【No.355】
共通教育のコア・カリキュラムに向けて

 本学の第2期中期計画【3-1】「コア・カリキュラム型の教養教育を進展させ、学士教育全体並びに各学域・学類の基盤となる科目を提供するとともに、幅広い知識や現代的な教養に関する科目を充実する。言語(日本語及び外国語)運用能力や情報リテラシーに優れた学生を育成するためのカリキュラムを開発する。」にあるように、平成18年度の教養教育カリキュラム刷新を起点として、本学の教養コア・カリキュラムについて検討が行われている。カリキュラム刷新に伴って開設された大学・社会生活論、初学者ゼミ、情報処理基礎について、教育内容・方法の継続的な検証・改善が行われており、特に、初学者ゼミは学習方法の転換を促す導入教育を担うとともに、論理的思考力、批判的思考力、問題発見・解決力を養う学士課程教育の基盤となることから、FDの重点課題と位置づけている学類も多い。
 本年度開設された共通教育特設プログラムは、第2期中期計画【3-1】に沿った取組の一つである。共通教育科目は、総合科目や一般科目など特定の科目区分、科目区分内のテーマに属している。それらの科目区分やテーマには明確な教育目標が定められている。これに対して共通教育特設プログラムは、より具体的なテーマを設定し、科目区分を横断して科目パッケージ化を行うことにより、学生に対して本学が教養コアと考えるテーマを明確に示そうとするものである。22年度は2つの主テーマ、環境・ESD(Education for Sustainable Development)と英語国際コミュニケーションのもとに既存の共通教育科目(一部開放科目を含む)と新規に開発された科目のパッケージ化が行われ、本年度より運用が開始されている。中期計画【3-1】の23年度計画に基づき、第3のテーマとして「健康・自己管理」がカリキュラム検討委員会から提案されており、共通教育委員会の下のWGでの検討が始まっている。また、昨年度本学が採択された就業力GPの一環として、論理的思考力や批判的思考力を養うことを学習目標とする新規の共通教育科目について検討されつつある。このような共通教育における動きは、本学が教養コアとして考えるものが何かを学内外に示そうとするものである。
 アメリカの伝統的なリベラルアーツカレッジでは、人文学関連の科目が教養コア・カリキュラムの中核を成している。例えば、コロンビア・カレッジの学部課程全学生の必須となっている教養コア科目Contemporary Civilizationでは、2年次通年で倫理・政治思想の歴史を学び、literature Humanitiesでは、1年次に通年でヨーロッパ文学と哲学に関する主要文献を輪読する。これらの科目では、伝統的なリベラルアーツ教育の特徴である少人数クラスで討論などインテンシブな双方向性に基づき、論理的思考力、批判的思考力、問題発見・解決力等の養成を目的としている。コロンビア・カレッジの教養コア科目として「科学」と「体育」があることも注目すべきである。一橋大学の松塚は、北米の調査から、アメリカの有力大学において教養教育の強化が近年進んでいること、その理由として大学間の学生獲得の競争が激しくなる中、有力大学はその教育における独自性を伝統的なリベラルアーツ教育に求めようとしていることを指摘している。(松塚の報告は、当センターが全教職員のFD支援のために開設しているアカンサスポータル内コース「アカンサスFD」から閲覧できる。)リベラルアーツ教育では、教養コアをいかに設定するかという課題とともに、アクティブ・ラーニングなどの教育方法が特に重要となる。本学では、教育企画会議の下の教育改革部会のリーダーシップにより、中期計画【8-1】「授業の目的に応じて授業形態を多様化し、少人数教育やTA(ティーチング・アシスタント)の活用を推進する。」に沿って、共通教育に限らず全学的な検討が行われようとしており、本学のFDとして定着することが見込まれる。
  コロンビア・カレッジの教養コア科目として「科学」があるが、「自然科学(リテラシー)」の授業は、現象の把握、その背後の機構についての推論、仮説の立案、その批判的検証という基本プロセスを知る機会となり、文理に共通する教養コアの候補といえるであろう。本学では、文系学生を対象とした科学リテラシーの習得を目的とする多くの優れた共通教育科目が開講されており、これらの科目群のより明確な体系化が望まれる。また、上記の基本プロセスの体験に特化した科目の開発も望まれる。これらの科目は、共通教育特設プログラムのテーマ「環境・ESD」や「健康・自己管理」に含みこむことも可能であろう。例えば、動物、植物、微生物間での炭素循環に伴うエネルギー循環、そのエネルギーについて深く考察することによって化学電池や化学結合論に連結させる、化学物質や放射能物質による汚染、微生物感染等とがんなど疾病との関連から遺伝子とその発現制御という生物学のコアに導くといったシナリオが考えられる。共通教育特設プログラムにおける自然科学(リテラシー)の位置づけについて検討することも今後の課題であろう。
 我が国の他大学でも教養教育の再構築に向けた様々な取組が行われている。3月4日、平成20年度から始まった筑波大学の教育GP「筑波スタンダードに基づく教養教育の再構築―世界水準の教養教育を目指す全学的取組―」の最終報告会が東京で行われた。この教育GPでは、教養コア・カリキュラムの構築に向けて、コア科目の開発を7科目の先導的科目の試行に基づいて行っている。そのうちの3科目が文系学生を対象とした「現代人のための科学Ⅰ~Ⅲ」である。筑波大学は3学期制をとっており、これらは1年間を通して開講される。これら3科目の教育内容・方法の開発は「コアサイエンス作業グループ」を編成して進められた。特に重視されたのは、物理、地球科学、化学、生物学の内容を統合して科学を一体のものとして広く見渡せる内容にすることであった。その成果は、統合科学(Integrated Science)の教科書としてまもなく刊行される予定である。教育方法の検討も同時に進められ、大人数の講義授業にいかにアクティブ・ラーニングの手法を導入するかについて検討された。赤外線応答システム(通称はクリッカー、当センターでも所有し学内に貸出を行っている。)を用いて問題にクイズ形式で解答させ、受講生全体の集計をリアルタイムで示すことにより大人数講義に双方向性を導入し、また同一時間内に討論の時間を設けるなどの試みが行われている。これらの授業設計では、アメリカのカリフォルニア大学バークレー校における教養科目「入門化学」をモデルとして用いている。
 本学においても、平成18年度の教養教育カリキュラム刷新から始まった教養コア・カリキュラムについての検討が第2期中期計画に基づいてさらに進められることが期待される。当センターも引き続き支援を行う。    
                                           (文責 大学教育研究開発部門 西山宣昭)