【No.559】
日本における大学教員の教育力開発について

○●○ 日本における大学教員の教育力開発について ○●○

 FDが法令にもとづき義務化されて以降、日本の大学においてFD活動そのものは従前のそれに比べて新しい段階に入ろうとしている。講演会、セミナー、教員相互の授業参観といった伝統的(イベント的)な活動にとどまる大学も少なからず残っているのも事実であるが、一方で、大学教育が教員中心から学習者中心のアプローチへと近年変容しているなどの大学教育をめぐる背景を受けて、例えばアクティブラーニング型の授業を推進するための手がかりとなるセミナーやワークショップ、コースデザイン研修を実施・導入するなど教員の授業力改善に寄与できるような新しくかつ多様なプログラムが整備されつつある。また大学教員を目指す大学院生向けのプレFDプログラムも、研究(拠点型)大学を中心に始まっており、基本的な授業デザインや教育評価に関する知識やツールの理解、模擬授業の実施など、将来に役立つ実践的な教育力が修得できるよう組み立てられている。

 文部科学省から「国際連携を活用した大学教育力開発の支援拠点」の認定を受けた東北大学(高度教養教育・学生支援機構)で、実証研究に基づき大学教員の能力を構造化し、またキャリアステージに対応する各段階の教員プログラムの開発を中心となって推し進めてきた羽田貴史教授によれば、「統合的専門職」(A・ボイヤーの議論からみれば、4つの学識が一人の教員に統合した形で、ということになろうか)大学教員を育てるには、大学教員の能力の全面的発達を視野に入れたプログラムが必要であるとし、「単に専門教育を行う大学教員ではなく、知の創造と学生を教養ある専門人に育てる大学教員像をしっかり持つ」ことが重要であると述べている。

 現在日本で開発・実践されている主要な大学教員準備プログラムとして、北海道大学(PFF講座)、東北大学(東北大学大学教員準備プログラム)、筑波大学、東京大学(東京大学フューチャーファカルティプログラム)、一橋大学(TFトレーニング・コース)、名古屋大学(大学教員準備プログラム)、京都大学(大学院生のための教育実践講座)、立命館大学(Preparing Future Faculty)、広島大学(Ed.D型大学院プログラム)の9大学が挙げられる。それらは当該大学のFD活動の一環(一部)として実施されている場合と、TAおよび教育改善のために導入された新たなタイプとしてのGraduate student instructor(北海道大)やTeaching fellow(筑波大)などの教育補助者を対象に教育スキルを身に着けさせることを主眼とする場合の、2つのタイプがある。大学院生対象プログラムの位置づけとしては、大学教員に就くための準備プログラムであるか、教員の能力全体を視野に入れた養成であるかの二つの方向性があるという(東北大学2012,2013年)。上記大学中で多くを占めると目される後者志向の場合、各研究科における博士号取得に向けた研究指導と連携しながら、大学院課程全体および専攻単位での教育プログラムを組み込んだ形で設計されているのが特徴といえる。日本における大学院教育の実態などを考慮するなら、(今後大学教員準備プログラムを考えている大学にとっても)実際にこちらの方が設計しやすく導入しやすいと思われる。

さて、それぞれの提供形式は様々である。短いものでは1日集中のべーシックコースとアドバンスコース(講義と討論)で構成されるものや、2日間ワークショップにオンデマンド講義といったものがあり、また比較的長期のものとしては、半期の国内研修に加え提携大学への海外派遣を組み込んだものまである。具体的な内容をみると9大学で比較的共通していることが分かり、授業における教師の役割、授業設計、シラバス作成、マイクロティーチング、授業リフレクション(省察)、授業参観、評価などで構成されている。準備プログラムを設計する場合、各大学の条件に応じて、これらをベースにアレンジしていけばよいであろう。

本学においては目下、TA、RA、高度TA、FDリーダー等を対象とする各種の教育力向上プログラムの開発と試行が漸次進められている。東北大学での経験も含めて、9大学の取り組みから得られた知見を整理した羽田教授による提言は、本学で今後備えるべきことを考えるのに非常に重要であると思われるので、以下に簡単に挙げていきたい。

 

1)研究も含む全面的発達を目指す。授業設計や授業運営の教育に関する能力形成だけでなく、大学教員の能力全体を視野に入れるべきであるとされる。(既存の)FDも含め、教育のみを対象とすると限定して考えることは、研究と教育を統一的に進めるさいに妨げになるとみられる。

2)教育に関する幅広い視野を育てる。教員は日々の活動を通じ教育・研究能力を形づくっていくが、その場合大学・大学院で受けた経験がモデルになることが多いとされる。教育に対する様々なアプローチを知ることが望ましいと考えられ、担当授業だけに関心を向けるだけでなく、学部学科のカリキュラム企画や学生の学習支援などに関わるなど、教育活動全体を展望できるようになることが重要であるとされる。

3)活動重視のプログラムであること。教育活動が目的に向けた能動的活動であり、また知識を身体化して活用することが重要であるとされる。

4)専門性向上のコアとしてリフレクション能力を重視する。教育活動を実施する能力(授業運営能力)は教員のコアとなる活動であるが、研究指導では得られないもので、教育活動を反省的に総括して改善する能力を身につけることが重要であるとされる。その場合、授業実習に加え、同僚院生や教員によるメンタリングが大きな役割をもつとされる。また授業実習の場所として、(教員活動を行う大学は出身大学と異なる機関であることが一般的であるから)学生の多様性を理解するために、所属大学以外での実施が望ましいようである。

5)分野と世代を超えた交流を重視する。多様な専門と背景を持つ院生が枠を越えて、同じプログラムに参加し交流することが視野を広げる上で有効で、こうしたことが大学全体の教育研究や課題を理解し行動するさいの能力の基礎を育成する重要な役割をもつと考えられている。

6)オンデマンドで供給する。院生の特徴や研究の進捗状況なども踏まえ、柔軟かつ機敏にプログラムへの参加が可能となるようにすることが望ましいとされる。

7)効果を明確にする。実際にはなかなか困難ではあるが、当該プログラムの効果測定が重要になってくる。就職後の教員自身による評価など、短期的かつ長期的視野での評価方法が開発されるべきであると考えられる。

 

※参考文献 東北大学高度教養教育・学生支援機構『東北大学大学教員準備プログラム/新任教員プログラム報告書』2012年および2013年

(文責 評価システム研究部門 渡辺達雄)