【No.341】
過剰適応-それは病か適応か?:第374回KSP(関西社会心理学研究会)参加報告

○●○ 第4回・第5回学生・学習支援研究会開催のご案内 ○●○

第4回 日時:2月1日(火)16時30分~18時
主催:大学教育開発・支援センター
場所:角間キャンパス中央図書館2階 ブックラウンジ
報告者:吉川弘明、足立由美(保健管理センター) 
テーマ:「新たな社会的ニーズに対応した学生支援プログラム(学生支援GP)」の実施が本学に与えた効果について―外部評価委員の講評をふまえて―
 
趣旨:平成19年度から学生支援GP「心と体の育成による成長支援プログラム」が実施され、①自己管理能力②コミュニケーション能力、および③他者援助精神を学生に身に付けさせる取組が種々行われて来た。共通教育科目「大学・社会生活論」の「健康論」の充実に始まり、「健康論実践」「健康心理学」などの新規開講、心と体を統合的にとらえる視点からの食育、運動、自己分析などの課外教育の展開、そして、キャンパス間シャトルバスの運行と常設のコミュニケーション・プレイスの設置・拡充など、多くの成果を生み出した。これらの取組に対する自己評価、外部評価の結果を共有し、事業終了後、本年4月からの新たな学生支援充実のための課題を確認する。
 
第5回 日時:2月7日(月) 16時~17時半
場 所:角間キャンパス中央図書館3階 オープンスタジオ
企画者:山田 政寛(大学教育開発・支援センター)
報告者:橋 洋平(情報部情報サービス課)
テーマ:「学生の立場からの新たな図書館づくり-東京女子大学『マイライフ・マイライブラリー』公開実績報告会に参加して-」
 
趣旨:学生支援GPの選定を受け平成19年度から「マイライフ・マイライブラリー(学生の社会的成長を支援する滞在型図書館)」の事業を展開してきた東京女子大学は、国内のラーニングコモンズの中で特に先進的な取組を行っており、今後の大学図書館の一つの方向性を示すものとして注目されている。多数の学生アシスタントによる「学生協働サポート体制」も本学の「とぼら」(図書館学生ボランティア)の活動に参考になるものである。GP期間終了にあたり報告会が先日開催された。本学図書館が「学生支援」「知のクロスロード」などを基本理念に掲げ、新たにブックラウンジなどの空間を利用者に提供して10ヶ月。東京女子大の報告会に参加された橋氏からの情報提供から、学生たち利用者の立場からの新時代の図書館作りについて、参加者の議論につなげていきたい。
 
○●○ 第2回評価システム研究会開催のご案内 ○●○
日時:2月3日(木)16時30分~18時
場所:角間キャンパス総合教育1号館2階会議室
報告者:渡辺達雄(大学教育開発・支援センター) 
テーマ:成績評価の厳格化の現在
趣旨:CP・DPを実質化するための成績評価に関わって、いち早く組織的に点検・改善を推し進めている代表的な大学の取組を紹介・解説し、成績評価の可視化や信頼性のあり方について一緒に考えていきたい。
 
○●○ 大学コンソーシアム石川 2010年度第8回 FD・SD研修会
「第二サイクルを迎える認証評価と教育情報公表義務化」 ○●○
日時:2月8日(火) 18時~19時30分
場所:石川県政記念しいのき迎賓館 3階 セミナールームB(金沢市広坂2丁目1番1号)
講師:早田 幸政氏(大阪大学大学教育実践センター教授」
趣旨:2011年4月から各高等教育機関に義務付けられた教育情報公表項目は、法令上、履行を怠った場合の最も厳しいサンクションが認証評価にリンクするなど、各高等教育機関には、慎重な対応が求められている。折しも、学士課程における認証評価は今春二巡目を迎える。大学評価研究の第一人者である早田教授を迎え、各高等教育機関にとっての喫緊の課題に関するレクチャーを受け、参加者間で議論を行いたい。
※参加申し込み:メールでお願いいたします。件名を、「第8回FDSD研修申込」として①氏名②機関名③所属 をご記入のうえ、oono@ucon-i.jpまでお送りください。開催日前日まで受け付けます。
 
