【No.372】
日本教育社会学会第63回大会参加報告

○●○ 日本教育社会学会第63回大会参加報告 ○●○
 2011年9月23日(金)より25日(日)にかけ、お茶の水女子大学で開催された日本教育社会学会第63回大会に参加した。初等・中等教育の実態や、教師、進路と教育、社会階層と教育など多種多様なテーマ部会がある一方で、高等教育に関する研究報告もここ5年ほど急激に増加し、例年、関連部会が複数設定されている。大学教職員についての報告もいくつかあり、そのうち東北大学高等教育開発推進センター(大学教育支援センター)の羽田貴史教授を中心に進められている「国際連携を活用した大学教育力の支援プログラム」の一環として実施された「大学・短大教員のキャリア形成と能力開発に関する調査」に関する報告「大学教員の能力像と獲得要因」を、簡単に紹介したいと思う。
 大学教育の改善にあって、大学教員の能力開発は重要な要素の一つであることはいうまでもないが、以前はFDを単純に授業改善と捉える傾向があって、過去実施された全国的な教員調査もそうした点から(のみ)分析するに留まっている。そして、大学教員の能力はどのように形成され、何が重要な要素であるのか(より具体的にいえば、活動と能力が区別されていない、キャリアステージが視野に入っていない)といった構造解明は、十分でないというのが実態であり、東北大学の研究もそうした問題意識から出発している。また近年、(若年者を中心に)任期制教員が増加していることで、能力形成にも何らかの変化をもたらしていると考えている。
 2010年12月から2011年1月にかけ東北地域の23の大学・短大を対象とした調査(回収数2405、回収率29%)で、約40%が東北大学教員からの回答であることから研究大学型のサンプルに偏ったサンプルという制約はあるものの、興味深い結果が出ている。

(1) 大学教員に求められる能力(設定された17要素中)のうち、重要とみなされているのは教育関係能力である一方、その重要度と現在の獲得状況の間の乖離が大きいのが(意外にも)研究関係能力で、理想と現実の差が出ている。また、能力をどれほど備えているかの総合評価で、肯定的評価は6割であり、公私立より国立、助教より教授がより強く感じている。
(2) 能力獲得の総合的自己評価により影響を与えているものは、高い研究業績を挙げること、講義で分かりやすく知識を伝える能力」「学生の研究を指導する能力」「専門分野の教育に関する見識」の各能力の獲得状況である。職階別でみれば、「研究業績」が総合評価に与える重要性が一貫している中で、期待される職務内容が職階で変化することを反映し、共同での研究推進能力や教育面での能力も重要な意味を持っていることが示されている。
(3) 能力形成における日々の経験の有効性については、多くの教員に共通しかつ有効なものとして、論文投稿、学部生教育、同僚からの助言と、入職以前の学生時代に受けた教育が含まれる一方で、無効なものとして、(各種)管理運営さらにそのために導入された制度(例えば学内外FDや授業評価)が挙がっていて、現時点でFDなどが実は有効に機能していないことが明らかになった。
(4) また、上記の有効性に関する認識は、業務の組み合わせに変化が生まれる職階間や管理職経験(全学・部局)別で、大きな差が見られないことから、日々の経験そのものが重要であることが示唆される。ここから有効な経験を早い段階から積ませることが、キャリア形成上有益である可能性が高いということであるが、同時に、キャリア初期段階教員や、継続的な経験蓄積が困難な環境におかれている教員の能力形成に課題が横たわっていることも示唆している(それを円滑にしていくようなシステムのあり方が求められている)。
(5) 経験蓄積の難しさは、任期制教員に現われ、教育・研究支援は相対的に恵まれておらず、自らの教育能力を低く評価する傾向もあい、任期制が教員の能力形成に与える影響は大きい。より具体的に、医歯薬系に多く、若手が多い(任期付きと任期なしの割合は40代で逆転)こうした教員の能力獲得状況をみると、17の全ての能力要素で肯定的評価は低く、とくに教育関係能力はギャップが大きい。しかも教育能力の重要性がもっとも高く認識されている。
(6) 能力獲得のための経験については、学外での教育経験のほかに、学内外FDの教育開発支援や学内外研究経費などの研究支援において、経験率が低く、教育・研究の重要性認識と能力開発経験の間で格差を抱えている実態が明らかになった。

 以上のことから、大学が検討する必要があるものとしていくつか論点を挙げると、
(1) 入職後、どの時期までにどのような訓練(経験)の機会を提供し、経験を積ませるかが個人にとっても機関にとっても重要である。
(2) 求められる教員能力について、初期キャリアでは研究能力の獲得がより重要で、そのための支援策が求められる。
(3) 各能力は日々の経験から形成されていくもので、FD活動があまり効果を及ぼしておらず、組織コミットメント型のFD活動ではなく、教員個人の教育・研究活動に対応したFDのあり方(プロフエッショナル・デベロップメント)が模索されなければならない
(4) 初期キャリアの任期制教員については、大学における各種業務の経験機会に乏しい(とくに教育経験)ことから、生涯にわたる能力形成の側面からみて問題であり、その部分の解決が求められる。
 本学においても、教員の能力形成にあってこうした観点に注意を向け、有益な方向でのシステム構築を図っていく必要があると考えられる。
(文責 評価システム研究部門 渡辺達雄 )

○●○ 大学コンソーシアム石川 第5 回FD・SD研修会開催のご案内 ○●○
主催:大学コンソーシアム石川 
共催:大学教育開発・支援センター、北陸先端科学技術大学院大学大学院教育イニシアティブセンター
テーマ:「学習成果を重視した学士課程教育の構築に向けて
~カリキュラムポリシー(CP)・ディプロマポリシー(DP)策定のためのフレームワークとは」
日時:2011年10 月21 日(金)18:00~ 19:30
場所:石川県政記念しいのき迎賓館 3階 セミナールームB
講師:川嶋太津夫氏(神戸大学 大学教育推進機構教授)
趣旨:中央教育審議会による『学士課程教育の構築に向けて』(2008.12)が提示した3 つのポリシー(アドミッションポリシー(AP)、カリキュラムポリシー(CP)、ディプロマポリシー(DP))の整備に各大学が取り組んでいます。そもそも、3 つのポリシーを関連付けるフレームワークとはどのようなものでしょうか。今回、高等教育の質保証のあり方について造詣の深い神戸大学川嶋太津夫先生を講師にお迎えし、CP やDP の策定のためのフレームワークのほか、本年4 月施行の教育情報の公表の現状と課題についてご講演いただきます。
  後半の質疑応答では、第2 期の認証評価において重要視されるCP・DP の策定や学習成果測定について川嶋先生から各大学での取組課題や問題点についてアドバイスいただきます。
※参加お申込み:「第5 回FDSD 研修会申込」とタイトルに記載の上、本文に(1)機関名(2)所属(3)名前を記載して、oono@ucon-i.jp(担当:大野)までご送信願います。当日参加も受け付けております。