【No.384】
高等教育の質保証と学生支援-教育情報公表をめぐる法制度から考える-

○●○高等教育の質保証と学生支援-教育情報公表をめぐる法制度から考える-○●○
 2011年という年は、大学関係者にとって、予定されていた教育情報公表の年であり、そして予期せぬ震災・原発事故への対応という二つの大きな課題に直面した年であった。後者については、11月の大学教育学会課題研究集会(開催校:山形大学、参加者:283名)での山本陽史山形大学教授による基調講演「東日本大震災と大学」の内容および、課題研究シンポジウム「学生支援で学生はどのように変容しうるのか」(司会者:沖清豪(早稲田大学)、川島啓二(国立教育政策研究所))での山形大学および早稲田大学の学生たちが語った<被災地支援などで行ったこと、それから得たこと>が強く印象に残った。内容は大学教育学会誌に掲載されるが、これからの大学教育で教えるべきことを考えるために貴重な記録としての価値を持ち続けるものとなろう。
 さて、ここでは、前者の教育情報公表について、教育の質保証および学生支援の観点から再度整理を試みたい。なお、筆者は、「発達障害学生への配慮義務とFD・SD-公表すべき教育情報として-」『私学経営』429号(2010年10月)、および「授業情報公表時代における授業方法改善」『文部科学教育通信』 270号(2011年6月27日)(出版社の許可を得て金沢大学学術情報リポジトリーにより公開済み)において、関連の報告をしているので参考にされたい。
 本センターニュースでは、第314 号(2010年6月28日)にて、「省令改正により法的義務となった教育情報公表」と題し、「学校教育法施行規則等の一部を改正する省令(平成22 年文部科学省令第15 号)が、6 月15 日に公布され,来年4 月1 日から施行される。この省令改正は、文部科学省より全国の大学長等に向けて出された6 月16 日付け通知によれば、「大学等が公的な教育機関として,社会に対する説明責任を果たすとともに,その教育の質を向上させる観点から,公表すべき情報を法令上明確にし,教育情報の一層の公表を促進する」ことを趣旨としている。大学院、短大を含め、全ての高等教育機関に項目を明示しての教育情報公表義務が課された」
として、課題等を明らかにした。
一年半経過し、先日、「長崎大学メンタルヘルス講演会」で、「高等教育の質保証と学習支援-発達凹凸の学生への配慮を起点として-」と題する講演を担当するにあたり、この問題をあらためて学生支援・学習支援という観点から捉えなおしてみる機会を得た。
まず、「国立大学法人法」(平成15年7月16日)(業務の範囲等)第22条に注目したい。「国立大学法人は、次の業務を行う。1 国立大学を設置し、これを運営すること。2 学生に対し、修学、進路選択及び心身の健康等に関する相談その他の援助を行うこと。・・・」と規定する。法人業務の2番目に学生相談・支援がある。これに関し、参議院の文教科学委員会 議事録(平成15年6月5日)によれば、河村建夫文部科学省副大臣の次のような立法趣旨が示されている。すなわち、「大事なことは、学生に対するカウンセリングや就職支援等を今回の法案で業務としてはっきり明記をするということによって学生サービスの向上が、充実改善が図られるということでありまして、こうした学生の立場に立った大学運営を是非やっていただく。そのことを大いに期待をいたしておるわけでございまして、今回の法人化によってその法人化の趣旨というものが十分生かされて、学生の視点を重視することによって、いわゆる高等教育機関としての質の高い教育が提供できる大学になってもらいたい、このように考える」と述べているのである。
 そして7年後、学校教育法施行規則第172条の2で、「大学は、次に掲げる教育研究活動等の状況についての情報を公表するものとする。・・・7 校地、校舎等の施設及び設備その他の学生の教育研究環境に関すること・・・9 大学が行う学生の修学、進路選択及び心身の健康等に係る支援に関すること」と義務付け、さらに、「文部科学省通知 文科省 「学校教育法施行規則」一部改正の留意点」は「(第7号関係):学生生活の中心であるキャンパスの概要のほか、運動施設の概要、課外活動の状況及びそのために用いる施設、休息を行う環境その他の学習環境、主な交通手段等の状況をできるだけ明らかにすることに留意すること。」「(第9号関係):留学生支援や障害者支援など大学が取り組む様々な学生支援の状況をできるだけ明らかにすることに留意すること」と指示したのである。これにより、法人化された国立大学のみが対象であった学生相談・学生支援の業務が、短期大学を含む公立・私立大学にもその業務内容を公表することを通じて義務付けられたことになる。
 「大学の営む機能の中で、厚生補導ほど、その役割について現在もなお明確にされていないものはまれであろう。学生の中に貧困と疾病がなくなり、いろいろなトラブルが起らなければ、学生の世話をするこのような仕事は、本来不必要なものであると考える人も少なくない。厚生補導とは、このように学生生活にかざす影を排除し、「好ましくないもの」を除去するだけの仕事であろうか。」「一方、教育をまじめに考える人々は、大学の生活を通じて、学生が「教育の目的を達成する」ということは、教室内の教授研究の場だけを通じて、その一切が成就されるものであるとは信じない。」「学生の立場から考えても明らかなように、学問の研修ということは、かれらがその年齢層は特有な傾向を持ち、その生活を展開してゆくときの重要な要素ではあつても、その生活の内容のすべてではない。飲み・食い・住い・そして喜び・悲しみ・あこがれ・悩むこと―切が、人間生活の内容を構成するかぎり、教育の目標として人間的な成長を考える場合、学生についても、これらの全体の活動をひとりの学生として生きたとらえ方をするのでなければ、教育はその本来の意味を失うであろう。 厚生補等とは、このように学生を生活し成長する主体としてとらえ、かれらが学園を中心とする生活の中で、その個性に応じて最高度の成長と発達を遂げ、将来民主的な社会人としてその技能を発揮するための資質を身に着けうるように、大学が学生に対して与える科学的組織的な指導と援助の活動をいうのである」と『わが国の教育の現状(昭和28年度) 』(文部省)と指摘されてから約60年経ってようやくの法制化である。
この観点からは、大学設置基準(平成22年追加条項) 第42の二「大学は、当該大学及び学部等の教育上の目的に応じ、学生が卒業後自らの資質を向上させ、社会的及び職業的自立を図るために必要な能力を、教育課程の実施及び厚生補導を通じて培うことができるよう、大学内の組織間の有機的な連携を図り、適切な体制を整えるものとする」が、「卒業後、社会的自立を図るために必要な能力」を「教育課程の実施」だけでなく、「厚生補導」を通じて培うことを義務付けてたことを重視すべきである。正規・必修科目として、就活の時点でまるで企業の即戦力であることを強制するかのようなキャリア教育を法令は義務付けているわけではない。学生が卒業後も自ら資質を向上させることを信じ、教室外・正課外の「人間的な成長」を、学内の全組織が連携して支援することを求めているのである。来たるべき年は、学生支援の質向上で高等教育質保証を行うスタートの年としたいものである。 (文責:教育支援システム研究部門 青野 透)