○●○過剰適応-それは病か適応か?:第374回KSP(関西社会心理学研究会)参加報告○●○
 近年、主に中学生を対象とした「過剰適応」に関する心理学的研究が散見されるようになった。過剰適応とは、「環境からの要求に個人が完全に近い形で従おうとすることであり、内的な欲求を無理に抑圧してでも、外的な期待や要求にこたえること」(石津・安保, 2008)を意味する。これまでは学校現場における児童・生徒を対象とした、いわゆる「よい子」の研究が中心であった。しかし、成人でも環境からの要求や外的な期待に無理をしてでも応えることはある。このような経緯から、成人期における過剰適応の研究を行っている、水澤慶緒里氏(関西学院大学)から成人期における過剰適応尺度の開発に関する報告がなされ、多様な大学からの参加者による議論が交わされた。
 水澤氏の主張によれば、過剰適応はストレスの初期段階と考えられるにもかかわらず、本人にはその自覚がなく、いつも以上に元気に見えるために、心身の不調が重篤化するまで見過ごされてしまうところが最大の問題である。
 同氏は、社会人を想定したうえで、成人期の過剰適応を、実態はさておき自分には出来ると思い込む「ポジティブ過ぎる認知」、周囲から評価、賞賛を得たいと願う「過大な評価希求」、高い時もあれば低い時もあり定まらない「不安定な自尊感情」、他者に合わせようとするために自分を出さない「自己抑制」、困ってもなかなか助けを求められない「援助要請への気後れ」、物事に完全な姿勢で取り組もうとする「課題への完全傾向」の6つの側面から多面的に捉えようとしている。これは児童・生徒を対象とした諸研究と定義が異なることに留意しなければならないが、「無理をしてでも要求や期待に応えようとする」という点は共通しているだろう。
 日本の教育は、「社会・学校からの要請に応えられる人間(それが従順であればなお望ましい)」を育てることに目的を置いてきたような面が長らくあったため、過剰適応している人間は周囲の他者から一定の評価を得られてきた。それゆえに、その影で本人の心理的な適応状態に生じている問題が顕在化してこなかったのであろうし、学校現場では現在もこうした過剰適応の問題については目をつぶりたくなる部分があっても不思議はない。現に、過剰適応している生徒は、教員のいうことをよく聞き、様々なことにまじめに取り組み、周囲の生徒に対する気遣いも十分できるなど、望ましい性質を持った生徒として教員や周囲の生徒の目に映ることにかわりはない。ただ、それは自己を抑圧して演じられた「いい子」であるため、いつか破綻する可能性がある。
水澤氏の問題意識は、成人の場合、傍から見ていて明らかに無理をしているのがわかる状態や、健康診断で異常がみられる状態になっても、そのときに本人に「無理をしている」という自覚がないので、そのまま無理を続けた結果、心身に異常をきたすというケースが想定されるところにある。そこで水澤氏は自己評価式の尺度の開発を行っているが、議論の中で、「本人にはそのときには無理をしている自覚がないので、後で振り返って『あのとき自分は無理していたんだ』と思うことで、はじめて過剰適応であったことがわかり、自己評価式の尺度にも回答できるのではないか」「健康が多少損なわれているという自覚があっても、例えば何か困難な目標を達成するために本人が選んで無理をしているのなら、心理的な適応という点では問題ないのではないか」という見方もされた。つまり、過剰適応しているときは「体は病んでも心は元気で、本人には問題意識がまるでない」という状態なので、果たして過剰適応が病なのか適応なのか、その判断基準が曖昧になっていく。そればかりか、本人には振り返ることしかできないため、介入のタイミングが難しいという問題も残される。
 教育的には「いい子」であることが望まれている以上、過剰適応していることによって一定の評価を得ることができるのなら、そうするだけのメリットはある。しかし、その影で心身の健康が損なわれるなら、無理をせずに適応できるように介入することは必要になるだろう。しかし、本人が自らの意志で過剰適応することを選んでおり、多少の無理をしてでも達成したいことがあるのなら、それが途中で妨げられることの方が不適応につながってしまう場合もありうる。そのような場合には、周囲の人間は止めるべきなのか、とめることが可能なのかはわからない。
過剰適応は病か適応かの境目が非常に曖昧ではあるが、今後の研究の進展とともに、学校現場や職場でどのように考え、対処することが求められるのかが明らかにされていくだろう。
        (文責:大学教育開発・支援センター 博士研究員 尾関 美喜)