【No.572】
ファカルティ・ディベロップメントを超えて(その6):アクティブラーニング型授業の到達点を探る–大学教育・高校教育の先進事例をめぐって

○●○ ファカルティ・ディベロップメントを超えて(その6):アクティブラーニング型授業の到達点を探る—大学教育・高校教育の先進事例をめぐって ○●○

センターニュースNo.566に続いて、アクティブラーニング型授業が目指す到達点の整理を試みたい。個の学びを始点として、他者との対話・協同を介在にした「教室の社会への外化」(社会化)〜「主体的に社会に参画する個の確立」(主体化)という構図は、児見川孝一郎氏の論考(No.529参照)をもとに描いたものである。そして、その目指すところは、幸せに力強く社会につながる(溝上慎一氏の発言、No.537を参照)学びの場であろうとする教育機関の挑戦であろう。本稿では、11月29日の大学教育学会2015課題研究集会から「アクティブラーニングの効果検証(2015年度採択課題)」[1]での講演、12月17日の桐蔭学園アクティブラーニング公開研究会[2]の様子を報告し、各地の大学・高校で進むアクティブラーニング型授業の取組みの息吹をお伝えしたい。

 

1.アクティブラーニングの効果検証

大学教育学会での本年度からの採択課題として、京都大学・溝上慎一教授を中心に進められている。溝上氏より企画趣旨「AL 効果検証の理論的・測定的フレームワーク」、三保紀裕氏(京都学園大学)「2015 年前期対象授業のプレ・ポストの分析結果」、山田邦雅氏(北海道大学)「理系の観点から見るAL の課題」、長澤多代氏(三重大学)「フォトボイスを活用したAL 型授業の教室外学修の実態」の各報告を受けて、小笠原正明・大学教育学会長からの指定討論が行われた。

まず溝上氏からは、80年代の米国で興ったアクティブラーニングが、90年代の学生参加型授業、2012年移行に大学・高校に広がった背景の概観から、研究課題の射程がアクティブラーニング型授業を測る効果指標の開発検証と設定と、授業外学修につながる、AL活動の外化と気づきから内化に至るメタの視点にあることが示された。続く3つの報告は、量的調査・質的調査の両面にまたがる研究の状況をうかがい知るものであった。三保氏は、大学1年生の授業を中心に、ある授業の前後でのプレ・ポスト調査を行っており、学生の予習・他者観、学習アプローチ(浅い・深い)、学習動機(積極的関与、継続意志)などの指標の抽出と検証が行われていた。指標の高低に関しては、深い学習アプローチが取られていたかどうかなどの授業設計と運営が鍵となっっている様子が見られ、今後の調査の進展が期待される。山田氏は、理系授業の特徴を基本として、基礎的内容・基礎的概念こそその取得が難しいという先行研究をもとに、フリーライダーの可視化として「主体率」の尺度を提案した。授業に参画しているかどうか、授業の影響を受けずに素通りする学生の状態を測る試みは、学生の長期的な育成要因についての知見をもたらすものである。最後に長澤氏は、大学図書館の機能の強化として整備が広がるラーニング・コモンズを中心に、どのような教室外学修が行われ、どのように利用されているのかを、当事者の写真(フォト)とその行動記録(ボイス)を組み合わせたPhotoVoiceという参加型アクションリサーチを試行されていた。

筆者はアクティブラーニング型授業の形態と学習態度の関係に光をあてる多彩な研究グループであったことに感銘を受けたとともに、小笠原氏の指定討論で示された視点からその到達地点を予想するヒントを得た。小笠原氏は、80年代のマス化した米国大学の状況には前日譚があることを、次のように、はっきりと述べた。ベトナム戦争以後の帰還兵を受け入れた米国の大学は、60年代までのコミュニティにおける討論やピアの動機付けの良さ(ドイツ近代大学モデル)が崩壊する過程で、新しい大学像をつくるのを諦めなかったのだという。学寮・組合をグループ活動へ、チューターをオフィスアワー・TAへ、組合の施設をラーニング・コモンズと多機能図書館へ、それぞれ転換する中で、大学システムを編み直す長い努力を行ってきたのだと解く。さて、日本の大学は、80年代の米国大学の現代化(ポスト近代化)の路線を追いかけていくのか、長い努力の始まりの地点に立ったところなのだろうか。私たちはいま、新しい戦後にいるのである。

 

2.桐蔭学園のアクティブラーニング

桐蔭学園では、この4月から溝上氏を教育顧問に迎え、アクティブラーニング型授業の導入に大きく舵を切った。1964年に開学した同校は、10〜20年先につながる人材育成を目指す意図の下、中学1年・高校1年(中等教育1・4年)を対象に、「習得」—「活用I」—「活用II」—「探究」という授業論を取り入れ、学力の三要素に対応した学習デザインを導入している。午前の部の中学1年「理科(化学)」、高校1年「理科(化学)」の授業見学と討論の一端を紹介したい。

中学1年化学の単元は「熱容量についての考察」である。教室環境での特徴として、教師が手にもつiPadのスライド資料は、短焦点プロジェクタへappleTV経由で無線送信され、生徒のiPadで撮られたワークシート画像はロイロノート(iPadアプリ)によって集約される、といったICT環境が整っている。授業はまず、基礎知識の確認と、前回に計測された各グループの実験データに基づいた熱効率の計算と、ペア・グループでの計算結果の確認(2分程度)がされる。ここで、ガスコンロから土鍋、ビーカー、フライパンなどへの熱の伝達効率が10〜20%という低い計算結果に至ることに、それぞれのグループから驚きの声が上がる。科学教育の用語では、誤概念の利用にあたる。この「習得」「活用I」段階でとどまることなく、教師から社会につながる大きな問いが提示される。「自動車や発電所の熱効率はどのくらいか?」・・・これも最大で20〜30%という低い数値であり、現代社会生活を送るために、私たちが如何に多くの熱を捨てているかということに関心が広がっていく。生徒の目は、まるで大発見が自分たちの計算によって導かれたように輝いていく。さて、その理由を、グループで討論しワークシートに記入する段階に移行していくのであるが、熱を逃がしている性質から、容器の材質・素材、容器の底面積・厚みといった形状への観点に焦点が当てられ、討論の後には、一人ひとりがワークシートに適切な理科の用語を用いて付け足して文章を完成させていく。この過程には、討論(活動)による外化から、個人の認知プロセスに内化されていく様子が見え、「活用II」の主な活動の目指すものがうかがえる。最後に、教師から社会へつなぐコメントが加えられた(学習デザインシートには言及がないので、筆者の目には即興のように映った)。逃げた熱をどう使うのか、熱をコントロールすることで技術革新につながるのではないか。発見の感動から、さらなる探究の動機付けに、生徒の心を発火させる教師の問いには、教育が生徒に善い影響を確かに与えているのだという信念や教育哲学を感じさせるものであった。

なお、午後の部では公開シンポジウムにて、松下佳代教授(京都大学)の基調講演、全国4校の先進事例紹介、溝上氏の総括講演がなされた。高大接続の改革に向かう中で、すべての学校種の教師と生徒・学生のこうした教育開発の連続によって、近い将来、長い教育段階のステージをつなぐことに結実するのではないだろうか。

(文責 教育支援システム研究部門 杉森公一)