【No.554】
ファカルティ・ディベロップメントを超えて(その3): 学びは越境する–学生・教師が共に学びあう共同体へ向かって

○●○ ファカルティ・ディベロップメントを超えて(その3): 学びは越境する—学生・教師が共に学びあう共同体へ向かって ○●○

「教師は、学生の取る行動にしか影響を与える事ができない」ノーベル経済学賞受賞(1976年)で知られるハーバート・サイモンは、現在の教授から学修への転換に通ずる学びの本質を、学習者の行動変容への影響に結びつけて表現している。その行動の結果として身につく認知・技能・態度の総体がラーニング・アウトカムズとして現れ学位授与を規定するディプロマ・ポリシーと一致しているかどうかを同定する行為が、大学教育プログラムのアセスメントの枠組みであろう。

ただし、上記の大学内部質保証を論じる際、根本を疑うことを忘れてはならない。教育学修内容は学問分野・領域に固有の研究者の問いの形成から発しており、教師はカリキュラムへの足場かけを促す支援者ではあるものの、学びの枠組みに押し込む者ではない。むしろ、研究者の問いを越境して、自らの学びのかたちをつくる意味での学生自らが主体を形成することこそが求められるのである。FDという語が、教育開発を行う主体として教員の職能開発のみを指すのであれば、学生の主体の形成をむしろ阻む「フレームの切り抜き」に終始することになる。本稿では、学生・教師の学びあいが大学のもつ枠組みを拡張し、あるいは組み替え、さらには大学教育と学生の未来に光をあてる原動力となることへの視座を、初年次教育と小中高校教育におけるアクティブラーニングの息吹を報告する。

 

1.共通教育科目「アクティブラーニング入門」からデザインされる越境の学び

 

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大学教育開発・支援センター教員による共通教育科目では、学生による大学教育づくりの探究を試行している。昨年とほぼ同じ進行であるが、AL実践とトピックを挟んで総合討論(最終回)に向かう構造をもつ(図)。アクティブラーニング論に関する講義と実践、科学・技術・社会論の枠組みを用いた専門家と非専門家のフレームを組み直すグループ討議を経て、「大学での理想の学び=大学教育をデザインする」グループプロジェクトが進行中である。

グループプロジェクトでは、授業内で学んだアクティブラーニングの背景と技法を足場に、発見のフレーム(学習者の始点と教育プログラムの視点)から越境のフレーム(学生が参画する大学のデザイン)への移行を提案してもらう。その成果については、7月24日に公開の学生フォーラムを企画している(中央図書館「ほん和カフェ。」にて)。学生が大学教育・大学経営に参画することによって、教育サービスを消費する客体から教育をつくりだす主体への転換という、アクティブラーニングの目指す構造が埋め戻されている。そうした役割の越境は、生涯学び続ける能力を醸成するだけではなく、実は教師に期待される役割をも越境させる協同的な相互作用をもたらす。

 

2.小中高校教師と紡ぐアクティブラーニングと小中高大接続

7月9日には福井県教育研究所主催の教職員研修講座「アクティブ・ラーニングを取り入れた授業づくり」の講演・ワークショップが実現された。9時半から16時までの集中プログラムで学ぶのは約60名の小中高校教師による、越境の学びの体験である。クリッカーを使用した講義とペアワークによる授業の振り返り、アクティブラーニングの類型化と新しい授業・協同による学校づくりのグループワークからなる。

この研修講座に先立って、中教審・初等中等教育分科会教員養成部会第86回(平成27年6月30日)では、「教員の免許状授与の所要資格を得させるための大学の課程の認定について」(諮問)について議論されている。これからの時代の教員に求められる資質能力として、環境の変化に適切に対応し、その時々の状況に応じた適切な学びを提供できる高い資質能力(主体的に学び続ける、使命感や責任感、教育的愛情、教科や教職に関する専門的知識、実践的指導力、総合的人間力等=不易の資質能力)が求められる。さらには「チーム学校」のもと組織的、協働的に諸課題の解決のために取り組む力を育成する、という表現には、まさに教員養成そのものがアクティブラーニングの射程に入ったことが明示されている。中教審・教育課程部会教育課程企画特別部会第11回(平成27年7月2日)は、「『アクティブ・ラーニング』をはじめ学習指導要領の理念を実現するために何が必要か?」をテーマにしたグループ討議と報告が行われるという、審議プロセス自体が協同の学びで実現されるメタ構造を重層的になしているのである。

研修講座の午後は「理想の学びをつくる学校とは」をテーマに、ジグソー法の亜種であるワールドカフェの技法を取り入れた大人数ワークショップを行った。学校種別に別れての各グループでは、模造紙の中心から、思いついたことを自由に書きながら発言を行う。話者が偏らないようトーキング・オブジェクトを手に持った者だけが1分程度の発言を行い、議論を展開する。この手続きは、発言順を指定するラウンド=ロビン方式と類似の役割定義の効果がある。次に、ホスト役を1名残し、ゲストとして別々のグループに出かけ、別れた場でも同様の議論を行う。最後に、元のグループに帰ってきたゲストがキー概念を持ち帰り、教師自身が授業スタイルをふりかえるグループワークの構成からなる。このワークショップは、大学教職員向け研修プログラム及び大学生向けの授業内容とほぼ同一のものである(「教師」が「大学教師」「高校教師」「大学生」に置き換わっても本質に変わりはない)。

小中高校で学ぶ児童・生徒が、アクティブラーニング型授業で学ぶのであるならば、小中高教師もアクティブラーニング型研修で学ぶ必要がある。そして、その学びの転換には、それぞれの役割と組織構造すら越境し組み替えていく共同体の学習がもたらされる可能性がある。高大接続の事例として、金城大学医療健康学部では、入試選抜から高校と大学の一体的な教育接続をはかる過程で、新しいアクティブラーニング型初年次教育を生み出した[1]。高大接続と現在の大学教育開発は同じ方向に立っている。大学教師と大学組織の役割の転換が単なるスローガンではなく、その確かな越境の先に、学生と共に社会の未来が拓かれ紡ぎ上げられるのだと信じている。

(文責 教育支援システム研究部門 杉森公一)

○●○第24回学生・学習支援研究会のお知らせ○●○

日時:7月24日(金)13時00分~14時30分

会場:附属中央図書館ブックラウンジ(ほん和かふぇ。)

テーマ:「学生フォーラム -学生が考える越境する学びのかたち」

報告者:共通教育科目「アクティブラーニング入門」受講学生

趣旨:大学教育開発・支援センターでは、2014年4月より共通教育科目「アクティブラーニング入門 ~反転教室、協同による学び~」を新規に開講し、知識伝達のみにとどまらない能動的学修の方法を取り入れた授業実践を試行している。事前の資料提示・講義ビデオ視聴をもとに授業内にディスカッションを行う反転授業と協同学習、クリッカー(リモコン式意見集約装置)を用いた授業への双方向の参加、グループによるプロジェクト活動によって、受講学生は大学での「理想的な学び」の在り方を見出そうとしている。本研究会では、授業の最終回である学生グループの成果報告を「学生フォーラム」として公開し、学生・教職員がともに理想の大学のかたちを考える機会としたい。



[1]「事例 金城大学医療健康学部入学後の進級・修学状況を改善する」、VIEW21(大学版)、2、19-23 (2015)  http://berd.benesse.jp/up_images/magazine/VIEW21_dai_2015Summer-02.pdf