【No.389】
秋入学を学生の学習意欲・授業理解度向上のための教育改善という視点で考える

○●○秋入学を学生の学習意欲・授業理解度向上のための教育改善という視点で考える○●○
1月18日、全国紙は一斉に一面で、東京大学秋入学実施へ、という記事を伝えました。その後の報道によれば、国立大学の多くがこれに追随すると予想されています。ここで、FDの視点、つまり、大学における教育内容充実のためという視点から、秋入学を考えてみたいと思います。
この問題を検討するにあたり最も重要なキーワードは、ギャップタームです。合格発表から入学・授業までの間の期間をどのように意味づけるかで、秋入学の評価は大きく変わります。
まず、学生にとって、受講科目選択に十分な時間が確保できるという大きなメリットが生じます。今、新入生たちは、簡単なガイダンスののち、分厚いシラバス集を与えられ(本学ではウェブ閲覧です)、その中から、上級生や友達からの正確さが不明な噂などをもとにしながら、科目を選び、一定の期間内に、履修登録を済まさねばなりません。
 入学式から授業開始までに限られた日数しかありません。15回の授業回数確保のためもあり、非常にタイトなスケジュールになっています。大学により、実際の履修登録の期間は様々ですが、授業開始から2週間内外で登録を締め切り、その学期に受ける科目が決まることになります。
これに対し、ギャップタームを設ければ、その間にボランティアやインターンシップなどを
しながら、大学で実際に何を学ぶのかを見定め、時間をかけて、科目を選べばいいことになります。人気などではなく、自分にとって本当に意味があると思える科目を、他学部の科目や、単位互換している他大学の科目も見ながら探せばいいのです。
大学は、この間に、入学者の状況に併せて、授業内容・方法を考え直すことができます。たとえば、今年の合格者は、入試では英語のこういうところが弱かった、だから1年次の授業でこういう工夫をしよう、このコースの希望者が多いから新設科目を作ろうなどということも可能です。
現在は、新入生の最初の授業の何回かは手探りです。新入生も教員も、お互いに情報がなくて、お見合いのような授業になります。学生の立場に立った、学生に分かりやすい(と自信を持てる)授業をするために、ギャップタームは、教員にとって有難い準備期間になります。
次に授業方法の面で、とくに障害学生支援という重要な課題に対して、大学はギャップタームで準備できることがたくさんあります。車いすの学生の入学が決まったなら、必要なバリアフリー化の工事ができます。聴覚障害学生の人数が決まったらノートテイカーを時間をかけて養成し、授業用ビデオ映像に字幕を入れることができます。手話講座を新設することもできます。授業担当者に、「合格者の中に発達障害の診断を受け配慮を希望している学生がいます。その学生が履修をする可能性がありますから、授業設計に工夫をしてください。必要な講習会をします」と、非常勤の先生を含めて教員に伝えることができます。今は例えば、ノートテイカーの確保・養成を4月にバタバタとやって、新入生の授業になんとか間に合わせるというのが多くの大学の実態です。バリアフリーの工事も、当該学生の入学後何カ月も経ってからになってしまいます。
学生の科目選択の自由を確保し、分かりやすい授業設計につながり、障害学生支援の質を上げるために、ギャップタームを活用できるのであれば、秋入学は積極的な導入を検討してもいいと考えます。(文責:教育支援システム研究部門 青野 透)
●○●「大学における発達障害学生支援-的な力を引き出すために-」開催について●○●
金沢大学障害学生支援委員会主催「平成23年度第一回障害学生支援研修会「大学における発達障害学生支援-潜在的な力を引き出すために-」
時:平成24年2月21日(火)10時30分~12時
所:角間キャンパス事務局棟6階 大会議室
趣旨:本学は、中期目標の「学生への支援に関する目標」において、【障がいのある学生に対する配慮】として「 障がいのある学生の修学・生活支援体制を充実する」と定め、この目標を達成するため、中期計画において具体的に「障がいのある学生及び障がいのある学生の支援に直接携わる教職員をサポートする全学的な体制を整備する。」と記しています。今回、発達障害のある学生に対する支援に関する研修会を実施します。
講師:高橋知音 信州大学教育学部教授(教育科学)。Ph.D. , ジョージア大学(教育心理学研究科, 応用認知発達科学)。科学研究費補助金(研究代表者)を得て「 AD/HD大学生のためのスクリーニング・テストの開発とそれに基づく支援サービス」「自閉症スペクトラム障害のある大学生の社会的認知能力検査バッテリーの開発」等の研究に従事。本年3月に「発達障害のある大学生のキャンパスライフサポートブック(学研)」を出版予定。翻訳書(監訳)に「ADHDコーチング―大学生活を成功に導く援助技法(明石書店)」、共著として「LD・ADHD・高機能自閉症等の人の学校・家庭での生活を支えるヒント集―高校・大学編―(黎明書房)」、「教職員のための障害学生修学支援ガイド(独立行政法人日本学生支援機構)」などがある。本講演に関連する論文として、「大学における発達障害学生支援の現状と課題. 心理臨床学研究. (印刷中)」、「Cross-cultural comparison of ADHD symptoms among Japanese and US university students. International Journal of Psychology. (in press)」、「Cross-national invariance of ADHD factors. Research in Developmental Disabilities, 32, 2972-2980. 2011」「発達障害を育ちから見る―大学生. 臨床心理学増刊第2号(金剛出版), 82-87.」、「アスペルガー障害のある学生の自立的課題解決を育てる包括的支援 精神療法, 37(2), 178-183. 2011」、「米国の大学における発達障害のある学生への支援組織のあり方  LD研究, 17 pp. 384-390. 2008」、「社会的行動の評価課題の作成:暗黙のルールの理解を測定する試み. LD研究, 20, 304-316. 2011」など。
概要:発達障害(診断の有無とは関係なく)のある学生は、能力の偏りがあるが苦手な部分を少し補えば、全体的なパフォーマンスが上がり、得意分野で高い能力を発揮する可能性があります。大学による適切な支援が必要な所以です。もちろん、支援内容によって、支援者にある程度の負担がかかるもの、一般的なやり方の変更を求められるものがあります。また、発達障害は障害の有無がはっきりしない場合も多く、支援の多様性・柔軟性も必要とされます。そして、支援専門職がいれば解決する問題ではなく、個々の教職員の献身的な努力に頼る方法は長続きしないことも当然のことです。一方で、なんでもやってあげるという姿勢では、成長の機会を奪うこともあり、社会的自立能力の育成を目指す大学教育ではその点にも留意しなくてはなりません。すべての関係者が学生の特性に応じたちょっとした合理的配慮を行うことにより、潜在的な力を発揮できる環境を提供することになり、結果として、高等教育のユニバーサルデザイン化も可能になります。信州大学等の支援の実践例や、アメリカの大学での取組の紹介を交えながら、発達障害学生の支援について課題の指摘とその解決提言を試みます。