【No.343】
「自閉症に優しい学校社会」づくりのために-学校が変わる、大学が変わる4-

○●○「自閉症に優しい学校社会」づくりのために-学校が変わる、大学が変わる④-○●○

 大学教育改革の大きな方向性を示した中央教育審議会『学士課程教育の構築に向けて(答申)』(平成20年12月24日)は「第1 章グローバル化、ユニバーサル段階等をめぐる認識と改革の方向」から始まっている。大学設置基準が義務づけている「授業内容・方法の改善のための組織的な研修と研究」(FD)も、「高等教育における国際競争が一層激化している状況において、我が国の高等教育が、国際的に活躍できる人材を育成・輩出していくためには、大学の提供する教育が世界に通用する魅力的なものでなければならない」(文部科学省『大学教育のグローバル化を目指した当面の施策の検討事項』、平成19年12月10日)ことを意識したものでなくてはならない。それでは、そうした学生を育てるための環境としての日本の大学等の学生支援は、世界に通用するものとなっているのであろうか。ここでは、障害学生支援について振り返ってみたい。

アメリカでは例えば、多くのノーベル賞学者を輩出し研究大学として名高いカリフォルニア大学バークレー校において、1990年代半ばに既に<全学生数約2万1000名のうち障害者学生は約4%の838名>学生の25人に1人は障害学生というキャンパスになっていた(定藤丈弘「カリフォルニア大学バークレー校障害者学生サポートセンターは今」『月刊ノーマライゼーション』1998年1月号)。国際ランキングトップクラスの大学に、充実した障害学生支援がある。

 あるいは、イギリスでは「1995年障害者差別禁止法」が「大学が障害者に対して教育施設等の対応について情報をあたえなければならない」と規定し、その後「2001年特別な教育的ニーズ・障害法」において、「高等教育の責任機関が入学申込、入学決定の措置、入学の方法、教育や生活に対するサービスの提供において差別すること、及び障害学生を排除して差別することの違法性が法令上明記され」た(河合康「イギリスの高等教育における障害学生に対する差別の禁止」『上越教育大学研究紀要』24卷2号、2005年)。ちなみに河合論文では、「イギリスの大学では、全学生の内、約4%が何らかの障害を持っている」とのデータを紹介している。

 日本ではどうであろうか。個々の大学では、障害学生を受け入れ、支援し、その経験から、一定の方針を明示しているところもある。例えば、国際基督教大学では、「1977年に最初の盲学生入学」があり、その後「大学は正式に盲学生の受け入れを決定し、その「基本方針」(1981)を明文化し公表しました。それは、「本学に学ぶにふさわしい意志と能力を持った盲学生を、正規学生として定員に含めて入学を許可する」という方針です」(吉野 輝雄「ICUにおける視覚障がい学生の受け入れと支援体制」subsite.icu.ac.jp/people/yoshino/PresenAtScienceJump2008.doc)。また、東京大学が大学憲章(平成15年3月18日)で「心身の健康支援、バリアフリーのための人的・物的支援、安全・衛生の確保、ならびに環境および景観の保全など、構成員のために教育・研究環境の整備を行う」ことを打ち出している。だが、日本の大学全体をみると、実際には、障害のある学生の入学は進んでいない。日本学生支援機構の全高等教育機関(大学、短期大学及び高等専門学校)に対する調査結果では、2009年5月1日時点で、障害学生は7,103人で、全学生数のわずか0.22%でしかない。

障害学生の定義の違い、年代の違いはおくとして、奇しくも約4%という数字が米英の大学で示されている。これに比して、日本の高等教育機関における障害学生の割合はあまりに低いと言わざるを得ない。ユニバーサル段階にある、あるいは大学全入時代だといわれる中で、障害のある子どもたちへの高等教育を受けたいという願いに答える状況にはなっていないのである。

第174回国会の施政方針演説(平成22年1月29日)で、鳩山総理(当時)は、「チャレンジドの方々が、共同体の一員として生き生きと暮らせるよう、障害者自立支援法の廃止や障害者権利条約の批准などに向けた、改革の基本方針を策定」することを約束した。条約は、人権が障害者にも等しく保障され、障害者の社会参加を進めるもので、障害者が教育を受ける機会を平等に持てるようにすることも当然含まれている。既に100カ国近くが批准する中で、日本で懸案となってきたのは、インクルーシブ教育の重要性を強調する条文に即した国内法制度の見直しである。

アメリカの大学について、「統合教育を原則とする全障害児教育法の成立を1つの契機に、次第に地域の普通校への入学の道が開かれ、障害児が地域の普通高校で、基礎学力を向上させて大学に入学する機会も高まってきた」(定藤上掲論文)と指摘されていた。

障害の有無で学校を分けていた日本でも、学校教育法の改正によって、特別支援教育のなかで育った障害児たちが、進学動機を高めて、大学に入ってくる。高校での障害のある生徒への取組の進展は、京都朱雀高校特別支援教育研究チーム(著) 『高校の特別支援教育・はじめの一歩―これなら普通の高校でできる、私にもできる(特別支援教育の新展開) 』(明治図書出版、2010年)などで明らかである。「発達障害大学生支援は、爆発的な支援ニーズの拡大や法整備などの支援環境の劇的な変化が数年後にも起こる可能性が高い」(斎藤清二他『発達障害大学生への挑戦』金剛出版、2010年)と指摘されるのも当然である。

学生支援体制を準備していて初めて、世界に通用する教育を提供する基本条件をクリアーしたことになる。なかでも、障害のある学生への支援の充実なくして、グローバル化もユニバーサル段階への対応をも論じることはできないことを私たちは認識すべきであろう。

(文責:教育支援システム研究部門 青野 透)

 

○●○ アクティブ・ラーニング事始め その1○●○

 ポータル内のアカンサスFDのコーナーには、授業内容・方法改善に役立つ諸種の情報を掲載しています。

 アクティブ・ラーニングについては、溝上慎一「アクティブ・ラーニング導入の実践的課題」『名古屋高等教育研究』7(2007)、谷口進一ほか「数理工基礎教育科目における教育工夫-基礎化学におけるカスタマイズ教材を用いたアクティブ・ラーニング」『工学教育研究』17(2010年)、大橋健治「アクティブ・ラーニングの試み」『筑紫女学園大学・筑紫女学園大学短期大学部紀要』5(2010年)、島崎薫「学習コミュニティーの形成を目指した取り組みとその考察」『言語科学論集(東北大学大学院文学研究科言語科学専攻)』13(2009年)など、公開されている文献のリンク先などの案内をしております。ご活用ください。

 

○●○ センタースタッフの研究成果公開活動記録から(2011年1月) ○●○

 青野透「クリッカーから始まる双方向多人数授業-学生が考え発言するアクティブ・ラーニングへ」『大学時報』(日本私立大学連盟)336号、2011年1月、56-61。この号には、小特集「クリッカーの活用」が収められ、立正大学と東京女子医科大学のクリッカー活用事例が紹介されています。