【No.551】
大学教育学会参加報告

●○●大学教育学会参加報告●○●

6月6、7日、長崎大学で大学教育学会第37回大会が統一テーマ「ところで学生は本当に育っているだろうか?」のもと開催された。以下では、その中で行われた公開シンポジウム「学生の育ちをみる」の講演の概要とそれらを聞きながら考えたことを述べる。国際通用力を持った人材育成を大学が強く求められ、人材育成目標、カリキュラム、授業内容の可視化、学修成果に基づくそれらの改善、教育方法としてのアクティブ・ラーニングの普及など、認証評価や政策と結びついた財政支援も背景として、様々な改革が大学一斉に進められている。このような状況にある今、「ところで学生は本当に育っているだろうか?」と問われた。ともかく、厳しい雇用状況が続く中、どのような状況に置かれたとしてもそこでの問題や課題を自ら見出し、情報を集め、解決策を立て、投げ出すことなく解決することができ、そしてそれらのプロセスを明快に伝えることができる力を学生に身につけさせなければならない。大学教員は、このような汎用的な力を学問や研究を行わせることによって学生に身につけさせる。自分の授業や研究指導のデザインによって、学生が目標や動機を見出し、他大学の学生との競争に負けない「力を学生に本当に身につけさせているのだろうか?」と問うてみたい。

 公開シンポジウムではまず、実践女子大学の深澤晶久氏から、昨年まで勤務されていた企業での人材育成の実践について紹介された。「最近の新入社員の持ち前の強みは素直さ、協調性、真面目さ、吸収力そして学習意欲の高さである一方、ネガティブな要素として受身の姿勢、考える習慣の欠如、答えのない状況への不安感、踏み込んだ本気の議論への恐怖、そして失敗を極端に恐れることとし、これらの課題を解決するために2008年から新入社員研修をインプット型からアウトプット型に切り替えた。基本的な思考方法の枠組みを伝達し、自ら情報を取りに行き、得た知識を編集する「考えることの習慣化」、あらゆるアウトプットに対して企業人としての高いレベルを要求し刷り込むことで身につける「やりきる癖」、出来るだけ多くの失敗を経験させることで成功の反対は失敗ではなく不作為であることを習得させる「行動することの大切さ」、以上3つの軸を定めて研修を進めた。」アウトプットのプレゼンでは社内から選りすぐりの厳しい評価者を揃えて激しい指摘が浴びせかけられた。研修の修了式の一コマがビデオで紹介されたが、研修の厳しさとそれを達成した満足感とが伝わってきた。このような研修が行われた当時の入社3年間の離職率は2%程度に留まっていたとのことであった。

 京都大学の溝上慎一氏は、授業・授業外で身につけた知識・能力を問う大学生実態調査の結果に基づき、授業外の学習環境も含めた学習支援の必要性を述べられた。溝上氏が継続的に行っている大学生実態調査の結果については、センターニュース503号(センターHPに掲載中)で詳しく紹介している。

 九州大学の丸野俊一氏は、2001年度から実施されている九州大学の21世紀プログラムの概要と成果について総括された。このプログラムは、すでに広く知られ高い評価を得ており、当センターも初期の段階で調査を行っている(センターニュース4号、センターHPに掲載中)。「21世紀プログラムでは、学生は特定の学部・学科に所属せず、自分の「やりたい・学びたいこと」の実現に向けて、すべての学部・学科の開講科目の中から自分で選択し、自分のオーダーメードの履修計画をたて修学する極めて自由度の高い教育プログラムであり、学生には自分なりの確かな考え方や生き方や価値観を持ち、絶え間ない自己内対話と他者間対話が求められる。」このプログラムの卒業生が就職した企業や研究所等による卒業生の評価から、積極性、創造的態度、知識の関係づけ、責任性、問題発見・解決力などについて他大学の卒業生と比べて高い評価を得ている。

 最後の講演において、日本放送協会解説委員の早川信夫氏による大学教育改革の現状を踏まえての提言で締めくくられた。厳しい指摘が続いたが、「学生に対して主体的に考え、行動できるように育むと言っておきながら、大学自身が改革という強迫観念に駆られて自信を失い、いささか迷走気味ではないか、と感じられてならない。学の独立を守り、主体的に考え、行動する大学であってほしいとの願い」が強く胸に迫った。大学が果たすべき教育研究に注力すべきというメッセージに裏打ちされた数々の具体的な提言は、今回の学会大会の数多くの講演・発表の中で最も印象に残ったものであった。

 以上の公開シンポジウムは、企業の人材育成、授業時間外学習、オーダーメード型カリキュラムの事例や考察から「学生を育てる」始点として、使い古されたキーワードではあるが「動機づけ」を想起させるもので、さらにこれらの事例や考察との対比として正課の学修と学修成果、大学とは何かについて国立教育政策研究所の深堀聡子氏が考察する作りは見事なものであった。学生が目標や動機を見出し、有為な人材として社会に求められるための力を学生に身につけさせるという強い動機があって、そのための正課の教育や研究指導の優れたデザインと実践が生まれる。

(文責 大学教育研究開発部門 西山宣昭)

 

●○●平成27年度 第1回大学コンソーシアム石川FDSD研修会のお知らせ●○●

主催:大学コンソーシアム石川教職員研修専門部会、大学間連携共同教育推進事業

テーマ:「アクティブ・ラーニングを促す授業設計」

日時:7月10日(金)16時~18時30分

会場:しいのき迎賓館セミナールームB 

対象者:加盟大学等の教職員

申込み・問い合わせ先:大学コンソーシアム石川事務局(吉田)yoshida@ucon-i.jp

趣旨:「教授から学修へ」の質的転換を目指して、これからの大学教育に光をあてるFDSDの新しい枠組みが求められている。アクティブラーニング(能動的学修)が目指すものは、学生の学びを起点にした大学教育をかたちづくる対話と学びあいと捉えることができる。本研修会では、ただ聴くことを乗り越え、学んでいることについて話し、書き、過去の経験と関連付け、そして日常に応用するというアクティブラーニングの定義と戦略性を体感し、グループ討論を通じたシラバス再構築を目指す。

 1.講演 【金沢大学大学教育開発・支援センター 杉森 公一准教授】(60分)

   「アクティブラーニングを促す授業設計-対話と学びあいの教授学修の技法」

 2.ワークショップ(60分)

   参加者の持参したシラバスをもとにグループ討論を行う。授業内・授業時間外における学生の能動的活動に注目したシラバス再構築を試行する。

 3.成果発表(30分)

   グループ討論をもとに得られた成果を、作成されたシラバスを用いて発表し、相互評価・意見交換を行う。

※教員の方は、開講している科目のシラバスを持参ください。