【No.339】
就業力養成と能動的学習

2010年12月18日、大学コンソーシアム石川主催の戦略GP採択プログラム北陸3県合同フォーラムが開催され、富山、石川、福井のそれぞれのGPプログラムの総括とともに、基調講演として、慶応義塾大学の伊藤健二氏より、文部科学省・先導的大学改革推進委託事業「社会のニーズに応える人材養成を目的とした教育プログラムの在り方に関する調査研究」(委託先:慶応義塾大学)の成果が報告され、大学教育が企業、地域、社会の要請に応える内容にほんとうになっているか、出口での質保証を厳しく問うものであった。

中教審答申が参考指針として示す学士課程共通の学習成果(学士力)の各項目を大学と企業とがどのように重視しているかについて、各種GPに採択された大学と企業の双方にアンケート調査を実施し分析したものであった。企業については、大、中小企業合わせて521社が対象となっている。

例えば、学士力の一つとして提示されている「問題解決力」については、本調査で独自にこの能力をスキル項目に分解し、調査結果について分析を行っている。

「問題解決力」についてはスキル項目として、問題の分類と定義付け、問題の目標と達成基準の明確化、複雑な意思決定の単純化、研究計画の立案、自然現象に関する問題発見、実験による検証、討論の仕方、他者への説明、知識の伝達、グループでの課題解決、学習コミュニティの形成、リスク管理など20項目が定義されている。

伊藤氏は大学、企業ともに重視する能力を「就業力」と定義し、アンケート結果の分析によればその能力の一つとして問題解決力が抽出された。伊藤氏が厳しく問うたのは、例えばこのようなスキル項目で定義される問題解決力を身につけさせる大学教育にほんとうになっているかということであった。

伊藤氏は、問題解決力をはじめとする就業力の養成にグループ討論、実践してみる、他者に教えるといった要素を含んだ能動的学習を仕向ける実践的な教育の必要性を主張し、課題検討・インターンに基づく具体的な教育プログラムを示された。いわゆるproblem-based learning(PBL)の重要性を主張された訳である。

典型的なPBLである卒業研究の有効性は十分認識されているが、講義授業においても、研究の教育への還元として、いかなる課題を教員が設計できるかが鍵となり、センターニュース334号でも主張した通り、このことはAbility-based Learning Outocomes とも絡み、学士課程教育全体におよぶPBLの要素の導入が今後の大学教育の最重要な課題といえるであろう。


(文責 大学教育開発研究部門 西山宣昭)

 

学士課程教育における学習目標設定・プログラム開発・評価

2010年11月28、29日、大学教育学会2010年度課題研究集会が武蔵川女子大学で開催された。大学教育学会は、課題研究の一つとして「学士課程教育における学習目標設定・プログラム開発・評価のダイナミクス」を取り上げ、2009年度から研究が進められている。

今回の研究集会ではその経過報告も兼ねたシンポジウムがあり、学位授与方針の明確化、卒業時点で獲得すべき学習成果・各授業科目の学習目標・成績評価基準の明確化・可視化、獲得すべき学習成果と整合するカリキュラム・学習目標・授業内容・成績評価基準に向けての改善等について、国内の動向や個別事例の紹介が3氏により行われた。

卒業時までの学習成果として学生がどのような能力を獲得したかを、カリキュラム、各授業科目の学習目標と成績評価基準などの教育情報とともに明示することが、いま社会から強く求められている。
厳しい就職状況の下、上の記事でも述べた通り、企業等に対して出口での教育の質保証を行うことが求められている。

本学でも現在、各学類のカリキュラムポリシー・ディプロマ・ポリシー(CP・DP)の明確化、カリキュラムマップの策定が進められており、今後、各学類の学習成果とカリキュラム、各授業科目の学習目標・成績評価基準との整合性を継続的に検証できる全学的なシステムについて検討されることが期待される。

シンポジウムでは、まず、東北大学の串本剛氏より、人文科学・社会科学・理学・工学・看護学の5分野にわたる2000学科の学科長を対象として実施された「学士課程教育の改革状況と現状認識に関する調査」の結果(私学高等教育研究所のウエブサイト http://www.shidaikyo.or.jp/riihe/result/project4.htmlに中間報告書が掲載されている。)が報告された。

得られた848学科からの有効回答のうち、「学科の教育・学習目標が明文化されている」との回答は732学科(86.3%)、また、732学科のうち「学科の教育・学習目標と各授業科目との関連を明示するカリキュラム・マップを作成しているか」に対して「している」との回答したのは286学科(35.9%)、「検討している」と回答したのは117学科(15.9%)であった。

広島大学の上真一氏は、卒業生に求める能力等を明確にし、卒業生の質を確保することを目的とする広島大学独自の到達目標型教育プログラム(HiPROSPECT)について報告された。

平成13年の「広島大学の学士課程教育体制の再構築(答申)」、平成14年の「到達目標型教育に向けて(答申)」を受けて検討が進められ、平成18年度よりHiPROSPECTが導入されている。各学部・学科等が学士号取得を目的に提供するカリキュラムとして66の主専攻プログラムが実施されており、卒業時までに身につけるべき知識や能力をプログラムによる「学習の成果」として入学時に学生に明示する。

各授業科目における学習目標の達成の累積が卒業時点での学習成果とすると(卒業研究による学習成果は極めて大きいが、ここでは除外する。)、卒業時までに身につけるべき知識・能力(学習成果)に各授業科目での学習がいかに寄与するか、そしてその根拠となる各授業科目の成績評価基準がいかなるものかについて、カリキュラムを構成する授業科目の担当者間で情報を共有し、継続的にそれらを検証するためのFD活動が重要となる。

一方、広島大学のHiPROSPECTの特徴は、主専攻プログラムによる「学習の成果」を達成するためのカリキュラム、授業科目の内容、「学習の成果」の達成度の評価方法を教員組織として点検・見直しするシステムにある。

HiPROSPECTでは、授業科目の成績評価とともに、主専攻プログラムによる「学習の成果」の達成状況を測定するための授業科目群が設定されており、測定のためのそれら授業科目の選定、達成状況の測定のための評価項目、評価基準は教員個人ではなく、主専攻プログラムの担当教員会が行う。

担当教員会は主専攻プログラムの自己点検・評価・改善の実施状況をまとめた年次報告書をまとめ、主専攻プログラムから独立した教育評価委員会がこの報告書により各プログラムの状況を把握する。このような組織的にフィードバックを回す仕組みは、カリキュラムポリシー、カリキュラムマップを共有し、授業科目の教育内容・方法を継続的に改善する上で必要である。

関西国際大学の山本秀樹氏は、ミネソタ大学ロチェスター校でのカリキュラム開発において、コンセプトマップが有効に活用された事例を紹介された。

各授業科目の教育内容を、複数の短いキーワードの相互の関係性を矢印や実線で接続してグラフィカルに表示したコンセプトマップ様の図として表現する。文章で表現するよりも、授業内容に含まれる複数のキーワードの関係性が把握しやすい。また、複数の授業科目に共通するキーワードの有無に基づき授業科目間の関係性が把握しやすい。組織的なカリキュラム作成に有効なツールの一つであろう。

以上、大学教育学会課題研究集会のシンポジウムの概要を紹介した。当センターでは引き続き本学のCP・DP策定に参考となる情報収集を行う。


(文責 大学教育開発研究部門 西山宣昭)