【No.541】
ファカルティ・ディベロップメントを超えて(その1):対話が結ぶ教育開発

○●○ ファカルティ・ディベロップメントを超えて(その1):対話が結ぶ教育開発 ○●○

少子高齢社会、知識基盤型社会(情報社会)、グローバル社会という社会構造変化に対して、教育が担おうとする責任と正義の範囲は一層の拡がりを見せている。この20年間にわたる大学教育の転換点は、【1入口】18歳人口の減少:平成4(1992)年の205万人から平成27(2015)年の120万人への推移[1]、【2出口】産業構造の変化:ストレーターの減少と非正規キャリアの増加[2]、【3教育内容の変化】高度な競争が進む知識社会では、「知識は瞬時に伝えられ、万人の手に渡る。その伝達の容易さとスピードが、企業、学校、病院、政府機関に対し、たとえ市場と活動はローカルであっても、競争力はグローバル・レベルにあるべきことを要求する。インターネットは世界中のユーザーに対し、何をどこで、いくらで手に入れられるかを教える。」状態[3]にあり、情報獲得だけでは競争を力強く乗り越えることはできない。このような背景のもとでファカルティ・ディベロップメント(FD)が追及したのは、いかに教えるか(教授方法)、何を伝えるか(教科内容・カリキュラム)という教授側の責任であっただろう。教えることには学術・文化の継承としての強い動機に基づく社会的責任がある。しかし、その延長線上に、能動的な学習者としての主体性(学ぶ責任)を強調することには論理の飛躍を感じる。教える責任に自覚的にあろうとし、学生へ主体性を喚起することで責任を果たそうとすればするほど、自発的な学習から離れた「ごっこ遊び」としての「強いられたアクティブ・ラーニング」とはならないだろうか。本学が採択され本格始動期に入った大学教育再生加速プログラム(AP) [4]スーパーグローバル大学創生支援(SGU)事業 [5]が、その推進のみを目的としないために、学生・教師・組織といった学習主体に自覚的になくてはならない。いくつかの責任主体を掛け合わせたフレームによって、現代の教育課題を乗り越えられる可能性がある。今号では、いくつかのフレームでの教育開発(Educational Development)[6]を提示して、続く議論の皮切りとしたい。

 

1.学生×教師

学生と教師が出会う場は、言うまでもなく「授業」であろう。アクティブ・ラーニングの裏返しは、教師から学生への一方向の情報伝達と期末テスト/レポートによる評価のモデルである。学生をテープレコーダーにしたい(なりたい)とは誰もが思っていないはずであるが、この教育形態が浅い学習を促す戦略性を帯びていることには自覚的でなくてはならない。もはや知識伝達型の講義を乗り越えるかどうかという地点には立っておらず、いかに戦略的に学生の学びと成長を捉えるのか、意義ある学習経験としての深い学習を仕掛けていくのかというスタートにいる。すぐれた授業デザインは、学習者を中心に据えた授業内外の学習行動の変化をもたらす。

2.学生×学生

学習経験の一つとして授業を捉えたとき、情報を受け取る者という学習者の定義はかなり弱い。情報から知識を創り出す自律的な学習者として、知識の再生には学生自身の能力開発も含まれ、ティーチング・アシスタント(TA)やラーニング・アドバイザー(LA)を経験する学生は、よりよい授業デザインをつくる協力者にもなりうるだろう。金沢大学憲章には、「学生の個性と学ぶ権利を尊重とし、自学自習を基本とする」精神を掲げているが、学ぶ権利をもう一歩すすめるためには、自学自習を超えた先にある相互の学び合い、「互学互習」への橋渡し役が求められる。AP事業では、TAとLAを結ぶアクティブ・ラーニング・アドバイザー(ALA)制度を新たに創設し、特に授業に関わってのグループ学修を支える上級生チューターの活用と研修を進める。TAは教育補助者であるのに対し、ALAはアクティブ・ラーニングを行う授業で、後輩学生に対する授業内外での学修支援が主な目的である。本学でチューターといえば留学生に対する学修相談・支援を行う日本人大学院生を指す語としての馴染みがあるが、様々なアクティブ・ラーニング型授業が浸透すると、戦略性に応じて、授業内での学生参加、ペアやグループでのディスカッション、プロジェクトによる活動などが入ってくる(図)。

