【No.545】
GS科目によってKUGSをいかに達成するか

●○●GS科目によってKUGSをいかに達成するか●○●

本学では、金沢大学<グローバル>スタンダード(KUGS)として定める国際通用性を持った5つの能力の滋養を担う共通教育新カリキュラムが来年度から実施される。この新カリキュラムの中核は、GS(グローバルスタンダード)科目の30科目から構成される。現在、このGS科目の開発が本格化しつつある。筆者はGS科目の一つである「科学技術と科学方法論」の開発に関わることとなったので、現在その開発グループでの検討に向けた私案の作成に着手している。「科学技術と科学方法論」は5つの能力のうち「5.未来の課題に取り組む:科学技術の動向、自然環境変動、持続可能性など多角的視座から地球と人類、国際社会と日本の未来を総合的に予測し、未来の課題に取り組んでいく能力」を養うGS6科目の一つに位置し、さらにこの能力を分割した学習成果(Learning Outcomes)の一つ「想像力・創造力」を主な学習成果として達成することが求められている。どのような授業内容と成績評価方法を開発すれば「想像力・創造力」を滋養する授業科目であると質保証できるのであろうか?

このことについて考える上で、現在までに試行錯誤で行ってきた共通教育での授業実践・経験が少なからず参考になる。例えば前期に開講している「ゼミ/論理的思考と科学リテラシー」では、「学習目標」を問題発見能力、仮説形成能力、仮説検証方法の立案能力としている。これらの能力はGS科目「科学技術と科学方法論」で求められる学習成果「想像力・創造力」を言い換えたものと解釈できる。今年度の授業は始まったばかりであるが、その一端を紹介したい。テーマは一切示さず、自然現象について不思議に思うこと、疑問に思うことを、どんな単純な素朴な幼稚と思われることでもいいので述べるように求めた。受講生は理系学類のみの9名である。沈黙が長く続いた後、「友人が毒キノコを食べて影響がでるまでに時間遅れがある場合があるのはなぜかという疑問を述べていた。」との発言があり、この疑問を始点として新たな疑問やそれらの疑問に答える仮説が次々と出てきた。列挙すると、1)キノコが毒を持っているのは、捕食を免れるためか、それ以外の意義はないのか、2)そもそも毒を持っていないキノコが存在するのはなぜか、3)毒の有無とキノコの繁殖能力と関係はあるか、また仮説として、1)繁殖能力が高いキノコは毒を持つ必要はない、2)捕食者を死滅させるに時間遅れがあるのは、捕食者を移動させて、死滅させたのちその死骸をキノコが養分とし生存範囲の拡大につながる、等である。次の週は、4名と5名の2グループに分かれて、インターネットで情報を集めながら、議論した。その結果、キノコの捕食者が主に哺乳類であれば、進化系統上古いキノコは毒を持たず、新しいキノコが毒を持つようになったのではないか、という仮説が出された。また、毒の作用の遅延性の意義に対する上記の仮説2)を支持する情報として、キノコの毒は、致死性とともにタンパク質分解の活性も有することがあるとの情報が得られた(この情報の信憑性についてはさらに検討する必要がある)。今後の授業ではさらに仮説の精緻化を行うとともに、その仮説を検証する具体的な方法について議論する予定である。

このような授業実践を踏まえた上でGS科目「科学技術と科学方法論」の授業内容についての私案を以下の通り考えてみた。8週の授業内容を想定している。

1.科学の方法

科学における思考法の源流は、徹底した根拠を求める批判的思考法が確立した古代ギリシャに求めることができる。原理としての公理からの演繹、背理法や三段論法といった論証法が確立し、この論証法が公理論的数学を生み出した。科学の方法は、このような論証法に基づいている。以上のような古代ギリシャに源流を持つ科学の方法が、歴史的にどのように適用され、科学が発達し、技術との相互作用により共進化してきたかについて説明する。グループ討論では、科学の基本プロセスである現象の観察、仮説の形成、その仮説に基づく演繹、その結果の検証について、具体的な事例を題材にしてそのようなプロセスのあてはめについて議論する。

2.ケプラーの推論

惑星の運動の観測データから惑星の楕円運動へのケプラーによる推論について説明する。グループ討論では、ケプラーが行った観測データの分析を辿る。

3.ニュートンの推論

ニュートンは、運動の3法則を公理としてケプラーの法則から重力を導きだし、そしてこの重力がどのような2つの物体の間にも働いていることを推論した。このようなニュートンの推論について、その背景も踏まえて説明する。グループ討論では、このニュートンの推論の過程を整理する。ニュートンが確立した古典力学とこれに伴って開発された微分積分学が、タンパク質など分子の運動のシミュレーションなど現代の科学技術に広く使われていることを述べる。

4.メンデルの推論(1)

メンデルの論文について概説した上で、仮説としての分離の法則および独立の法則が実験データに基づいていかに検証されたかをグループ討論で整理する。

5.メンデルの推論(2)

ダーゥインの同様の実験の説明をした上で、両者を分けたものは何か(両者の推論)についてグループ討論する。また、Suttonが染色体説に基づいてメンデルの法則を説明した過程を確認し、遺伝学と細胞学との融合の現場を見る。

6.コンピュータの出現

シャノンは、論理演算を論理回路で置き換えることができることを示したが、このことは、すべての論理演算は3つの基本論理演算の組み合わせに展開できるため、論理演算はすべて論理回路で行うことができることを意味している。この数学と既存技術とからコンピュータの基盤が生み出された現場を見る。グループ討論では、条件分岐と加算など一つのアルゴリズムを実行する専用の論理回路を用意するのではなく、様々なアルゴリズムに対応する論理回路をどうしたら実現できるかについてアイデアを出す。

7.未来に向けて

コンピュータの原理のモデルであるチューリングマシンを提案したチューリングは、論理演算によって解けない問題があるかどうかに注目した。これは、脳のすべての機能は論理演算によって実現できるかという問いにつながる。チューリングはさらに、生物の形態形成を模倣する化学反応モデル(微分方程式)を開発している。古代ギリシャに始まる自然現象の原理を数学で表現しようとする自然科学の方法論は、現代において、生命原理をその対象としつつある。その生命原理を技術に結びつけることはできるのであろうか。具体的な例として、人工遺伝子回路について説明し、電子回路と人工遺伝子回路との比較について議論する。また、脳領域間の動的結合について現在の知見の概要を説明する。口頭発表「CPUと脳とを比較し、脳を創ることの実現可能性について推論する」に向けてグループ討論を行う。

8.口頭発表

グループ発表「CPUと脳とを比較し、脳を創ることの実現可能性について推論する」を行う。また、各自レポートとしてまとめる。脳を創ることの人間社会への影響についての考察を加える。

以上の授業案はあくまで筆者の私案であり、今後開発グループで授業案について検討が行われるが、重要なことは、例えば上記の授業内容・成績評価方法が「科学技術と科学方法論」の学習成果として期待されている「想像力・創造力」の達成および達成度評価に妥当であるかどうかを検討することである。

(文責 大学教育研究開発部門 西山宣昭)