【No.370】
アクティブ・ラーニングについて

○●○アクティブ・ラーニングについて○●○
 「教員が何を教えるか(知識を伝達する)」から「学生が自ら学ぶ力と自ら問題や課題を見出しそれらを解決する方法を考える力をいかに身につけさせるか」への視点の転換を伴う教育モデルの開発が今求められている。第2期中期計画に基づき、本学が進めてきた卒業時に達成されるべき各学類の学習成果の明確化の取組もまたこのような近年の世界的な教育改革動向の中にある。問題発見力や問題解決力、そしてそれらの基盤となる批判的思考力などの学習成果を達成させるための教育方法として、「学生の自らの思考を促す能動的な学習」形態であるアクティブ・ラーニング[1]について、様々な検討や実践が行われている。アクティブ・ラーニングという用語は包括的な概念であって、実際にそれは「学生参加型授業」、「協調学習・協同学習」、「課題探求学習・課題解決学習」、「PBL(Problem Based Learning・Project Based Learning)」などと、扱う力点の違いによってさまざまに呼ばれている[1]。第2期中期計画【8-1】「授業の目的に応じて授業形態を多様化し、少人数教育やTAの活用を推進する」に基づいて、教育改革部会が主導する「学類のDP(ディプロマ・ポリシー)とDPのもとに列挙されている「学類の学習成果」に照らして、とくに授業形態の尺度となる演習・実習・実験・実技等の科目をさらに充実させる」ための全学的FDもまた、本学に適合するアクティブ・ラーニングについての検討といえるであろう。当センターにおいても、アクティブ・ラーニングに関する研究開発(センターニュースNo.368、365、360、359、348など、センターHPに掲載中)、国内外大学での事例についての情報収集を昨年度からセンターの重点活動課題としており、学域・学類で行われている初学者ゼミ、創成科目、チュートリアル教育に関するFD研修に有効な情報提供ができるよう準備を進めている。
 アクティブ・ラーニングの設計において、「ディスカッション」を導入することにより、学習の動機づけとともに、他者の様々な主張との対比による自身の思考の相対化と自己検証の過程、反論、異論の構築過程での批判的思考力の養成、問題発見など大きな学習成果が期待できる一方、自身の論証を構築する大前提である講義や自己学習による知識の習得との両立が大きな課題である。大学における学問分野はすべて明確な知識体系を持っており、特に物理学や数学など学習の積み上げが必要な分野でアクティブ・ラーニングをいかに設計するかについて様々な検討が必要であろう。筆者は、ここ数年、共通教育科目「化学結合の基礎」、「化学反応と細胞」で講義の一部にグループ討論を導入するための課題について検討したが、満足のいく適切なレベルの課題の開発には至っていない。専門教育では、カリキュラムの上で通常は講義科目と実験科目あるいは演習科目とが連結されている場合が多いが、アクティブ・ラーニングを本格的に導入するためには、講義内容と実験や演習の内容とのより緊密な連携、特に講義で獲得した知識を批判的思考や問題発見のために運用できる応用力を養成するための実験、演習の設計(課題の設計)に加え、講義と実験・演習との時間配分などカリキュラムに踏み込んだ検討が必要である。この点については、講義と演習による知識伝達とアクティブ・ラーニングとが密に連携したアメリカの大学のカリキュラムが参考になるであろう。
 東京大学の1年次の理系学生を対象とする教育プログラムALESS(Active Learning of English for Science Students)は、アクティブ・ラーニングの授業モデルとして極めて魅力的である。ALESSプログラムは、教養学部の全理科生の通年の必須科目であり、1クラス15名の少人数クラスである。受講生それぞれが1テーマの簡単な実験を立案し、実施し、その過程を英語で科学論文としてまとめ、最後はその論文に基づいて口頭発表を行う[2]。大学院生がサイエンスTA、ライティングTAとして、授業ばかりでなく、駒場ライターズ・スタジオに常駐し、サイエンスや実験、英語での論文作成のアドバイスを行ったり、討論に参加する。ALESSプログラムの特徴は、学生同士の「ピアレビュー」の導入である。実験テーマや実験の立案、論文作成の過程を授業において2人ペアでピアレビューさせる。ペアの相手は毎回の授業で変えることにより、より多くの他者の思考過程に関わらせる。