【No.367】
「社会人基礎力」育成の取り組みについて その3 

●○ 「社会人基礎力」育成の取り組みについて その3 ○●○
本誌331号および346号において、経済産業省が提唱している「社会人基礎力」(下の概念図参照)について、その構成要素(能力)や、大学での実践例(科目において社会人基礎力育成をどのように取り入れるか)を紹介してきたが、今回はキャリア関連科目で社会人基礎力を育て、個別科目で高めていきつつ課程全体のカリキュラムを考慮する(大学全体への育成の普及の)方策についてみていきたい。

 私立の大規模総合大学である東海大学では、大学全体で社会人基礎力の育成を進めるために、成績評価方法とキャリア教育を軸に改革を進めている。具体的に前者については、従前の知識中心の評価や、レポート課題のような評価基準がどちらかというと曖昧になりがちな点を改めるために社会人基礎力の能力要素を成績評価観点として採り入れている。また後者は、新入生が置かれた環境の中で大学における学習にポジテイブに臨めるように組み立てられたキャリア設計科目の中に、グループワークを取り入れている。
 いずれの授業科目でも社会人基礎力育成を想定しているとしても各教員がそういう意識を持って行うのはそれほど多くはないとの認識で、しかし学生を評価する観点としてその能力要素が用いられるならば、学生はもちろん教員も指導内容や教育方法を意識せざるを得なく、顕在化するとそうしようとする教員も増えるし、またそうした成績評価の仕組みが教員間で共有されやすくなるというわけである。レポート課題などを教員それぞれが培ってきた基準で評価していたものを、科目別に、重点を置いて育成・評価する社会人基礎力の能力要素を「育成・評価の観点」として大体3つほど定め、科目別の能力要素ごとにレベル基準を作り、評価方法や課題内容を決めていくことにしたようである。例えば、ある科目で「発信力」「課題発見力」「傾聴力」の3つの能力要素を育成し評価すると決め、各能力要素をどのようなポイントで評価するかと決め、合わせて5段階のレベル基準を作成していく。そこでは、教員が担当科目での「傾聴力」とは、「課題発見力」とは何か、具体的にいかなる形で存在するのかを考えることになったという。
 こうした考え方は、アメリカのアルバーノ大学で、能力を8つの観点および6つのレベルに分けて表示した上で、各科目がどの観点のどのレベルを育成し評価するのかを決めていること、またある科目がどの専門分野でどういう授業を行うかによって各観点の捉え方や見ていこうとする評価ポイントが異なってくる(言い換えれば、カリキュラム上の科目がいずれかの観点の、さらにレベルの育成と評価を担うということになる)のと、かなり共通しているようである。東海大学での変革に中心となって取り組んでいる一人である内藤耕氏(文学部・キャリア支援センター次長)によれば、教員側が各授業で社会人基礎力を伸ばすという意識でコンテンツを作り上げ、また学生をどう評価するかということを意識化するしないで、やはり差が出るし、達成度合いも違ってくるとみている。また、能力要素の定義や感覚は科目ごとに異なって当然でそれはあまり大きな問題でなく、仕事現場と直接つながるような能力定義やレベルといったこともあまり厳格に考え過ぎない方がよいと考えている。
 東海大学では、学生が社会人基礎力の能力要素を踏まえ、科目履修を計画的にできるよう、学習計画を含めたキャリアカウンセリングを行うなどのサポートシステムも作ろうとしている。カウンセラーは学生の履修履歴を見て社会人基礎力の向上状況と、学生の職業希望や将来の学びの希望などを掌握した上で、履修が望ましい科目の言及などこの先の勉強についてアドバイスを行うというものである。併せて、各学生の履修履歴などのポートフォリオ・システムも作ろうとしているようである。カウンセラーからは面談学生の情報を得られるだけでなく、学生も授業での各活動の評価を随時上げることで、学習に対するフイードバックがなされ、また学生自身の自己管理力を高めていくことにもつなっていくわけである。
さて東海大学でのキャリア教育における基幹科目となっているキャリア設計科目について少しみていくと、この科目では(社会人基礎力とは何で、どのような意味を持つのか知るためのものでもあるが)学生が自ら入った学科を自分のものとして受けいれ(職業を中心とする人生の中に学生生活を位置付ける)、学習への意欲につなげていくことをねらっている。
具体的には自分の良い面を知るため(客観視)に、異なる価値観や環境に置かれている複数学部の学生を一緒に受講させ、他人と関わらせ合い、毎回グループワークを行わせ、チームで働く力を養おうとしている。また授業内容には(グループによる)上級生インタビューを組み込み、卒業後を展望させ、今やるべきこと(どの専門科目をとるか、どんな課外活動するかなど)を考えさせるものもあって、自らの学びを主体的に組み立てていけることも目指しているようである。その他に、自己評価シートを準備して、学期初めと学期末に実施して、能力要素の伸びを認識させたり、授業の最後に将来的な学習カウンセリングを意識して、キャリアカウンセラーによる振り返り面談を行っている。
それぞれが非常に興味深いものであるが、課題として、例えば、学生が社会人基礎力の能力要素がキャリア設計科目と各専門科目で一貫して捉えるまでにはまだ至っていないということが挙げられており、毎年繰り返すことで学生への浸透と理解を図るなどしたいということである。いずれにしても、東海大学における今後の展開に期待したい。    (文責:評価システム研究部門 渡辺達雄)

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・ 教育支援研究開発センター『京都産業大学 すぐに役立つFD支援パンプレット』2011年
・ 教育支援研究開発センター『京都産業大学教育支援研究開発センター FDレポート』2011年
・ 一橋大学 大学教育研究開発センター『全学FDシンポジウム 報告書』2011年
・ 東京大学 大学総合教育研究センター『日本の大学における中長期計画の現状と課題-全国大学アンケート結果』(東大-野村 大学経営ディスカッションペーパーNo.15)2011年