【No.360】
批判的思考と科学リテラシー

○●○第5回カリキュラム研究会のご案内○●○
日時:7月12日(火)10時30分~12時
場所:角間キャンパス総合教育1号館2階大会議室
テーマ:批判的思考力を養う共通教育科目の開発
報告者:西山宣昭、山田政寛(大学教育開発・支援センター)
趣旨:教育の質保証に向けた動きの中で、学士力としての批判的思考力をいかに学生に身につけさせるかについて活発な議論が行われている。根拠と結論の明確化、論証の検証、仮説の推論、推論の検証、仮説検証を行う批判的思考力は、研究能力としてばかりでなく学士力、社会人基礎力、就業力として重視される。本研究会では、本学で開講されている授業科目、他大学の事例を参考にして、批判的思考力を養うための教育方法と教材について議論するとともに、新規の共通教育科目の開発に向けた検討状況について報告する。各専門分野の授業科目等で批判的思考力の養成を意図した様々な取組が行われていると考えられるが、そのような取組を行う多くの教員の参加と進めている授業設計に対するご意見をお願いしたい。

○●○批判的思考と科学リテラシー○●○
 大学教育によって学生にどのような能力を身につけさせることができるかをその根拠とともに社会に対して示すことが強く求められており、本学で現在進められているDP(ディプロマ・ポリシー)、学習成果(Ability Based Learning Outcomes)、カリキュラム・マップの策定はこの要請に応えるものである。学士力や社会人基礎力などの名称で様々なAbility Based Learning Outcomesの参照例が示されているが、専門分野に共通する身につけるべき能力として問題解決力をあげることに異論はないであろう。問題解決には、情報の収集と分析(根拠および論証の妥当性についての検討)、問題の明確化あるいは問題の発見、問題解決のための仮説の推論、推論の妥当性についての検討と仮説検証のための方策の設計などのプロセスが含まれており、問題解決力は批判的思考力と同じと見なすことができる。批判的思考力は、各専門分野での学習や卒業研究によって身についていくが、根拠と結論を明確にするとともにそれらを批判的に自己検証する学習を初年次教育として行うことが現在注目されている。レポートの書き方や発表の仕方など学習スキルの授業科目に批判的思考の訓練を含みこませる事例が多いかもしれない。本学のwebシラバスで「批判的思考」のキーワード検索を行うと、人間社会学域の学域共通科目「クリティカル・シンキング」が出てくる。論理学や哲学の授業科目において批判的思考を主題としている場合があると思われるが、共通教育においても「クリティカル・シンキング」と同様の科目を開発することが望まれる。今年度4月から共通教育特設プログラムが開設されているが、このプログラムにおける就業力養成を意図した新規のパッケージ科目群がWGを組織して検討されようとしている。このパッケージ内のテーマの一つとして「批判的思考」を取り上げることが検討されており、これについては当センターでも他大学の事例調査や試行的授業設計に基づいて検討を進めている。7月12日の第5回カリキュラム研究会では、その検討状況について報告する。
 上記の思考過程を批判的思考と捉えれば、批判的思考は研究活動そのものであり、したがって各専門分野の教育研究を通して批判的思考力は養成される。科学リテラシー教育もまた批判的思考力の養成に有効であると考えられる。自然科学における現象の観察、自然への質問、問題の設定や発見、機構など仮説の推論、実験などによる仮説の検証、検証結果の評価などの諸過程を具体的に理解する、あるいは体験することは、批判的思考力を養成する上で極めて有効な方法となる。科学リテラシー教育は、知識の獲得とともにそれらの知識を活用した科学的思考、すなわち批判的思考を促すものである。
 6月4、5日大学教育学会2011年度大会が桜美林大学で行われた。ラウンドテーブルの一つとして「教養教育としての大学の環境教育の多様性」が行われ、筆者は本学の共通教育特設プログラムとして4月に開設された「環境・ESDリテラシー」の共通教育科目群について報告を行った。同ラウンドテーブルで慶応義塾大学における文系学生のための実験を重視した自然科学教育について自然科学研究教育センター長の青木健一郎氏により報告が行われた。慶応義塾大学では1949年より文系学生を対象とした実験を重視した自然科学教育が行われており、現在では文系4学部の1学年4000名程度の学生のうち約7割が自然科学実験を履修している。2005年には特色GPに採択され、伝統的な理系基礎実験とは異なる課題探求型実験が若手の教員集団によって組織的に開発されつつある。
 文系学生も含めた全学生を対象とした実験に基づく科学リテラシー教育が行われることは理想的だが、その運営は容易ではない。本学では文系学生を対象とした自然科学の講義型の共通教育科目が数多く開講されており、視聴覚教材や計算機シミュレーションを活用するなど様々な工夫がなされている。筆者もまた化学結合論や遺伝子発現制御などの基礎を扱う共通教育科目において、ここ数年、講義に一部討論を導入することにより、批判的思考を養う能動学習を意図した授業設計を試みている。上記の大学教育学会大会では、その実践報告を行った。
グループ内の討論において、講義や他の学習者から得た知識の内的既得情報への参照過程を経て、内的論理の再構成あるいは創発につながるか、他の学習者の論証への反論や異論を通して学習者集団における論証構造がいかに自己組織化されるか、このようなすべてのプロセスをコンセプト・マップとして可視化するCSCL(コンピュータを活用した協調学習支援)システムの開発を最終的な目標として、討論テーマについての検討と授業での実践を行った。例えば、電子の2重スリット実験をビデオで示し、疑問に思ったこと、実験から明らかにいえること、実験結果についての解釈の推論についてグループ内で意見交換させる。実験結果の解釈については、光の回折実験を直前にていねいに説明しておけば、その難易度を下げることができる。授業では、意見交換の内容をディスカッション・シートに書かせた。今後は、討論における主張の根拠と結論、反論、異論をコンセプト・マップとしてグラフィカルに表示させ、論理的妥当性を自己フィードバック的に検証することを可能にする同期型CSCLシステムを開発する予定である。本年度からは、基盤研究(C)「講義型授業における協調学習設計-論証作成CSCL開発と脳波位相同期による評価」(代表・西山)によって検討を進める。
 批判的思考力を養成する教育方法については、様々なアプローチが考えられる。本年度中に、本学や他大学の事例の調査・分析に基づいて、低年次における批判的思考力を養う共通教育科目を開発する予定である。
(文責 大学教育研究開発部門 西山宣昭)