【No.555】
日本型IRの概念整理の試み(その2)

○●○日本型IRの概念整理の試み(その2)○●○

1.学生の「最」発見(学生のデータとリアル双方に目を向ける)

筆者は本学の2015年度前期の共通教育科目「アクティブラーニング入門-反転教室、協同による学び-」における第10回「大学データを読む」を担当した。1年生約10名の小規模なクラスでありながらも、受講生の所属学類が文系・理系バランスよい構成となっている。そこで昨今国立大学で話題の「教員養成系と人文社会科学系の見直し」をテーマに下図「タイムテーブル」の通りにアクティブラーニング形式の授業を行った。[1]

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学生は初めて聞いたIRの基本的な概念や機能を即座に理解するとともに、筆者が授業の達成目標として掲げた「エビデンス(根拠)やアカウンタビリティ(説明責任)の重要性の理解」の獲得を授業後に提出するミニッツペーパーで明らかにしてくれた。ディスカッションでは「文系VS理系」の二項対立を超えて、多分野融合の学際性の視点を、学生自らが見つけ出すことができた。この授業をきっかけに、IRが解くべき「問い(リサーチ・クエスチョン)」は、IRer(IR担当者)がデータの山から探しだす方法だけではなく、大学に関わる「問い」を肌で感じている学生に直接問いかける方法もあるのではないかという考えに至った。そこで、本学AP事業のIR活動のひとつとして「学生インタビューによる『問い』の形成によるIR」の実現に向けて6月下旬から動き出した。

2.学際型IR(Interdisciplinary IR)

筆者は明確な目的を定めない「探究志向のIR」を「テレスコープ型IR」と定義した。[2]IRの明確な目的や、その目的に基づいた解決すべき「問い」そのものを探さなければならない「テレスコープ型IR」は難易度が高く、割くべき労力は多大なものになると想定される。またデータの海に埋没して見つけ出した「問い」や分析結果が、現実と乖離する危険性もある。このような危惧の中見つけたアイデアが、先述の「学生インタビューによる『問い』の形成によるIR」である。この取り組みでは、筆者は複数学年・学類の約20名の学生を対象に個別インタビュー又はグループ・インタビューを行った。[3]インタビューを通しての気づきは、筆者が想像できなかった学生コミュニティ内の複雑な学生間の相互作用と学生文化の存在である。これらを元に作成した今回のIRアプローチの概念図[4]を以下に示す。

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今回のIR活動における学生インタビューでは、学生のありのままの言葉で自身の学生生活を「物語」として語ってもらうことを強く意識した。インタビューの具体的なトピックとしては、一日の学生生活の流れ、大学内での居場所(空間的・心理的)、部活・サークル、教職員との関係、友達(先輩・後輩)との関係、履修登録時の授業選択プライオリティ、キャリア意識、授業外学修時間、読書時間、大学寮の文化、アルバイトなどである。民俗学のように筆者(IR担当者)が学生コミュニティに入り込み、コミュニティの構成員である学生にナラティブ(語り)としての大学の姿を記録することに努めた。さらに学生が紡ぎだす「物語」を、学生本人や他の学生によって詳察・分析してもらい、それぞれの「物語」に解釈を付与し、筆者がその解釈を構造化することによってIRに必要な多くの「問い」に昇華することができたと感じている。今後、教学データにあたりながらこれらを検証していく。本図の「学際型IR」という意味は、3つの異なる学問領域の研究者・専門家の役割を演じることによって今回の取り組みにおける分析活動を学際的(多分野融合的)に行うIRであることを意味している。IRとは「サイエンスなのか?アートなのか?」という問いがアメリカでも日本でも行われている。筆者の私見は、二項対立ではなく、双方を内包しながら時宜により切り替えるIRer(IR担当者)の役割として「サイエンティスト(研究者)」と「アーティスト(実務者)」があるべきであると考えている。

 

3.学生IRの可能性

 今回の取り組みでは、「テレスコープ型IR」を支援する実践的なアプローチとしての「学際的IR」と合わせて、新たなIRの担い手としての「学生」を発見することができた。大学経営に学生が参加する取り組みは岡山大学で学生参画型FD[5]として実現されている。この取り組みを参考にしながら、本学AP事業において「学生IR」の実現を試みていきたいと考えている。           (文責 AP事業特任助教(IR担当) 上畠洋佑)



[1]「大学データを読む」の講義資料は以下URLに掲載し閲覧可能である。

http://prezi.com/j3qiy0aejzll/?utm_campaign=share&utm_medium=copy

http://prezi.com/wcoov-k9zqnq/?utm_campaign=share&utm_medium=copy

[2]センターニュース№549参照

http://herd.w3.kanazawa-u.ac.jp/news/2015/201506_549.html

[3]調査結果の詳細は2015年11月の大学教育学会課題研究集会(岩手)で発表予定である。

[4]図に示す人名や各学問領域は読み手の理解を容易にするための比喩として用いた。 「近代看護教育の生みの親」とも呼ばれるフロレンス=ナイチンゲールは統計学者としても有名である。(統計局:http://www.stat.go.jp/teacher/c2epi3.htm

[5]岡山大学教育開発センター(http://cfd.cc.okayama-u.ac.jp/stfd/