習意欲・授業理解度向上のための教育改善という視点で考える-その3-

 

○●○秋入学を学生の学習意欲・授業理解度向上のための教育改善という視点で考える-その3-○●○
 
 風薫る五月、木曜日2時限、角間キャンパス総合教育講義棟B1講義室では、窓を開け放ち、医事法入門の授業で約180名の学生たちが、グループワークを行っている。テーマは<現行の「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律 」では禁止されている行為のうち、 かりに、今後、医療行為として、人クローン個体を作り出すことが許される場合があるとすれば、どのような場合か>である。医薬保健学域1年生優先の共通教育科目の一こまである。
 
 医事法入門で取り上げる三大テーマの最初のテーマであり、2回の講義型授業に続く2回のグループワークの実施である。グループワークの間には、ポータルにおける準備会議での3日間の意見交換(151名が書き込み、学習履歴968回)を経ている。2回のグループ内プレゼン後、教壇に立っての代表プレゼンが続き、クリッカー投票による相互評価により、三つのグループが拍手での表彰を受けた。最後はいつも通りミニッツペーパーを提出してもらったが、1名を除く全受講生が、グループワークによって得たことについて複数の回答を書き込んだ。そして大事なことは、このテーマのグループワークで当然のように中心の話題となった、二つのテーマ、すなわち、臓器移植と不妊治療というこれからの授業のテーマについて、受講生それぞれが、予習すべき課題を自ら見出したことである。日本の移植医療について、法律はどうなっているのか、生体・脳死・心停止での提供数は?、それによって必要な患者全てに手術がおこなわれているのか、なぜ渡航移植が続くのか。不妊治療について、国のサポートの体制は?体外受精の割合や多胎妊娠の事例は?出生前診断の普及は?中絶の状況は?そもそも母体保護法という法律はどう運用されているのか・・・などなど、自分で調べるべき事項が具体的に次々、現れてくる。そこからは例えば、iPS細胞と再生医療や、不育症のことなどまで、考察対象を広げる学生がでてくることになる。
 
 さて、この科目の受講生の中には、授業で推奨している、林大地著『見習いドクター患者に学ぶ-ロンドン医学校の日々』 (集英社新書、2008年)を読んで、次のようにポータル会議室に感想を書き込んだ学生がいる。
「私はこの本を読んで、作者は楽しそうだと感じました。 もちろん実習や勉強に真剣に取り組んでいるし、苦労もしています。 
 
 しかし、それだけではなく、充実した学びに対する満足感や、患者との関わりを通した喜びが伝わってきます。 これは、私たちにも大切なことだと思います。 日々の学習は受け身ではなく、目的や目標を意識した主体的なものでなくては、なかなか身につくものではありません。 実際筆者も、自らが経験した事例については細部まで覚えていたと書いています。さらに、真剣に取り組む分、充足感が得られます。 これが勉強を楽しいと感じることにつながるのだと思います。 
 
 私たちは目指すものがあって入学してきたのですし、将来は患者さんの健康を左右する身になるのですから、楽しめるような学習(実のある学習)をするのは当然ともいえます。」
ちなみに、新書の筆者、林大地氏は、「イギリスで医学教育を受け、卒後の必修初期研修を終えた私には、その後に取りうる進路が2つありました。イギリスで臨床研修を続けて専門医の資格を取るか、帰国して日本の医師国家試験を受験し、日本の医師免許取得を目指すか―。「日本人である以上、祖国でも医師として働きたい」と思い、11年ぶりに本帰国する決断をしました。」
(http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/blog/kurofunet/dhayashi/201205/524562.html
2012. 5. 1) といったブログを書くなど、日本の医学教育について国際的視野から分析している。この林氏の書いたイギリスの医学教育について、受講生が上記のように感じたのである。
 
 この受講生は、当然のように、グループワークの準備会議でも積極的な書き込みにより議論の起点を提示し、文字通りアクティブ・ラーニングを実践している。中間レポートも3冊の課題図書(上記推奨書物を含まない50冊から選択)を読み、締切の2週間前に早々と提出している。
 
 一人の受講生の例を紹介した。共通教育担当教員としては、一年前期の共通教育科目におけるこうした受講生たちの学習意欲が卒業まで(さらには生涯)続くことを期待したいものである。
 
 今、大学教育の現場では、学習成果の可視化が一つのキーワードである。例えば、立命館アジア太平洋大学では、「3月に入学確定者がアメリカに短期留学し、異文化体験をすることにより、大学四年間の学びや英語学習の目標を設定させる」入学前教育(「ACCESS」)を実施しており、5月21日開催「立命館大学G30セミナー 学習成果分析-『学び』の可視化を目指して-」での平井達也氏の報告によれば、一定の成果を挙げつつあるとのことである。こうした実績が積み重ねられれば、本学のように3月後半にならなければ入学生が決まらない大学にとって、秋入学という新制度導入によって、学習意欲を高めるための入学前の取り組みの可能性が現実味を帯びてくる。ただし、現時点でも、4月5月にかけて、ポータルによるブレンディド・ラーニングをフルに活用し、予習・復習をして授業に出席することが当たり前であることを習慣づけ(ポータルでの意見発表や予習成果書き込みは、そのままポートフォリオにもなる)、グループワークを繰り返すことによって、自らの学習課題を見つけさせ、授業内容理解度を高めることは可能なのである。むしろ、現行制度下でのこうした試行錯誤抜きで、秋入学という制度導入によって学習意欲・成果にドラスティックな変化を期待することは無謀なこととも思える。
 
 私は日本医学教育学会などでこうした報告をするたびに、アクティブ・ラーニングは少人数なら可能でも大人数ではできそうにないなどという感想を聞く。だが、指摘するまでもなく、日本の高等教育を支えているのは、少人数対象の専門教育だけでは決してない。筆者のような、200人あるいはもっと多くの受講生を相手の教養の授業が、毎日、数百の大学・短大で行われているのである。そうした授業実践に基づく報告が、例えば、5月26日と27日に北海道大学で開催される大学教育学会などで、披瀝される。いわば草の根の、普通の科目における授業の質向上努力の可視化もまた、教育改革の焦点といえる。(文責:教育支援システム研究部門 青野 透)
 
●○●角間ランチョンセミナー 国際交流月間 開催中●○●
10年目を迎えたランチョンセミナー、5月は恒例の国際交流月間。最終週は以下の予定です。
5月28日 (月) ヴルボウスキー・マテイ 、マティアシコヴァ―・リディア「スロバキアの伝統的な習慣」 29日 (火) 山崎光悦副学長 「金沢大学の国際化に向けて」 30日 (水) ホワイト・クリストファー・リー「アメリカの大学生」 31日 (木)  山口浩司(JICA北陸)「『もし、世界が100人の村だったら』から見る世界の現状と日本の役割」