【No.529】
アクティブラーニング(能動学習)からディープラーニング(深い学習)へ(その9):ファシリテーションの力、キャリア教育が結ぶ大学と社会の未来

明けましておめでとうございます。本年も『週刊センターニュース』をお読みいただき、ご活用いただければ幸いです(大学教育開発・支援センターWebページにて2004年3月発行第1号からのバックナンバーを公開しています[1])。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

○●○ アクティブラーニング(能動学習)からディープラーニング(深い学習)へ(その9):ファシリテーションの力(第1回アクティブ・ラーニングFD研修会参加報告)、キャリア教育が結ぶ大学と社会の未来(第5回「連携FD」研修会参加報告) ○●○

アクティブ・ラーニングには2つの主体がある。教師と学生である。教師は、授業という様式<ドラマ>の中で、学習目標・教育内容・教育評価を配置する。学生は、授業を通して学習成果<アウトカム>を備えた人間形成を図る。教師の役割と、学生の人間形成を結ぶ一つの手段・道具がアクティブ・ラーニングといえよう。中央教育審議会は、2014年12月22日高大接続に関する答申「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について(答申)(中教審第177号)」を諮問した[2]。大学入試制度改革にとどまらず、教授・学習パラダイムの転換を強調した高等学校教育と大学教育の今後を方向付ける内容となっている。大学はアドミッション・ポリシーに基づき、学力の三要素(知識・技能、思考力・判断力・表現力、主体性・多様性・協働性)を踏まえた総合的な評価を行い、小中高大を通した教育の質的転換の断行を駆動して、人材輩出を通して社会の形成を図っていく。

さて、主体性を涵養することと外形的なアクティブ・ラーニングの手法が一致するのか、そもそも「主体性」とは何であるのだろうか。筆者は、教師の役割転換=学生の学習活動を促進するファシリテーター(facilitator)としての位置づけに注目している。大学教育再生加速プログラム(AP)のキックオフの一環として、平成26年11月7日第1回アクティブ・ラーニングFD研修会「アクティブ・ラーニングに求められるファシリテーション」(講師:星槎大学・三田地真実教授)を開催した[3]。三田地氏はファシリテーター行動指南書(2013)の中で、津村ら(2003)の4つのタイプの教育者像(教授者、コンサルタント、インストラクター、ファシリテーター)を紹介している。コンテンツ志向+伝達・指示型教育が「教授者」像であるならば、プロセス志向+参加・対話型教育を行うのが「ファシリテーター」であるという。研修会では、応用行動分析学の立場から、会議や授業における場づくりの要素を、コンテンツ(=What)・プロセス(=How)・参加者(=Who)に分け、学習プロセスを明解なフレームに分割してみせた。問いから始まる先行事象は、考える・調べるといった学修行動を経て、問題解決という後続事象に至る。学生自身が自ら「問い」を生み出すというゴールに向けて、解決するという行動が強化されるよう促しているか、フィードバックをできているか、グループワークが対話の場になっているか、インストラクション(問いかけ)は適切か、グループのサイズ・役割はどうなっているか。目の前の学生は「我が子」であると例えば、どんな子に育ってほしいのか?どんな社会の担い手になって欲しいのか?という問いが、教師自身にも生じる。学生の力を信じることの重要性が再認識された機会であった。

学生の人間形成には、生涯を通じた自律的な学び(long-life learning)への接続が求められよう。キャリア教育は、学問分野に関わらず長期的な視座を与えてくれる。中部ブロック産業界ニーズGP(平成24〜26年)の枠組みのもと、北陸地区6大学・短大は「連携FD」研修会をシリーズ開催してきた[4]。大学間連携でのキャリア教育を支える教育力の向上の場として、アクティブ・ラーニングが主テーマとなる。平成26年12月6日第5回「連携FD」研修会は、その最終回として金沢大学・金沢工業大学が幹事校となって開催した。基調講演「大学と社会をつなぐキャリア教育」(法政大学・児美川孝一郎教授)からは、これまで大学においてキャリア教育・支援が進んだ背景、そして大衆的な青年期教育の機関として大学が担う役割の論点整理がなされた。ここでのキーワードは、社会化(socialization)と将来に向けた主体化である。労働者・生活者として自律的・主体的に働く・活動すること(work)を大学教育のゴールとして目指すのであれば、高校までの主体的な学び、大学での主体的な学びを通じて、アクティブ・ラーナー=自ら行動できる人間を育てることが大学に求められる。先の見えにくい時代にあって、自律的なキャリア開発を促すのは「キャリア教育」の場にとどまることはない。すべての大学教育の場で、教員・職員が行う社会化・主体化の総力戦が、広義のキャリア教育・支援に求められており、外付けにあったキャリア教育の専門教育への埋め戻しの時期にあるのである。

続いてのパネルディスカッションでは、金沢大学就職支援室・山本均室長、金沢工業大学・長谷川勉教授、金城大学短期大学部・岡野絹枝教授からの各校での実践を通した視点から、大学と社会をつなぐキャリア教育への展望を議論した。本学の「就業基礎力12の力のアセスメント」は、通した正課・正課外のキャリア支援プログラムの分析に有用であろう。企業人の視点を持った長谷川氏の授業「技術者と社会」の実践は、自ら考え行動する技術者を目指す学生への、覚悟を持って諭し指導する教師の在り方と授業デザインが、理系での優れた教育モデルを形成していた。岡野氏は、産学連携のキャリア支援の組織づくりが発展し、学生・教員・保護者を交えて学生のリテラシー・コンピテンシー育成・向上につなげるという、短期大学での稀有な実践と教育デザインを見出した。連携FDを通した大学間と産業界との対話によって、私たちは大学教育を通じた人間形成の目指す方向性への光を見出しつつある。

リアルな状況設定の上に教師・学生の具体の役割を設定し、確かなインプットの土台に問題解決に向けたアウトプットが展開され、教育目標・教育手法・教育学習評価のアセスメントによって大学教育(授業、学生支援)が再デザインされる。アクティブ・ラーニングあるいはキャリア教育・支援を単なる形骸としてはならない。学生の人間形成に向けたまなざしを、社会の力を借りて大学教職員が持つということから、大学は社会を変える強い駆動力を持ち得るのである。

(文責 教育支援システム研究部門 杉森公一)



[2]中央教育審議会 第96回配布資料 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/gijiroku/1354209.htm

新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について~すべての若者が夢や目標を芽吹かせ、未来に花開かせるために~(答申)http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1354191.htm

[3]アカンサス・ポータル>時間割>特別コース「教職員研修等」より視聴可能(学内教職員限定公開)

[4]産業界のニーズに対応した教育改善・充実体制整備事業:中部圏の地域・産業界との連携を通した教育改革力の強化http://s-needs-chubu.pj.mie-u.ac.jp/