教員は学生のペアに加わって討論に参加したり、「ピアレビュー」によって論文が推敲される過程や討論の内容を確認する。成績評価基準として、成果としての英語論文とともに、ピアレビューの過程や討論の内容も用いることにより、チームワークの大切さや討議力の必要性を認識させる[2]。このような(英語での)ライティングを中心素材とするインテンシブなアクティブ・ラーニングには、TA配置や実験実施のための環境整備が不可欠であるが、一つの優れた初年次教育モデルといえるであろう。正課外で研究活動に関わらせる取組は、金沢工業大学の夢工房プロジェクト、新潟大学のダブルホーム制での研究プロジェクトなど多くの大学で行われているが、初年次の授業科目での取組の事例は少ないと思われる。 本学の理系学類の初学者ゼミにおける研究プロジェクトの検討や学長奨励研究制度へのTA配置、1年次学生への奨励、共通教育特設プログラム・英語国際コミュニケーションとの連携などの検討が可能かもしれない。
 文系のゼミナールでは、「ディスカッション」をデイベート形式で導入することがよく行われる。本学の人間社会学域・学類のFD研修会でも事例報告が行われている。理系の分野では馴染みが薄いが、賛否両論の根拠と結論の論理的妥当性を論点として討論を行うことは、文理に共通する論理的思考力、批判的思考力を養成する有効な教育方法である。筆者は、学士力としての批判的思考力を養成する授業科目の調査の過程で京都大学の初年次少人数ゼミナール「ポケットゼミ」の事例について調査を行った。京都大学教育学部の楠見孝教授のポケットゼミ「批判的思考力を高める」では、「小学校低学年からの英語教育必須化は是か非か」、「子どもの脳死による臓器移植は是か非か」、「外国人参政権は是か非か」など、毎回の授業での討論テーマを設定し、受講生の担当者2名がそれぞれ賛成、反対の主張とその根拠について事前学習に基づいて口頭発表を行い、その後グループ討論を行う。その他の受講生も事前に賛成、反対の意見とその根拠を予習ワークシートにまとめておき、討論に臨む。討論での論点は論証の妥当性である。このような授業は、文理共通の論理的思考力、批判的思考力を養成する初年次の授業科目として有効と考えられる。この授業を参考にして、筆者は今年度後期から共通教育科目(ゼミナール)「論理的思考と科学技術社会問題」、「健康問題を化学、生物学で検証する」を開講する予定である。
 アクティブ・ラーニングの学習成果として期待される問題発見力、問題解決力、批判的思考力など高次の思考力がどの程度身についたかを評価しようとする試みがOECDによるAHELOにおいて検討されつつあることをセンターニュース365号で述べたが、我が国では河合塾やベネッセが学士力としてのジェネリック・スキルの測定テストを開発している。9月3日に河合塾が主催したシンポジウム「今、大学教育に求められるジェネリック・スキル」に参加し、いくつかの大学でのテスト試行の結果報告を聞いた[3]。金沢工業大学での試行テストでは、夢工房プロジェクトに参加した学生が参加していない学生よりも、また就職内定を受けた学生が受けていない学生よりも有意に高い評点をとっているという分析結果が示された。テストの問題については今後検証が必要と思われるが、このような大学教育の学習成果の達成度評価方法の検討は、なにより各専門分野の教員集団による成績評価に関するFDとして今後検討を進めるべき課題である。
(文責 大学教育研究開発部門 西山宣昭)

[1]「アクティブ・ラーニング導入の実践的課題」溝上慎一、名古屋高等教育研究、第7号(2007年)269-287.
[2]「授業の中での討議力養成 HINTS10」東京大学教養学部 質の高い大学教育推進プログラム「PISA対応の討議力養成プログラムの開発 日本における国際先端の教養教育の実現」(2011年3月)
[3]  http://www.kawai-juku.ac.jp/news/data/20110720.pdf

○●○大学組織力向上のための共創プログラム開発研究について○●○
 平成23年度北陸地区国立大学学術研究連携支援事業として、当センター、富山大学大学教育支援センター、福井大学高等教育推進センター、北陸先端科学技術大学院大学大学院教育イニシアティブセンターの連携により、4大学が共有できる組織力向上のための教員と職員との共創プログラムを開発する。7月21日に第1回研究会を開催した。今後、第2回、第3回研究会、合同セミナーにおいて具体的なプログラムの立案を行う。