【No.399】
秋入学を学生の学習意欲・授業理解度向上のための教育改善という視点で考える-続-

 「教養とは何かということを考えると、この言葉を例えば英語に置き換えるとしたら、僕は『サイエンス』だと思うんです。例えば、僕の古典文学の読み方というのは、ある意味では非常に科学的な読み方なんです。問題はそこに立脚して、そこから先にどう行くかということなんですね。ですから、ちゃんと論理的、科学的にものを考えるという基礎がないと、すべての思念は恣意的になってしまう、つまり自分勝手なものになってしまう」
 脳科学者・茂木健一郎との対談における書誌学の林望の言葉である(『教養脳を磨く』NTT出版、2009年)。その上で、「イギリスの大学には一般教養なんてない。専門科目が大体三ヶ年で、入るといきなりスペシャリティ」「各コレッジはいろいろな専門家が集まっていて、それが一つの一般教養になっている」「それぞれのアカデミック・バックグラウンドを持った人たちがインターディシプリナリーな会話をする。そういうテーブル談話、卓話が一般教養なんです。進化論を例にとってみても、進化論というものの背景にはキリスト教神学だとか天文学、哲学、さまざまなバックグラウンドがあるわけで、そういった他の分野の専門家たちと年中議論を戦わせていた中でおそらく生まれてきた議論だと思います」と指摘している。
貴重な指摘である。秋入学問題に関しては、イギリスのギャップイヤーのことが引き合いに出される。「イギリスでは、最近大学生の中途退学率が問題となっています。先日のニュースでは、中途退学の問題について国民が税金の無駄遣いであると非難し、それによる大学の経営の危機が報じられていました。しかし、ある調査によると普通に進学した学生に比べて、ギャップイヤーを経験した学生は、中途退学率が極端に低いそうです。一年間社会経験を積むことによって、大学での学習意欲が増大するからでしょうか。」(馬場晶子、イギリス私立中・高留学レポート、http://www.alc-ryugaku.net/s/jh/report/21.html)との情報もある。
 大事なのは、そのイギリスではギャップイヤーを経験した学生たちがどんな教育を受けることになるのか、ということを併せて確認しておくことであろう。ギャップイヤー、あるいはギャップタームに学生の成長を期待するだけで、肝心の入学後の4年間、6年間の授業やカリキュラムの改善を怠れば、大学は教育責任を放棄したことになってしまう。
私は、週刊センターニュース第389号(2012年2月6日)にて、「秋入学を学生の学習意欲・授業理解度向上のための教育改善という視点で考える」と題し、「FDの視点、つまり、大学における教育内容充実のためという視点から、秋入学を考えてみたい」「この問題を検討するにあたり最も重要なキーワードは、ギャップターム」「合格発表から入学・授業までの間の期間をどのように意味づけるかで、秋入学の評価は大きく変わ」るとして、新入生の大学における学習のいわば〝構え〟作りと、障害学生支援体制作りという二つの観点から、私見を述べた。それに加えて、初年次学生をどのような教育体制で迎え入れるか、その議論が重要ということになる。
 本学では、当センターの主催で2003年6月から始めた、角間ランチョンセミナーが今年度、10年目に入った。翌年には、私を代表としたセンタースタッフが「大学教育における学習動機付けのための試みー金沢大学角間ランチョンセミナー 」と題して大学教育学会第26回大会で報告したが、立ち上げ時に示した狙いは一定の成果を収めていると判断している。
前期は毎日、昼休みに12時10分~40分の間に、大講義室で開催している。私も呼び込みだけでなく、講義を担当することがある。少し硬めのテーマでも、弁当やサンドイッチを食べながら、気軽に耳学問をしている学生たちの姿がある。5月になれば、国際交流月間として、留学生たちが母国の近況をレクチャーし、学長も毎年のように演壇に立つ。10年近くも経てば、久しぶりにやってきた卒業生が今もやっているんですね、と声をかけてくれたりする。
 ほとんどが一年生である。文系も理系もない。教員や図書館職員やカウンセンラーや生協職員やそして先輩学生たちの話に、気軽に耳を傾ける。時には、JICA(国際協力機構)や石川県ユネスコ協会など、学外者からの講演に刺激を受け、さらには、ミニコンサートもある。イギリスの全寮制のコレッジのような一般教養を育むキャンパス文化からは程遠いが、入学時期問題の帰趨とは関係なく、入学直後の、本学なりの文理融合にもとづく〝教養脳〟をもった学生を育てるための初年次の隠れたカリキュラムとして機能しつづけるべきものと思う。
 中村信一学長は、『文明の転換期―21世紀を切り拓く大学へ』(本学HP掲載)で、「ポスト工業文明の方向性を模索し,複雑な問題を解決するには,学部・学科という従来の学問分野が抱える問題点を克服し,学問分野の枠を越えた幅広い知識と能力を有する人が求められています。「3学域・16学類」制は,現代社会が求める人材を育むための幅広い課題に対応できる柔軟な教育組織であり,「学生のための大学」の構築を目指したものです」と語っている。
 振り返れば、記念すべき第一回のランチョンセミナー(2003年6月10日)は、畑 安次・初代センター長による「 学生によるキャンパス文化の創造について」であった。学びの主体は学生である。この前提に立っての大学教育改革である。その中に入学時期、ギャップイヤーという項目も位置づけられ議論される。「幅広い課題に対応できる柔軟な教育組織」を全国の大学に先駆けて導入した本学が、入学時期について、当センタースタッフが提供する国際的な高等教育制度についての知見を活かし、地域社会の声を聴きながら、国内の他大学の動向を見据え、上記の前提に立ってどれだけ真剣に議論することができるか、改組のときと同様、全学教職員に、共同教育責任を果たすべき覚悟が問われている。(文責:教育支援システム研究部門 青野 透)