【No.570】
大学教育学会2015課題研究集会参加報告

○●○大学教育学会2015課題研究集会参加報告○●○

 2015年11月28日(土、岩手医科大学)、29日(日、岩手大学)で開催された大学教育学会2015課題研究集会に参加した。統一テーマは「「連携」から広がる新たな時代の大学教育」であった。プログラムは、岩手医科大学理事長・学長:小川彰氏による基調講演「多職種連携と徳育」、開催校企画シンポジウム「多様な連携による大学教育の質向上の可能性」、課題研究シンポジウム「学士課程教育における共通教育の質保証(2013年度採択課題)」、「発達障害学生への学生支援・大学教育の役割(2014年度採択課題)」、「アクティブラーニングの効果検証(2015年度採択課題)」、ポスターセッションと盛りだくさんかつ充実した内容であった。詳細は学会Webサイト[1]をご覧いただきたい。本稿では、この中から、「学士課程教育における共通教育の質保証」と「発達障害学生への学生支援・大学教育の役割」について簡単に報告させていただく。

「学士課程教育における共通教育の質保証」では、4つのサブテーマについてそれぞれの報告(報告順は1、3、2,4)がなされ、それに対して指定討論者として小笠原正明氏からのコメントが出された後、全体での質疑、討論となった。

サブテーマ1:共通教育における学習成果の直接評価(松下佳代氏、京都大学)

サブテーマ2:数理科学分野における共通教育の質保証(高橋哲也氏、大阪府立大学)

サブテーマ3:共通教育における学習成果の間接評価(山田礼子氏、同志社大学)

サブテーマ4:共通教育における質保証のためのマネジメント(鳥居朋子氏、立命館大学)

 松下氏は、共通教育における学習成果の把握方法としてルーブリック、学修ポートフォリオ、標準テスト、質問紙調査(NSSE[2]など)をあげた上で、米国では全米規模での質問紙調査、ルーブリック、クラス単位のパフォーマンス評価が最も利用され、かつ重視されている評価方法であるが、日本ではルーブリックの普及が進んでいない現状を説明された。さらに、ルーブリックについては、どの組織で作成、活用するのか(大学、学部・学科、科目など)、誰が開発に関わるのか(教員、学生、教授学修法センタースタッフ、地域住民、企業・NPO官権者など)、評価結果のフィードバック方法、成績評価への活用方法、評価作業負担、アカウンタビリティ等の論点が示された。山田氏は、アンケートと客観テストを組み合わせた学生調査の結果を報告し、アンケート結果と客観テストの正答率との相関の有無について説明し、間接評価(アンケート)と直接評価(客観テスト)を組み合わせた調査の重要性を述べられた。高橋氏は、数学的リテラシーと教育目標設定についてのヒアリング調査結果を報告し、数学的リテラシーを教育目標にあげている大学が少ない点、科目は提供されていても履修者が少ない点、学士課程カリキュラムとして考えた場合、その決定権は学部・学科にあるため、共通教育担当組織が学士課程カリキュラム策定の段階から関与する必要がある点などを説明された。鳥居氏は、アンケート、ヒアリングに基づき作成された共通教育質保証のためのマネジメントティップス(暫定版)を示した上で、PDCAサイクルによるマネジメントのポイント、指針1(P)「学士課程教育における共通教育の目標を明確に設定し共有する」指針2(D)「共通教育の目標にそくした科目の配置や実践を行う」、指針3(C、「共通教育の実施の成果を測る評価ツールを開発し導入する」、指針4(A)「エビデンスと実践の可視化によって共通教育を改善する」、指針5「これらのサイクルを組織的にまわす」について説明された。4つの方向を受け、指定討論者の小笠原氏からは、共通教育のスタンダードは何かとの問題提起がなされた上で、高等教育研究は工学的研究であり、製造物責任に対する当事者意識・能力・責任により改善に繋がる別の選択肢を示した行動が求められるため、共通教育のモデルを明らかにした上で質保証スキームを構築し、それに沿った研修実施が望まれるとの発言がなされた。金沢大学では、来年度平成28年度から共通教育の大規模改革が実施されるが、この改革を好機と捉え、金沢大学としての共通教育質保証スキームに則った、金沢大学に入学した学生がKanazawa University “Global”Standard(KUGS)を修得したことを説明出来る体制構築が必要であると感じた。

「発達障害学生への学生支援・大学教育の役割」では、いわゆる「合理的配慮」について、「合理的配慮は事務・事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばない-政府基本方針の文言の意味-」(青野透氏、徳島文理大学)、「発達障害学生支援・配慮の申し出から対応に至るまでのプロセス-全国416高等教育機関の事例収集・分析から-」(石塚陽二氏、独立行政法人日本学生支援機構  学生生活部障害学生支援課長)、「教育としての発達障害学生支援・配慮-大学院の事例を交えて-」(吉武清實氏、東北大学)、「発達障害学生に対する移行支援の基本的考え方-学内外支援組織との連携・協力を中心に-」(小川勤氏、山口大学)の報告が行われた。青野氏は、障害者権利条約、障害者差別解消法、文部科学省「対応指針」(案)を引用しながら大学全体としての支援体制が必要であることを協調された。石塚氏は発達障害学生の現状を各種データに基づき説明され、日本学生支援機構が収集している障害のある学生への支援・配慮事例集[3]、「教職員のための障害学生修学支援ガイド」[4]などを紹介された。吉武氏は東北大学での活動事例を紹介しながら、修学支援、就職支援等でのミスマッチなどの課題をあげられた。小川氏は、発達障害学生に対する移行(就職)支援として、日々の相談支援を通じた自己理解支援の重要性を述べられ、学内・地域就労支援体制の解説を行われた。その後の全体討論では、診断書のある場合、自分で申告する場合は対応可能だが、診断書も自己申告も無い発達障害学生にはどう対応すればいいのか、これまではそのような学生は早く卒業させてしまえという大学文化があったのではないか、発達障害学生支援について周りの学生の理解が重要である、などについて活発な議論が行われた。金沢大学としても、障害学生支援について今までのような場当たり的対応では無く、いわゆる「合理的配慮」についての指針を策定し対応していくことが望まれると感じた。(文責 評価システム研究部門 堀井祐介)



[1]http://daigakukyoiku-gakkai.org/site/conference/conferenceinfo/

[2]全米規模での学生調査 http://nsse.indiana.edu/

[3]http://www.jasso.go.jp/tokubetsu_shien/2014jirei_top.html

[4]http://www.jasso.go.jp/tokubetsu_shien/guide/top.html#guide_pdf