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ALAは、タイプ1~3にあたるような学生の学習活動を補助し、助言者や議論のファシリテーターとしての役割まで求められる。教師が、大人数を対象にした講義で限られた時間配分の中でグループ活動等を支援するためには、その授業を受講した経験のある上級生の協力を得ることが不可欠であろう。従来のTAでも類似の教育支援を既に実施されている事例もあろう。まずは、学生同士のペア・ディスカッション、確認の演習などを短時間取り入れ、そのサポートからALA活用事例の蓄積が始まるだろう。

3.教師×教師

 教師のすぐれた実践は、閉じられた教室の外には波及しないことがある。Webシラバス、学生による授業アンケートは、教師と教師を結ぶにはまだ限定的な役割である。試験内容や成績を開示するだけにとどまらず、AP事業では、授業記録と学生の学習活動内容を記録する「授業カタログ」(一般には、コース・ポートフォリオや教育ポートフォリオと呼ばれる)によって、互いの教育実践を結ぶ。授業方法の改善・開発のためには、狭義の意味でのFDは必須ではあるが、授業カタログをベースにして教師間の対話を促進するFDリーダーの役割と能力が重みを増していく。他大学のアクティブ・ラーニング実践事例、間もなく始まる第二期のインタラクティブ・ティーチング講座(第一期は9500名もの受講生を集めた)、各地の大学でつくられ公開されたルーブリック事例など、最近になって私たちの教育開発を支えてくれるリソース整備は進んでいる[7]

教授から学習への質的転換をスローガンとした「アクティブ・ラーニング」論は、世を席巻しつつある。ただし号令に終わらないために、教えること・学ぶことを越境して、教師と教師・教師と学生がともに学び創る共同体を、自分たち自身の手でかたちづくらなくてはならない。

(文責 教育支援システム研究部門 杉森公一)



[1]18歳人口は3年前の中学校卒業者及び中等教育学校前期課程修了者数から算出されている。文部科学省 学校基本調査-平成26年度(確定値)結果の概要-も参照のこと。 http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/kekka/k_detail/1354124.htm

[2]『キャリア教育のウソ』(児美川孝一郎、筑摩書房、2013年)によれば、高校入学者100人に対して、「どこかの段階までの教育機関を卒業し新卒就職をして3年後も就業継続をしている者(=ストレーター)」は41人しかいない。日本中退予防研究所の山本繁によれば、大学入学者100人に対して、中退12・留年13を除いて残る75人のうち就職は45人、さらに3 年就業継続は31人である。

[3]『ネクスト・ソサエティ』(ドラッカー、ダイヤモンド社、2002年)による鋭い予言。

[4]金沢大学APは「テーマⅠ:アクティブ・ラーニング」と、「テーマⅡ:学修成果の可視化」の複合型に採択され、人間社会学域・理工学域で実施 http://apuer.adm.kanazawa-u.ac.jp/

[5]金沢大学SGUは「タイプB(グローバル化牽引型)」に採択 http://sgu.adm.kanazawa-u.ac.jp/

[6]大学改革の議論(FD論と重なる)を超えた先にある、本来あるべき教育と学修の開発・発達(Teaching & Learning Development)の姿を、筆者は大学教育開発として位置付けたいと考えている。道具としてFD、アクティブ・ラーニング、大学改革という語が登場することになるが、あくまで手段であって目的ではないだろう。

[7]長崎大学アクティブラーニング事例集 http://www.redc.nagasaki-u.ac.jp/teacher/activeLearningList.html 

教育学術新聞「教授法が大学を変える」 https://www.shidaikyo.or.jp/apuji/activity/pdf/3rdPlan.pdf 
および https://www.shidaikyo.or.jp/apuji/activity/2013_kyoujuhou.html

インタラクティブ・ティーチング第二期(JMOOC講座) http://todaifd.com/interactive/

JAEDルーブリックバンク http://jaed.jp/jaedweb/?q=ja/node/37