【No.566】
ファカルティ・ディベロップメントを超えて(その5): アクティブラーニングの目指すもの

○●○ ファカルティ・ディベロップメントを超えて(その5): アクティブラーニングの目指すもの ○●○

高大接続改革に向けた政策の潮流にあって、県内高等学校および各地の大学での講演の機会が増えている。アクティブラーニング(教育方法)を軸に、ルーブリック(教育評価)、カリキュラムデザインと質保証(教育制度・システム)へ注目したものが多い。本稿では、教育制度・システムの変革に関わって、9月10日に行われた岡山大学桃太郎フォーラムXVIII[1] での基調講演・分科会、9月17日に行われた富山大学工学部次世代ハイパーエンジニア養成プログラム第一回公開セミナー[2]の様子を報告する。

 

1.岡山大学でのアクティブラーニング推進

岡山大学桃太郎フォーラムは、平成10年から毎年開催され18回目となるFD・SDの草分け的なフォーラムである。今回のテーマは『新しいプラットフォーム「60分授業・4学期(クォーター)制」導入に向けて』に沿って、新しい学年歴の施行に向けた話題が議論される、特別講演・シンポジウム・ポスターセッション・分科会の構成であった。

特別講演では、許南浩(岡山大学教育担当理事)による講演「岡山大学の教育改革の目指すもの」によって方向性が明確に示された。背景として、グローバル・ボーダレス、ITの進展、人口減少の3点を挙げ、学生に自分で生きる力と起業家精神を持つように、大学教育による付加価値が与えられなければならない。平成10年10月の大学審議会答申「21世紀の大学像と今後の改革方策について」が訴えたことが17年経ても通用している理由として、教員の当事者意識・教育実施体制・改革の取組みの限局性にあるとみている。つまり、少人数の学生を対象に、一部の教員が実施にあたるという教育改革プログラムの効果の限界である。岡山大学は、全学で仕掛け、先導組織をトップレベルからボトムレベルまでつなぐという優れたコンセプトを持つ総合的教育改革「学びの強化」を実行している。60分授業、4学期制、学務システムの体系化の3本柱からなる新しいプラットフォームと呼び、全入学生・全科目・全教員が取り組む。高等教育開発推進機構によるチィーチングスタイルの確認、大学改革強化推進補助金による施設整備と講義レベルの改革支援を力に、グローバル時代に自身をもって主体的に生き抜ける人材の輩出に向け、ディプロマ・ポリシー達成に向けたカリキュラム革新とグローバル化対応を実行している。

続いてのシンポジウム・ポスターセッションでは、60分4学期制による教育革新に向けたカリキュラム開発経費(平成27年は202件申請)から部局申請分に限っての報告があった。シンポジウムでは文学部、教育学部、環境理工学部、学生からの提言の4件、ポスターは22件の参加があり、これが全体の8分の1の報告であることに驚く。ほぼ全ての部局と学問領域で、個々の科目の内容・方法が見直されているだけではなく、アクティブラーニングが埋め込まれたカリキュラム開発に向けた全学的なうねりが生まれている。岡山大学らしさは、シンポジウムにて学生からの声が聞けたことであろう。法学部の学生は、意識を変える例えとして、キケロとデモステネスの教育法の違いを示した。キケロは分かりやすい授業であったが、デモステネスは受講生の行動につながる授業であったという。PBLやALによって学生が変わる可能性がある。ただし、大学全体のシステム変革だけでなく、個々の教員の意識が変わることとの両輪によって、個々の学生の変化を促していく必要があるのではないだろうか。

 

2.アクティブラーニングの目指すもの

富山大学工学部では平成27年度から概算要求の事業として「次世代ハイパーエンジニア養成プログラム」がスタートした。アクティブラーニング(AL)と質保証システム(学生・教員・企業によるルーブリック相互評価)を軸に、学部から大学院にわたっての「ものづくり教育」を6学科共通で行う。このプログラムの第一回公開セミナーとして、金沢大学からは杉森が、金沢工業大学は千徳栄一教授、大澤敏教授がそれぞれ講演を行い、短いパネル討論を行った。

