【No.374】
教育の成果を学生の学習意欲から考える-その①先行研究から-

○●○教育の成果を学生の学習意欲から考える-その① 先行研究から-○●○
 私は人間社会学域1年次後期専門科目「大学・学問論」の授業を分担担当している。本学の教育組織における学域・学類化とともに誕生した科目であり、六つの文系学類の共通の専門科目(選択)として位置付けられている。今年で4年目である。毎年、第1回と第2回を私が担当し、科目への導入として、大学と学問について考える意味を学生たち自身に気づかせることを試みている。昨年度はサンデルの東大での白熱教室をビデオで見てもらい、その内容と方法の何が優れているのかを、学生たちに考えてもらった。今年度は、受講生約130名に対して、予習課題「他の人に薦めたい、高校までに読んだ書物」「大学入学後に読んだ書物」へのポータルにおける回答を求めたうえで、実際の授業ではグループワーク(4人一組)の時間を設けた。十数分のワークの結果、他の受講生がプレゼンで薦めた本を読んでみたいと、85%の学生が回答するに至った(クリッカーによる即時回答)。そして、49%の学生が今回の授業で「学習意欲が高まった」と回答した(「ノー」17%、「分からない」34%)ことから、所期の目的は達成できたと判断している。
当該授業が成立するだけでなく、一定の成果に結びつくためには、シラバスにおける説明に基づく選択とともに、学生が、科目の開講意図をきちんと把握してその授業を受け続ける動機を持つことが、まずは不可欠である。その後は、各回の教員がその期待に答える内容で、工夫をした方法の授業を展開すればいい。15回の授業の最初数回はその意味で非常に重要である。同様に、4年間・6年間の学士課程のスパンで見れば、初年次科目の目的の一つは、学生の学ぶ意欲をかきたてるところにあり、その科目履修後も関連テーマについて持続的に学ぶことの動機づけまでがなされれば、とりあえずは、その科目の開講意義は存在すると判断できよう。
このような観点から私は、科研の補助金を得て「学習意欲を高める授業科目が教育成果全般に及ぼす影響とその評価」と題する研究を行っている。一つ一つの科目の授業が学生の側のヴィジョン=学習意欲を抜きに成立することはありえない。そうであれば、学士課程教育全体においても、初年次に学習意欲を高めることを意識した科目が存在することによって、その後の4年間の教育成果に違いがでてくるのではないかとの仮説を検証しようとするものである。
学士課程全体における教育成果における検証は、各大学において喫緊の課題となっている。
例えば、広島修道大学では、本年度総額500万円で、「学士課程答申以降、大学教育の質保証に向け、教育成果指標の開発が大学教育の課題となっており、とくにディプロマ・ポリシーに基づく、出口保証の手段の確立が求められています。この度、これらの諸課題への取り組みを推進することを目的に」、「教育成果指標の開発支援」事業を実施している。そこでは、【テーマ例】として、学習カルテ・ポートフォリオの活用と評価方法の研究、専門教育における成果指標の検討、共通教育における成果指標の検討、情報教育のあり方と成果指標の研究、卒業論文・卒業研究の評価基準の検討、各専門分野における卒業試験の検討、正課外教育・課外活動における成果指標の開発、などが示されている。大学設置基準は組織的研究としてFDを義務付けている。広島修道大学の試みは、自分の大学・学部・専攻等の実情に応じた成果指標を確立しようとする、注目すべき取り組みといえよう(http://www.shudo-u.ac.jp/information/seika.html
さて、教育成果を評価するための指標については、先行研究がいくつかある。
そのうち、久保研二、大竹奈津子、平尾智隆「二時点比較による教育成果の検証 : 学生生活状況調査データの分析」『大学教育実践ジャーナル』8巻(2010年3月)は、「筆者らが学内外で見聞きするのは「教育効果の測定は難しい」という言葉とはかみ合わない議論である。その理由は、効果測定の方法論についての理解と合意がないこと、また同じく、測定を可能にする客観的なデータを収集する方法について理解と合意がないことに求められる。学生から客観的なデータを収集し、それを様々な角度から分析していくことを通じて初めて「どうも確からしい」ことが見えてくる。本稿の分析結果は、教育改革を推し進めながらその成果を実りあるものにするためには、学生生活の差に注目し、客観的なデータ分析に基づいた結果をその過程の中に応用していかなければならないことの重要性を示している。」とし、在学中の学生生活にこだわる。もちろん、「愛媛大学生の学習時間は5年の間に優位な減少がみられる。しかし、同じパフォマンスが維持できているとすれば、学習時間の減少は、学習の効率化や質的充実が進行しているということができ、それは愛媛大学の取り組みの成功を意味しているともいえる。ただ、それを実証するためには、学生の成績等のデータを取得し、様々な変数間の因果関係を読み解いていかなければならない。このように、評価指標とは一面では理解できない多面的理解を要するやっかいなものなのである」ことは意識してのことである。学生支援に定評のある愛媛大学のみならず、IRの重要性に気づいた大学においては、まず、従来からの学生生活実態調査の結果分析などとの比較から、新たな教育改革の成果を具体的に示すことは、当然に取り組まれてしかるべきと思われる。
一方で、吉本圭一「卒業生を通した『教育の成果』の点検・評価方法の研究」『大学評価・学位研究』第5号(2007年3月)の内容を確認しておくべきであろう。「教育機関の説明責任が強く問われる時代が到来し,「教育の成果」を点検・評価することが多くの高等教育機関の中長期計画における具体的な取り組みの課題として明記されるようになってきた。しかし,高等教育研究の分野において,「何をもって教育の成果とするのか」「それがどのように把握できるのか」「その点検・評価を通してどのように教育改革・改善に結びつけていくことができるのか」。こうした問いに答えるための,理論や評価方法,その成果の蓄積はまだ十分ではない」。否定しようのないところである。その上で吉本氏は、「大学教育改革に伴って一般化した代表的な教育評価ツールのひとつに『学生による授業評価』がある。しかし,そこでの授業に対する学生の評価が高いかどうかということと,その授業で学生が何かを学び,高い教育効果を受けとったかどうかということは基本的に別の問題である。特に,「教育の成果」を社会的な説明責任という枠組みで検討しようとすれば,自己点検・評価の常套手段の授業評価や,単位取得状況や試験・資格取得実績などだけでその「成果」が測れるものではない」。結果として、「教育の成果は卒業生のキャリアに体現されるはずである」と述べ、卒業生調査に焦点をあてた評価法を提案している。
 在学中の学生状況調査であれ、卒業後の調査であれ、説明責任を果たすべく、大学として取り組むことは不可欠である。分析結果が、いわゆる学士力や社会人基礎力向上という実績に結びつくことが求められる。同時に、冒頭に示したような、各科目における、目の前の学生たちの学習意欲向上と、教えている教師自身の手応えに結びつくような、授業内容・授業方法の開発研究も重要な課題である。いろいろな大学における、授業実践者たちの様々な工夫について情報を得ることを続けねばならない所以である。  (文責:教育支援システム研究部門 青野 透)