【No.561】
日本型IRの概念整理の試み(その3)

1.学生IRの枠組み

前号[1]からの続きとして、本号では「学生IR」ついて述べていきたい。「学生IR」の発案は、本学AP事業のIR活動として実施した「学生インタビューによる『問い』の形成によるIR」の過程で、本学の「平成26年度学生企画プロジェクト奨励費成果報告書」を見たことに始まる。学生企画プロジェクト奨励支援事業[2]は「グローバルに活躍するために備えるべき課題発見・課題解決能力,コミュニケーション能力等の養成を目的として、学生自身が独自に着想した企画プロジェクトを奨励し、その活動に必要な経費を援助する制度」である。これに採択された企画の一つに、人間社会学域所属学部生3名が取り組んだ「多様化する学生のニーズについての調査研究」を見つけ、報告書及び成果報告会のプレゼンテーション資料を見て、学生が主体となって行うIR=「学生IR」という概念に行き着いた次第である。この僥倖の後すぐに、本事業を主管していた学生部学生課教務係の担当者を経由して、当該調査研究のリーダー学生に連絡を取り、面談することができた。実施にあたっての詳細な話を、リーダー学生にヒアリングしていく中で感じた当該研究調査について驚いた点が2つあった。ひとつは

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大学の正課内の専門教育で身につけた社会調査手法に厳密に則り、調査全対象の約95%(約1,357名)からアンケート回収できたという点である。もう一つは、大学への学生のニーズに関わる自由記述の質・量ともに厚く、学生の現状を詳らかに謳う「生の声」であった点である。上記2点の結実の理由は、学生同士が織りなす効果によるものであることが想定される。ここでは「学生IR」という新規な枠組みだけでなく、学生の專門教育における正課内の学修成果を用いて、主体的に正課外のPBL(問題解決型学修)[3]に挑み見事成功したという非常に貴重な成果を見ることができた経験であると感じている。ここから図「『学生IR』の3類型」[4]に、「学生IR」の枠組みを整理した。「学生IR」はまだ試案の段階である。今後、本学AP事業の中に組み込んでいける現実的なアイデアを検討していきたい。

2.ペンシルベニア州立大学のIR

筆者は2015年8月初頭に、東京大学大学院教育学研究科大学経営・政策コースが開講する夏期集中講義「比較大学経営論」に研修出張として参加し、アメリカのペンシルベニア州立大学に所属する教員・スタッフから当該大学の教学・経営面について学ぶ機会を得た。例えば、教員組織の自治と経営層の合理的経営が高度に統合されたシェアード・ガバナンスの概念や、多様な形で学部生の学修を支えるアカデミック・アドバイジングという機能及びそれに関わる専門職の存在、もちろんIRについても多くの知見を得た。これまで日本のIRを研究する中で見えなかった新たな2つの視点について述べたい。

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ひとつは、「ペンシルベニア州立大学のIRオフィスのミッションは『大学資源の効果・効率的活用を促進』すること」である。もう一つはIRオフィスが様々な部署と連携して活動しているという点である。この2点から敷衍して、図「日本におけるIRの現状イメージと打開策」を私見としてまとめた。2015年9月5、6日開催の大学行政管理学会のIRワークショップでは、政策の影響を受けて設置されたIRオフィス担当者の図のつぶやきにも似た困惑の声を多く聞くことができた。IRオフィスを設置する際には、そもそも学長がIRを信頼し必要としていることが前提である。その上で、IRをうまく機能させるためには、大学の意思決定の仕組みを見極めた上で、大学の課題や目的をまとめることが重要であると考える。そして学内でのIRに対する受容体制と錦の御旗を携えて、学内の既存組織機能と連携することが必須であると著者は考える。アメリカで作られ輸入された“IR”という新しいギアを日本製の大学機関に馴染ませるには、日本及び各大学組織の文脈にあった独自の「アイアール」に磨き上げ、埋め込むことが重要であると考える。

(文責 AP事業特任助教(IR担当) 上畠洋佑)



[1]センターニュース№555参照(http://herd.w3.kanazawa-u.ac.jp/news/2015/201507_555.html)

[2]本学ウェブページ 学生企画プロジェクト奨励支援

「平成26年度 学生企画プロジェクト奨励費テーマ募集要項」参照(http://www.adm.kanazawa-u.ac.jp/ad_gakusei/student/kikaku_shien/kikaku_shien.html)

[3]PBL(課題解決型学修)というよりもIRL(大学課題研究型学修)と表現した方が適切だと筆者は考える。なおIRL(Institutional-Research Learning)は筆者の造語である。

[4]「TA・RA型」は、ペンシルベニア州立大学のIRオフィスで大学院生が実際に雇用されている事例からまとめたものである。