【No.349】
第17回大学教育研究フォーラムに参加して

○●○退任の挨拶○●○
 2009年12月に金沢大学大学教育開発・支援センター博士研究員として着任して1年4ヶ月になりますが、3月31日をもって転出することになりました。
金沢大学在籍中は、学内のいくつかの部局でアンケートの項目作成助言を行ったり、FD研修会にてアンケート項目作成の留意点についての講演を行ったりしてきました。これらの業務の中で、アンケート実施側(依頼主)が、「何ができていれば良いと考えてアンケートを行うのか」が自身の中で明確化されていないことに、打ち合わせの最中に気づかれることが非常に多くありました。部局の名のもとに行われる調査であっても、目的について部局内でのコンセンサスが不十分であったケースも多々見受けられため、まずは部局内のコンセンサス形成から詰めていただくようにお願いしておりました。
さて、私自身は、4月1日からは他大学にて、自身の専門領域である社会心理学の助教として、新たなスタートをきります。今後は、企業組織を対象とした心理学的研究を続けながらも、授業を行うとともに、末端で学科運営に携わることになる予定です。
 金沢大学での任期が短かったこともあり、本センターニュースに書かせていただいた原稿はわずかなものでしたが、読んでくださった皆様には、心より御礼申し上げます。
                         (文責:センター博士研究員 尾関美喜)


○●○京都大学高等教育研究開発推進センター主催 
『第17回大学教育研究フォーラム』に参加して○●○
3月17日(木)、18日(金)の2日間にわたって京都大学で開催された第17回大学教育研究フォーラムに参加してきた。震災の影響で、個人研究発表者が複数名欠席する部会も見受けられたが、大勢の参加者が詰めかけ、活発な議論が行われた。以下、私自身が参加した部会や講演等の内容を紹介し、そこで得られた知見や課題等を示してみたい。
(1)3月17日(木)
午前前半のe-Learning・遠隔教育研究部会では、京都大のオンラインFD支援システム「MOST」を活用した組織的カリキュラム改善を志向するコースポートフォリオへの適用について話題提供が行われた。2010年度に、哲学・情報学・教育心理学の3科目において「MOST」を活用したコースポートフォリオの試行が行われており、2011年度に公表を予定しているとのことであった。米国ネブラスカ大学リンカーン校の心理学科で組織的にコースポートフォリオを活用している事例も紹介されたが、個々の教育組織が「カリキュラム、シラバス、教育改善のためのPDCAサイクル」について共通理解を持つことがこのようなFD支援システムの効果が発揮される原点だという印象を強くした。
午前後半の小講演では、東アジア高等教育の質保証として、中国の大学卒業認定と学位授与について話題提供が行われた。同国では、学位授与の概念が1980年代に導入され、教育部による大学卒業認定と国務院委員会が学位認定が分離した仕組みとなっている。大学卒業者の約92%が学位被授与者であるという実態があり、この点に、中国高等教育の質保証メカニズムを見出すことができる。社会的には卒業資格が基礎条件となり、学位資格が能力条件となるようであるが、明確な規定があるわけはないとのコメントもあった。
午後のシンポジウムでは、「単位制度から見る教授学習・カリキュラム」と題して話題提供、フロアとのディスカッションが行われた。単位制度の歴史、授業学習・授業外学習・自主学習の定量的実態調査のほか、個々の大学における取組(モジュール制、週複数授業制、単位クレジット制、オナーズプログラム)について話題提供が行われた。日本では単位制度が機能せず、これに代わる制度が考えられるのかといった問題提起もあったが、現状において、単位制度は妥当な制度ではないかという意見が大勢であったように感じる。その中で、授業外学習時間数が絶対的に少ない現状を改善することが必要との意見があった。フロアからは、CAP制度が機能していない現状に直視すべきではないか、週15回の授業確保など単位の実質化を突き詰めていくことが返って教育の質を低下させる危険性があるのではないか、といった切実な質問も飛び交った。単位制度について実質的な議論を積み重ねる必要性を強く感じた。
(2)3月18日(金)
 午前前半の授業研究部会では、島根大における農学系初年次教育の話題提供が行われた。2009年度から開始した「農業生産学科基礎セミナー」について、当該年度の学生アンケート結果でのコミュニケーション・プレゼン技術の獲得を求めるニーズを踏まえ、大学教育開発センター教員のコンサルテーションにより、学生相互発表におけるルーブリックの導入などのアドバイスを受けながら、授業改善を行った成果が報告された。教員による野菜栽培指導の度合いなどに戸惑いも見られるようであるが、農学系初年次教育として、学生自らが能動的に野菜栽培する経験に意義があり、その点を重きを置いた授業設計をしていくことが大事だとのコメントがあった。専門的授業科目への教育系センターの支援のあり方として参考にすべき事例ではないかと感じた。
 午前後半の小講演では、近年脚光を浴びているサイエンスコミュニケーション・デザインにおける大学が果たすべき役割について話題提供が行われた。2005年度からの科学技術振興調整費を契機に、多くの大学でサイエンスコミュニケーションの促進する取組が生じている。第4期科学技術基本計画においても更なる促進が提言されている中で、科学技術専門家と非専門家の双方向のコミュニケーションデザインを具現化し、特に、批判的思考力を基礎としたリテラシーの獲得を目指した取組が必要であるとのコメントがあった。
 午後のラウンドテーブルでは、新たなSD論の展開に向け、大学職員の能力をJob Descriptionとして定義しようとする試み、愛媛大を中心とした職員育成プログラム開発やスタッフポートフォリオの取組、若手大学職員によるネットワークについて話題提供が行われた。フロアからの意見では、FDと同様に、SDにおいても実践の中からの理論化というアプローチが必要になってきているように痛切に感じた。職員の力量が組織行動において初めて発揮されるという観点から、教員のFDと同一視することは難しいという側面があるとのコメントがあった。しかし、事務組織に留まらず、大学マネジメントに職員がどのように関与していくかという観点から、職員の専門性の定義や勉強会といった横のつながりの形成を超えて、職員の力量形成の実際が議論される必要性がある。
 多岐にわたるテーマについて理解を深めることができたことは非常に有意義であった。
ただし、個々人や小グループでの実践や検証の事例報告が多く、プログラム単位や学部・研究科単位といったもう少し広い組織単位でのFD・SDの有様が議論されていくことも必要なのではないかと感じた。
(文責:センター客員研究員 北陸先端科学技術大学院大学  林 透)