千徳教授によれば、金沢工業大学のプロジェクトデザイン(PD)教育は、実技教育によって観察力・段取力・実行力・報告力・プレゼン力を涵養することを目指しており、いきなり実験を行わせるという授業設計に特色がある。1〜2年生にかけて、PD入門、PD I、PD II、PD実践と必修8単位に、18名の専任教員(うち17名が企業出身者)がリアルな状況を知った上で課題解決学修を促すファシリテーションにあたる。教員の力、集団指導体制が成功の鍵となっており、教員のOJTの重要性は他大学に無い強みを感じる。続いて大澤教授は、大学教育再生加速プログラム(AP)に採択された「正課と課外教育の統合化」事業の概要を示した。能動的な学修の定義を、グループワークによる討議を正課外に組み合わせることで設計していることに特徴がある。キーとなるのはMIT・スウェーデン等で行われている工学デザイン教育=CDIO(考えだす、設計する、実現化する、運営する)にある。正課708科目と課外128プロジェクトの統合には、eシラバスをもって結合させ、シニアSA・TAの支援によるラーニングコモンズでのグループ学修、授業ビデオの配信による反転授業の実現にある。反転授業の実際は、大教室の講義でビデオ配信2回に限っているが、それで生まれた時間によってのべ372回のTA・学生相互の個人授業(教え合い)が行われ、下位2割の学生の成績向上につながっていた。

大学教育におけるアクティブラーニング型授業が目指すものの一つは、対話から協同を通した「教室の社会への外化」(社会化)であり、「主体的に社会に参画する個の確立」(主体化)である。教育方法・教育評価のイノベーションが、個別の限定された対象と事例にとどまること、またはマニュアルとしての定型が参照されて自ら言語化されず非主体的な状況で進められることほど、アクティブラーニングの状態から離れたものはない。能動的に学び続ける教育機関=学習する組織の状態とする要素として、教育方法と教育評価のデザインによる統合と多様化を挙げたい。

(文責 教育支援システム研究部門 杉森公一)

※No.560にて、大阪大学「世界適塾」(誤:的塾)の表記に誤りがありました。訂正いたします。

●○● 第19回カリキュラム研究会のお知らせ ●○●

日時:10月22日(木)10時30分~12時 会場:総合教育1号館2階大会議室

テーマ:「改めて考える大学入試~中等教育機関の立場から~」

発表者:坂詰貴司(芝中学校・芝高等学校教諭、大学教育開発・支援センター客員研究員)

概要:長い間大きな変化が見られなかった大学入試が昨年12月の中教審の答申が発表され、大きく変化する可能性が出てきました。その後今年の1月に発表された「高大接続改革実行プラン」、9月には高大接続システム改革会議の「中間まとめ」など具体的な内容が明らかになってきました。その中で一番注目すべきなのは、大学入学希望者学力評価テスト(仮称)でしょうか。そして来年の大学入試では、東京大学と京都大学が揃って新しい入試を実施する予定です。このような状況の中で、中等教育機関の立場から改めて大学入試を考えていきたいと思います。

●○● 全学FDSD研修会・第2回FDリーダー研修会のお知らせ ●○●

テーマ:能動的学習を促す教育評価と授業設計

主催:教育企画会議FD委員会、大学教育再生加速プログラム(AP)検討委員会

後援:大学教育開発・支援センター

日時:11月2日(月)13時~17時    会場:自然研ワークショップ教室1

参加者:各学類から選出された教員1~2名(人間社会学域・理工学域については各学類のFDリーダー教員2名)、共通教育機構長が推薦した共通教育GS科目担当予定者・数名、学生部職員

【プログラム】講演:「能動的学習を促す教育評価」杉森公一(大学教育開発・支援センター)

ワークショップ:「能動的学習の実践例の報告」「授業カタログ」、参加者のシラバスをもとにグループ討論を行う。授業内外での学生の能動的活動に注目したルーブリック作成とシラバス再構築を試行する。

成果発表:グループ討論をもとに得られた成果を、作成されたルーブリック、授業シラバスを用いて発表し、相互評価・意見交換を行う。