【No.548】
ファカルティ・ディベロップメントを超えて(その2):大学教育をリデザインする

初中等教育から大学教育、さらに社会へとつながる長期の教育システムを俯瞰したとき、小中高大・社会に接続する「理想の学生の姿」を描く必要がある。その教育機関としてのゴールは、学習成果(ラーニング・アウトカム)および学位授与の方針(ディプロマ・ポリシー)といった、知識・技術・態度・コンピテンシーを見極める議論でもある。大学入学以前に持っている学生の能力・意欲、卒業時に持つ(かつ、社会が求める)能力・資質との差分=微分量の到達する先に、生涯にわたって能動的に行動する市民(アクティブ・シチズンシップ)の形成がなされていることを保証する教育設計が必要となろう。大学で行う正課教育・準正課教育について、エビデンスをもって再設計するという視座からは、いま進行している高大接続改革、アクティブ・ラーニング、グローバル人材育成への質的転換の本質が見えてくるのではないだろうか。

本稿では、教育評価とインストラクショナルデザイン、高等学校におけるアクティブ・ラーニング導入の点から、大学教育設計を論じたい。

 

1.教育評価とインストラクショナルデザイン

5月15日、16日にかけてe教育サロンの主催する第34回勉強会「大学で教える人のためのルーブリック評価入門(大阪大学・佐藤浩章氏)、第5回シンポジウム「大学教育におけるICT活用の可能性を探る(基調講演:熊本大学・鈴木克明氏)」(大学教育開発・支援センターも後援)に相次いで、評価と設計に関わる重要な話題提供の機会を得た。

佐藤氏は、『大学教員のためのルーブリック評価入門(玉川大学出版部)』の邦訳を手掛けられ、増刷が繰り返されるほどその普及に寄与されている。勉強会では、ルーブリックの基礎から評価結果を議論するモデレーション体験で構成された。成績評価は、評価でありながら教育学習方法でもある。レポート返却とフィードバックは、学生にとっても重要なふりかえりの機会になるのにも関わらず、採点時間がかかること、評価がぶれること、タイミングが悪いことによって、効果的に実行することが難しい現状がある。しかし、評価を返すことによる濃密なコミュニケーションは、教師・学生の双方に利点がある。カナダでは、2週間以内のレポート返却ルールがあるくらいだという。評価によって「学生の行動を変える」ことが本質であること、採点基準を事前提示することで自己評価の力が鍛えられること、まずは作ってみること(はじめから完璧なものにすることは難しくルーブリックは3回ほど改訂することでよいものになる、他者作成のものをそのまま使ってもなかなかうまくいかないので学生と文脈に合わせる必要がある)といったヒントは、ルーブリックのもつ「時短・ブレない・公平な」評価に取り組まれる方に大きな力になるだろう。

鈴木氏は、インストラクショナルデザインの視点から授業と大学の学習環境を再設計するための方策を示した。漫然と続けないこと、裏付けのある効果的・魅力的な授業にすること、できるだけ講義以外の方法を使うこと、授業以外の学習環境も整備すること、自分で学べる人を育てることという原則から、高校生から大学生にするために入口と出口のギャップを埋める設計図が必要である。たとえば鈴木氏の授業の構成は、確認テスト+隣同士での相互採点(15分)、フィードバック(15分)、応用課題(60分)からなる。必要な知識は教科書に書いてしまっているため、対面の授業時間はほとんどを演習にあてているという。魅力的な授業設計・教材作成のヒントは『教材作成マニュアル(北大路書房)』『授業設計マニュアル(北大路書房)』に詳しいが、近著『研修設計マニュアル(北大路書房)』では教えなくても学べる研修へと、より学習者の独学支援に向かっている。大学教育は授業にとどまらず学習支援環境の整備に向かう必要があり、はこだて未来大学や名桜大学数理学習センターにおける学生チューターの活動がヒントになるということを示した。なお、鈴木氏による鳥瞰図モデル(2006)[1]およびサンドイッチモデル(2012)[2]は本学AP事業での教学IR調査の拠所としている(図)。

