【No.535】
能動的学習を促す授業とカリキュラムのデザイン―七尾高校SSHの取組み

●○●能動的学習を促す授業とカリキュラムのデザイン―七尾高校SSHの取組み●○●

 もう35年近く前になるが、筆者が大学1年の当時教養部の生物の授業のことを鮮明に覚えている。授業の冒頭、先生が「細胞小器官があると細胞にとってどんな良いことがあるのか」と質問され、教室を歩き回って次々に受講生に答えを求められた。手元には細胞内部を示した美しい模式図が載ったテキストがある。先生が満足する答えが出ないまま2巡目に入ったとき、筆者がひらめいて、そして順番が回ってきて「反応の効率が良くなる」と答えるやいなや先生は教壇に戻られて細胞小器官についての講義を始められた。筆者の数少ない成功体験ということもあるかもしれないが、10年後に著名な研究者であることを知ることになるこの先生の牛乳瓶底のような分厚いレンズのメガネと教室を歩き回る様子が克明に記憶として残っている。学生に必死で考えさせる「優れた問い」から始める今でいうアクティブ・ラーニング授業である。

 大学教育の課題といわれるアクティブ・ラーニングの普及は、教員と学生、学生と学生とが対面で向き合い、学問に沿った「問い」を投げかけ合うことによって「考え方の基礎」つまり「批判的思考」を養成しようとするリベラル・アーツ教育への回帰として整理できる[1]。しかし、大学に限ったことではない。教員が質問し、ほとんどの生徒が「はい」「はい」と答えを競った小学校の授業を皆覚えている。高等学校においてもアクティブ・ラーニング型授業について研究実践が進んでいる。2月4日、七尾高校でその一端を見る機会を得たので以下に紹介する。

 1年生対象の授業科目「フロンィア・サイエンスⅠ」の公開授業を参観した。この日は「北陸の雷(地球)」というテーマでの4回の授業の最終回の「発表」であった。1、2回の授業での静電気、電流、放電についての講義、実験、フィールドワークを経て、3回目に「フランクリンモータの制作」をテーマとした実習が行われ、その成果発表が4回目当日の内容である。知識習得・知識活用・課題発見・仮説形成・課題解決・発表の1サイクルを七尾高校ではユニットと名付け、1ユニットは4回~5回の授業で構成されている。今回の成果発表では、実習といってもフランクリンモータの挙動に影響を与える実験パラメータを各班で設定させて、実験結果を発表させるもので、どこに目をつけるか、その理由は何か、各班の探究の狙いの説明から発表が始まる。参観者には各班の評価表が配布され採点を求められた。七尾高校のSSH(スーパーサイエンスハイスクール)研究開発は、論理的思考力、創造性・独創性、科学的探求力、表現力、さらに国際的な場面で討議できる英語活用能力を養成するカリキュラム、指導法、それら学習成果の達成度評価の方法の開発を目的としている。学習成果の達成度評価基準は、1年次から3年次まで段階的な基準を包括する長期ルーブリックとして明確化されるとともに、カリキュラムを構成する授業科目の学習目標として共有され、またルーブリック自体の検証・見直しが年度ごとに行われている。公開授業で配布された評価表では、例えば科学的探究力の評価基準の一つとして「仮説を立て、その検証を正しく行うことができる」が設定されている。電極の位置を実験パラメータとして設定して、モータの回転速度への影響を定量的に調べた班の発表では、実験結果に対する複数の解釈を示していた。また発表の部分で曖昧な部分を鋭く指摘する質問があり、その質問に対する回答も論理的で明快であったので、筆者は科学的探究力の評価基準に対する評価を4段階での4とした。各班で議論しているので、公開授業では論理の曖昧さを突く質問が飛び交っていた。

 アクティブ・ラーニング型授業では、講義や予習での知識獲得とその活用による問題解決との連携の困難さが指摘されるが、七尾高校ではユニット制を前提とした講義内容と実習内容の厳選と連携について緻密なデザインがなされている。また、ユニット制に基づいて設計された授業科目「フロンィア・サイエンスⅠ」「人間環境(デイベートの作法)」「スーパー数学ゼミ」「フロンィア・サイエンスⅡ」から始めて、科学英語の講読、討議、デイベートを行う「スピークサイエンス」と課題研究「七高アカデミア」を経て、3年次の科学英語論文の講読、分野別探究活動を行う「フロンィア・サイエンスⅢ」につながるカリキュラムが組まれている。なお、これらの授業科目の多くに本学の教員が関わっている。このような教育を受けた学生が大学に委ねられることになる。

(文責 大学教育研究開発部門 西山宣昭)

[1]西山宣昭「中教審大学分科会(審議まとめ)とアクティブ・ラーニング(その2)」センターニュースNo.410.

 

●○●学内報告会等の開催のお知らせ●○●

【1】「英語による授業」先進事例報告-国際教養大学での取り組みについて-

(KU-GLOCS Act.0)(主催:大学教育開発・支援センター )

日時:3月2日(月)14:00~16:00 会場:総合教育1号館2階大会議室 

講師:前中 ひろみ・竹本 周平(国際教養大学)

【2】平成26年度教育実践報告会「能動的学習を促す取組事例」

(主催:教育企画会議教務委員会)

日時:3月3日(火)15:00~17:10 会場:自然科学図書館棟大会議室

報告者:大藪 加奈(外国語教育研究センター)「言語科目(英語)における能動的学習の取組」

井田 朋智(物質化学類)「講義と実験・演習の組み合わせによる能動的学習の取組」

藤野 陽(保健学類)「英語を用いた授業における能動的学習の取組」

志村 恵・深澤 のぞみ(国際学類)「文系におけるPBL授業と大人数授業における

少人数グループ討論の導入」

【3】大学教育再生加速プログラム第2回アクティブ・ラーニングFD研修会

「なぜアクティブ・ラーニングか,アクティブ・ラーニングを通して何を目指すのか」

(主催:大学教育再生加速プログラム検討委員会)

日時:3月4日(水)14:00~16:30 会場:自然科学図書館棟大会議室 

講師:溝上 慎一(京都大学)

詳細:http://www.kanazawa-u.ac.jp/events/15/03/0304.pdf

【4】「英語のみで卒業できるコース」先進事例報告-首都大学東京での取り組みについて-

(KU-GLOCS Act.0)(主催:大学教育開発・支援センター)

日時:3月18日(水) 15:00-17:00 会場:本部棟4階第3会議室

講師:松浦 克美(教授、都市教養学部 理工学系 生命科学コース、大学教育センター、高大連携室長)