【No.560】
ファカルティ・ディベロップメントを超えて(その4): 大学グローバル化への視点と学習データ分析の息吹

○●○ ファカルティ・ディベロップメントを超えて(その4): 大学グローバル化への視点と学習データ分析の息吹 ○●○

この8月6日に発表された学校基本調査速報[1]では、大学・短大進学率(現役)が54.6%で過去最高、大学への進学率(現役)が48.9%で過去最高、過年度生を含む大学進学率も51.5%で過去最高であることが報じられた。平成27年7月24日付け北陸中日新聞朝刊によると、県内公立高校(全日制)の卒業生7,618名から大学・短大への進学者は53.2%にあたる4,051名(国公立1,429名・短大546名)であり、前年比と同水準にあるという。高大接続の議論は、進学率の上昇を背景に、知識基盤型社会・グローバル社会・少子高齢社会の三つ組みの社会変化に対応した新しい大学入試選抜の設計にようやく踏み込んでいる。高大接続システム改革会議(第6回)で提示された中間まとめ(案)[2]、初等中等教育部会・教育課程企画特別部会でまとめられた論点整理(案)[3]は、具体的な入試改革イメージを示しつつある。合わせて読みたいのがEDUPEDIAによる鈴木寛文部科学大臣補佐官へのインタビュー「大学入試改革と小中学校への影響」[4]である。鈴木氏は、OECD東北スクールの成功から日本のPBL(Project-Based Learning)・アクティブラーニングのモデルがOECD2030を形成すること、そして「社会の中で学び続け、豊かな人生をおくるための力を意識し教育活動をしている」マインドセットへの変化を訴える。新しい学力観のもとでの社会を生き抜く力を、アクティブラーニングを通して実現する期待と決意が、急速に伝播している。

本稿では、8月20—22日2015PCカンファレンス(CIEC・全国大学生協連合会主催、於富山大学)[5]での基調講演・シンポジウム及びセミナー報告を中心に、グローバル化に対応する大学の取組みと教育学習データ分析の萌芽について紹介する。

 

1.スーパーグローバル大学における取組みの一事例 —「世界適塾」大阪大学の場合—

基調講演として大阪大学のグローバル化の事例について、下田正(教育担当副学長)、竹村治雄(教育学習支援センター長)、進藤修一(教育担当理事補佐)の3氏、その後、深瀬浩一(教育担当理事補佐)、川嶋太津夫(グローバルアドミッションズオフィス長)の2氏を加えてのシンポジウムが行われた(職名は当時)。「世界適塾」のコンセプトのもとでのグローバル化、ICT利用教育、高大連携の3つのテーマの統合が試みられた点は、事例としても時機に叶ったものである。

まず下田氏による基調講演「グローバル化と大阪大学」では、「世界適塾」に至った背景を、次世代人材育成への危機感から始めている。学生・院生の学びの状況の変化として、学生は知識・技能の獲得に偏重して本質の理解を欠いた学びとなっている。ついていけない15%、良成績だが低意欲80% 、好成績で高意欲(ただしトップを目指さない)5%の三極化の構造を示し、与えられたものをそのまま受け入れる習慣にあると分析する。院生は、指示待ち・議論をしたくない・目の前の課題しか見ていないという「自分はそこそこでよい」という状況と見る。他方、教員の環境も激変しており、これまで研究室教育(人間教育)への信念と過密化するカリキュラムに応じるだけの、指導する絶対時間も博士後期課程の院生数も激減している。そこで、世界適塾では調和ある多様性を目指す、コラボレーティブ・イノベーション人材の学修を体系的学修・専門的学修・知の統合学修と定義して、国際標準の教育による質保証を掲げている。クォーター制による学事歴、初年次教育・高度教養教育・副専攻などのカリキュラム改革、新しいAO入試を含む入試改革、新しいTA制度、留学受け入れ、と広範な大学改革については今後も注視したい。

 次に竹村氏による「ICT教育と大阪大学」では、教育学習支援センターと教育学習支援情報システムの取組みについて紹介された。教育学習支援センターは平成25年から6年間の時限プロジェクトで、正課〜インターンシップ〜キャリア形成の学びのスパイラルをアクティブラーニングで支える構造をもつ。全学的なFD活動のワンストップサービス、IT活用、大学院生を対象にしたプレFDからアクティブラーニングの支援までを含む。Handai Active Learning Classroom(HALC)教室には4面プロジェクタ、ホワイトボード、iPadによるクリッカー、遠隔授業システムを整備している。また、オーストラリアの大学で導入されている授業収録配信システムEcho360を17教室に整備、大阪大学MOOCsとして免疫学のコースをedXに配信するなど、新しい取組みがなされている。