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図:鈴木による鳥瞰図モデル(2006)をもとに改編

2.高等学校におけるアクティブ・ラーニング導入

筆者は、石川県高等学校教頭・副校長会総会に招聘され「高等学校における学生と教師を結ぶアクティブ・ラーニング」として講演・ワークショップを行った。中教審答申「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について」(平成26年12月22日)を受けて、文科省は「高大接続改革実行プラン」(平成27年1月16日)[3]を策定し、高大のアクティブ・ラーニング導入と大学入試改革をセットにした工程を発表している。大学にはアドミッション・ポリシー等の一体的策定の義務化、SD(スタッフ・ディベロップメント)の義務化と学長の補佐体制の充実、AP事業におけるアクティブ・ラーニング導入などが明記された。大学での教育方法が変われば、大学入試方法・内容も変化する、さらには高等学校教育の改革も同時に進むことが必要である。高等学校教育では、新しい学習指導要領(平成30年度告示の予定)を目前に、平成27年度以降にアクティブ・ラーニング充実の順次実施がスピード感をもって進行している。講演内容は、アクティブ・ラーニング導入の背景、対話と学び合いの手法(クリッカーによる形成評価、ペア・リーディング、シンク・ペア・シェア)、教師自身が授業スタイルをふりかえるグループワークの構成からなるが、大学教職員向け研修プログラム、大学生向けの授業内容とほぼ同一のものである(「教師」が「大学教師」「高校教師」「大学生」に置き換わっても本質に変わりはない)。このタイミングでの講演・ワークショップが行われた背景には、石川県高等学校「学びの力」向上アクションプラン(平成27年4月16日)策定[4]があるものの、大学教育と高等学校教育での教育開発が合わせて行われ相乗をなすことを期待している。

協調学習(知識構成型ジグソー法)の実践と普及を牽引されてきた三宅なほみ氏(東京大学教育支援コンソーシアム推進機構[5])は、認知科学と学習科学から得た理論を小中高等学校での授業に適用し、特に埼玉県下高校での組織的な取組みなどによって、500人以上の実践家が世に生まれている。評価と設計から大学教育・高等学校教育も再設計される必要があると教育制度が大きく振れている中にあって、その道具を使う教師と学生が、受動的な「強いられたアクティブ・ラーニング」の状況にあってはならない。三宅氏は、理論と実践の探究的な往還の中で、学びあう教師のネットワークを形成されてきた、その構造自体がアクティブ・ラーニングの本質であることに確かな光を見出すことができる。5月29日に永眠されたという訃報に触れ、その足跡に感謝するとともに、小中高大接続に向けての教育開発をいま一度考えるきっかけとしたい。

(文責 教育支援システム研究部門 杉森公一)



[1]IDの視点で大学教育をデザインする鳥瞰図:eラーニングの質保証レイヤーモデルの提案,日本教育工学会第22回講演論文集,337-33(2006) http://www2.gsis.kumamoto-u.ac.jp/~idportal/wp-content/uploads/a61104.pdf

[2]大学教育ICT利用サンドイッチモデルの提案,日本教育工学会第28回全国大会発表論文集,969-970(2012) http://www2.gsis.kumamoto-u.ac.jp/~idportal/wp-content/uploads/jset2012ksuzuki969-970.pdf

[3]文部科学省:高大接続改革実行プランhttp://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo12/sonota/1354545.htm

[4]石川県教育委員会学校指導課 https://www.pref.ishikawa.lg.jp/kyoiku/gakkou/action.html

[5]大学発教育支援コンソーシアム推進機構 リソース・理論・実践 http://coref.u-tokyo.ac.jp/
「あなたの理論は、現場の役に立ちますか?」も参照 http://amphibia.jp/archives/160