【No.581】
「アクティブ・ラーニングの意義」

○●○「アクティブ・ラーニングの意義」○●○

 本学はAP事業によって、ALについて先導的な役割を果たしています。その手法や成果については、本ニュースでも、再三、取り上げられていますので、ここでは、その教育的意義について、いくつか思いつくことを述べたいと思います。

 

○学修への動機付け

 今日、単位制度を実施化するため、シラバス作成において、授業外学修課題の設定が求められています。しかしながら、実際、ただ単に多くの課題を課すだけでは、学生の授業外学修時間はそれほど伸びません。むしろ、必要なのは、講義中に、課題に対する関心を高め、さらに知識を得ようとする意欲を醸成することであり、これこそがALに他なりません。

 

○生涯学習の基盤

 先日のIR研究会で報告があったように、現在、大学での成績と就職状況との間には、明確な相関関係がありません。これについては、これまで、大学教育の目的が、学問的な体系や厳密さで、社会人が必要とする活動力や社会性とは異なっている面もあります。しかしながら、多くの学生が求めているのは、専門性ではなく、卒業後、日々、新たな情報と社会情勢の変化に対応するため、自学自習や協働作業ができるという自信です。また、企業が学生に期待するものが、積極性・主体性・チームワーク・コミュニケーション能力であるならば、それらも、大学教育の一部にならざるを得ません。

 

○卒業研究から学士課程教育へ

 多くの卒業生が卒業研究を評価する中、大学における低学年時の講義への評価が低いことは、残念な事実です。卒業研究で経験する能動性、協働作業や達成感は、大学教育の早い段階から実感される必要があります。この点、初年時教育は大きな実績を上げています。同じような取り組みは、他の講義科目にも求められます。学士課程全体を実施化するためにも、ALは重要な役割を果たします。

 

○グループ・ワークの意義

 日米の教育比較は簡単ではありませんが、一般的に、アメリカ人学生のコミュニケーション能力の高さ、目的意識の高さは、日本人学生と対照的に感じられます。これは、学力の問題ではなく、その外側を取り巻く教育観の違いであると思われます。

 知識基盤社会においては、ネットワークが重要になってきており、個人の技量や能力は、常に社会的文脈の中で、位置付けられることに注意する必要があります。「学び」は図書館でも、下宿でも、オンライン学習でも可能であるならば、講義に出席する意義は、教室でしかできない「グループ・ワーク」ということになります。

 

○アクティブ・ラーニングの限界

 上述のようにALには、多くの利点がありますが、限界もあります。特に、知識量が膨大な分野や概念理解に時間がかかる分野においては、前提となる知識や概念を押さえた上でなければ、グループ・ワークも上滑りなものとなります。

 先日開催された、教育実践報告会において、講義後の演習や実習におけるALが、薬学においては、スムーズに行われるのに対して、数学においては、多くの課題があることが指摘されていました。これは、ALが、動機付けや経験、省察をもたらすことはあっても、知的格闘を通じた思考力の代替にはなり得ないことを示しています。

 現在、理系の先生方の多くは、学生時代、授業よりも、自分で演習問題を解くことに熱中し、その過程で思考力を獲得されたことと思います。残念ながら、現在、多くの高校生は、そのような過程を経ずに、教師に示された解法パターンを再現していると言われています。解答をすぐに求めず、しばらく疑問を寝かせておくことも、認知科学では学習の重要な要素であるとされています(参考文献)。これは、ALでは代替できない部分です。

 

参考文献Mark A. McDaniel et al., Make It Stick: The Science of Successful Learning, Cambridge: Harvard University Press, 2014.

 

(文責 教育支援システム研究部門 吉永契一郎)

 

●○●第20回FD研究会●○●

主 催 大学教育開発・支援センター

日 時 3月16日(水)10時30分~12時00分

会 場 総合教育1号館2階大会議室(角間キャンパス)

講 師 大学教育開発・支援センター教授 吉永 契一郎氏

テーマ 「アメリカSTEM教育改革の最前線」

概 要 科学技術革新の中心地であるアメリカにおいて、STEM(理工系)人材育成に課題が多いことは、以前から指摘されている。そのため、NSF、NRC、AAAS、AAC&U、CGS等の団体が、これまで、多くの調査や提言、財政支援などを行ってきた。

 最近の事例は、2013年度より開始されたAAUによるUndergraduate STEM Education Initiativeである。これは、北米のエリート大学団体であるAAUによる取り組みであること、そして、アクティブ・ラーニング(AL)とその教育効果の測定を前面に打ち出したことが、画期的である。そこで、本年2月、発表者は、選定された8大学のうち、ワシントン大学セントルイス、ミシガン州立大学、アリゾナ大学、カリフォルニア大学デービス校を訪問し、STEM教育改革の実情を調査した。

 その結果、ALの教育効果の検証はこれからであること、ALにおいてはハードの充実より教材の開発が重要であること、理工系支援のためには教務データの分析だけではなく学生生活データの分析も必要であることが明らかになった。これらを参考に、日本におけるSTEM分野教育改善へのヒントを考えてみたい。研究会では、AL対応型入門化学のテキストも紹介する。これらは、ALとIRを柱としている金沢大学AP事業についても、大きな示唆を与えるものである。