 進藤氏による「高大連携と大阪大学」では、高大連携を教育改革の一環として捉えた姿勢に共感した。大学訪問・高校への訪問授業・オープンキャンパスでは正課の授業を体験することはできても、hidden curriculumから発する主体的な学びを見せることが難しい。そこで「学力」の考え方を変え、キャリア形成教育の視点から区分されてきた学校教育を「接続」するという、これからの高大連携イメージが提示された。教育目標と3つのポリシーは、高校へのメッセージであり、大阪大学では全学としてのポリシーを定めている。教育委員会との連携を協定に基づいて進めており、大阪府教育委(2012)・兵庫県教育委(2014)・大阪教育大学附属高校(2015)と包括連携協定を締結して、SSH指定校・SGH指定校との連携等が進められている。高校生向け夏季合宿=Future Global Leaders Camp、高校教員のための探究学習指導セミナー、JSTとの連携によるグローバルサイエンスキャンパスプログラムなど、高校の現場との接点を広く持っている。

 続けてのシンポジウム「グローバル化のなかの教育改革 —大阪大学の『決断』から考える」では、川嶋氏・深瀬氏による入試改革に関する話題提供のあと5氏によるパネル討論が行われた。川嶋氏は国立大学入試改革の歴史からH28大学入学者選抜実施要項にかけての概説、アドミッションポリシーを起点としての初年次教育の重要性と大学入学者選抜の変化を解題した。特に、初等中等から大学への一環した接続=K-16改革にあって、すべての個別選抜(一般入試・AO入試・推薦入試)において学力の三要素(知識・技能、思考力・判断力・表現力、主体性・多様性・協働性)を適切に評価するものへと変わることが既に示されていること、新設される大学入学希望者学力評価テスト(仮称)を受けて各大学は小論文・プレゼンテーション・集団討論・面接・推薦書・調査書・資格試験等の個別選抜の方法が求められているなかで、国立大学の英知を結集して入試改革に取り組むべきではないかと問題提起された。

2.加速する学びの変化と電子コンテンツの利活用

緒方広明(九州大学基幹教育院)、田村恭久(上智大学理工学部)の2氏による学習ログデータの利活用と分析についての招待講演では、教学IRにもつながるラーニング・アナリティクスへの扉が開かれた。緒方氏の「デジタル教材の学習ログを中心とした教育ビッグデータの利活用」では、電子教材配信プラットホームBookLooperに集まる10万件ログ/日を分析することで、スライドやデジタル教材のページ単位での修正・改善が可能になることの実例が示された。LMS、eポートフォリオ、シラバス、履修情報を組み合わせることから、個々の学生の学習パターンから成績変動とその予測までをサポートできる。田村氏の「ビューア利用ログの分析と活用」では、コンテンツが電子化され細粒度化されていく中で、収集されたデータが教え方と学び方のマッチングを促す有用なツールになる可能性を示した。学習ログについての規格・標準化も進んでいるが、学習支援に活かすための教育・学習の視点からの議論が不足している。ICT、ビッグデータ分析・統計学、教育学などの他分野の連携協力がまさに求められている時期にある[6]

世界的に教育制度の変革が進む中にあって、道標となる知見を見出す教育実践と教育開発の歩みの先に、30年後の教育のかたちへつなげるという期待と決意を、私たちは強く持っていたい。

(文責 教育支援システム研究部門 杉森公一)



[1]平成27年度学校基本調査速報の公表について(文部科学省)http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/kekka/k_detail/1360721.htm

[2]平成27年8月27日 高大接続システム改革会議(第6回)配付資料(文部科学省)http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/033/shiryo/1361400.htm

[3]平成27年8月21日 教育課程企画特別部会における論点整理(案)について(報告)(文部科学省)http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/053/sonota/1361117.htm

[4]鈴木寛文部科学大臣補佐官に聞く、大学入試改革と小中学校への影響(EDUPEDIA)https://edupedia.jp/special/nyuushikaikaku

[5]2015PCカンファレンス、論文集も公開されている。筆者もポスター発表で反転授業の実践研究を報告した。http://gakkai.univcoop.or.jp/pcc/2015/

[6]学習分析学会がこの5月に設立された。http://jasla.jp/

※2015.9.3 「世界適塾」の表記に誤りがありました。訂正いたします。