【No.549】
日本型IRの概念整理の試み(その1)

○●○日本型IRの概念整理の試み(その1)○●○

「日本において、教育政策関係者や大学関係者間でIRについて、共通の理解がなく、混乱が生じている」[1]という実情の中で、IRという言葉がひとり歩きをし、氾濫している。大学内でIR実務を推進していく中で、その概念を整理し、可視化してわかりやすく説明していく必要があると考える。本稿ではその試みについて紙面を割いていきたい。

2015年6月6、7日に開催された大学教育学会第37回大会において、筆者はIRをテーマにしたラウンドテーブルや部会を中心に参加した。その中で印象に残った2つの出来事について触れたい。1つ目は、テーブル16「学士課程教育における共通教育の質保証:評価データの併用と質保証マネジメント」の総合討論でのある質問である。このテーブルでは「学士課程における共通教育の質保証を検討する中で、直接評価の指標と間接評価を統合的に用いる方策の模索」をするために、「直接評価によって評定される学習成果(原文ママ)と、間接評価によって評定される学修成果は相関するのか」を主要な研究のテーマの一つとしている[2]。その質問とは「直接評価と間接評価の相関について調べる『明確な目的』は何であるのか」であり、これをヒントに、2つのIRの指向性を筆者が概念図[3]として作成したものが以下の通りである。

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 テレスコープ型とマイクロスコープ型の大きな違いは、「明確な目的」の有無である。これを言い換えると「探索志向のIR」か「問題解決志向のIR」かの違いである。筆者の前職である関東学院大学では休学・退学・就職の3課題を掲げてIR組織が創設された[4]。この点から筆者は「問題解決志向のIR=マイクロスコープ型IR」経験者である。どちらのIRが正解であるということではなく、各大学が時間の経過によって変化する「線」の状態を冷静に見つめながら、2つのIRの指向性を意識して切り替えていくことが重要であると考える。例えば、本学AP事業では「学修過程・成果の可視化による学修評価の定量的評価」をIRの目的としており、テレスコープ型IRに当面の間取り組むことになると考えられるが、IR実務の蓄積にともなって、取り組むべき問題が明らかになり、やがてマイクロスコープ型に切り替わる時期が来ると考えている。適宜、状況に合わせてIRの指向性を調節していきたい。

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2つ目は、二日目に開催された部会18「大学運営・IR(3)」の「『教える』と『学ぶ』を支援する能動的な教学IRのあり方に関する一考察」での関西大学教育推進部・教育開発支援センター森朋子准教授の発表である。関西大学のIR事例を発表する中で、目指すべきIRの姿を病院になぞらえて「総合診療型IR」という表現を用いた。これは。IRが大学内の「総合診療科[5]」として様々な部局間の教員と職員で連携しあって、教育の現場で抱える問題に対して能動的に支援していくことを示唆している。この言葉をヒントに、IR組織について、その活動量と協働量という2つの軸を設定して、4分類の概念図を左図の通りに筆者が作成した。「訪問医型IR」とはIR部署が分析したデータを元に、単独で各部局・学部等に積極的に支援をしていく組織であることを意味している。「検診型IR」とは、定期健康診断のようにある一定の時期に各部局・学部等の問題を明らかにし、支援をしていくIRである。例えば自己点検・評価や認証評価がこれに該当するものと考えられる。最後に「研究室型IR」は、単独又は少数の教職員が行うIRを意味する。

 

 上記2つの概念図は試案の範囲を超えていない。より精緻に整理し、モデル化まで昇華するためには、詳らかなIRの現状把握と米国IR研究を深く読み解いていく必要がある。次稿以降も引き続きIR概念整理を行うとともに、合わせてIR実務での得た分析結果をレポートしていきたい。

(文責 AP事業特任助教(IR担当) 上畠洋佑)



[2]詳細な内容は大学教育学会第37回大会発表要旨収録(pp48-49)に記載

[3]マイクロスコープ型④の「焦点」とは分析結果の厳密性の追求度合いを意味する。⑤の「明度」とは分析結果をどの程度・範囲で経営層に明示するかの度合いを意味する。

[4]センターニュース№542参照(http://herd.w3.kanazawa-u.ac.jp/news/2015/201504_542.html

[5]一般社団法人日本プライマリ・ケア連合学会のホームページでは「総合診療科はどの診療科を受診すればよいかわからない患者さんの窓口」と説明している。(http://www.primary-care.or.jp/paramedic/medical_list.html