【No.520】
「テキスト分析によるグローバルかつ汎用的な学習成果設定-デンマーク・英・日調査-」について

○●○「テキスト分析によるグローバルかつ汎用的な学習成果設定-デンマーク・英・日調査-」について○●○

 現在、「テキスト分析によるグローバルかつ汎用的な学習成果設定-デンマーク・英・日調査-」というタイトルで科学研究費補助金(基盤研究(C)、課題番号25381125)による研究を進めている。研究目的は、デンマーク、英国、日本で既に作成されている学習成果記述のみをテキスト分析することにより、形式知・暗黙知に含まれている当該学問分野および当該国における文脈依存要因を取り除き、グローバルかつ汎用的な客観的教育プログラム別の学習成果一覧を作り出すことである。

昨年度は、学生アルバイトを活用し、デンマークのAkkrediteringsrådetのWebサイトのakkrediteringsrapporter og afgørelser[1](教育プログラムアクレディテーション結果報告書)から835件をダウンロードし、各ファイルを教育プログラム名、学位課程、大学別に整理した。また、英国の高等教育質保証機構(Quality Assurance Agency for Higher Education, QAA)Webサイトからは、Subject benchmark statements explaining the core competencies at honours degree level[2](優等学士課程分野別中核能力)59件、Subject benchmark statements explaining what achievement is expected at master's level[3](修士課程で求められる到達度)13件の報告書をダウンロードし、専門分野、学位課程別に整理した。その後、デンマークでの教育プログラムについて、専門分野、アクレディテーション結果のラベル付けを行い、英国での学問分野区分との間での比較可能性を検証し、分析対象となる教育プログラム一覧を作成した。これらの作業の結果、今回は、デンマークのアクレディテーション、英国QAAに加えて欧州での汎用性を考慮し、チューニングプロジェクト(Tuning Specific Comptences)[4]で対象となっている42教育プログラムも比較対象としている。これら3者を比較した結果、共通のタイトルを持つ7つの教育プログラム(Chemistry, Education, History, Linguistics, Mathematics, Physics, Theology)について試行的に学習成果(能力)の比較分析を行った。

 デンマークでは、2007年から2013年までは教育プログラムアクレディテーションのみが実施されており[5]、同じまたは同じ種類の教育プログラムは同じ時期にアクレディテーションを受審する仕組みであった。アクレディテーション報告書の構成は、初めにアクレディテーションの結果(適合、期限付き適合、不適合)を示す文書がつけられ、それに続いて、導入、アクレディテーション分科会等メンバー紹介、学士課程能力プロファイル、学士・修士一環課程能力プロファイル、アクレディテーション活動で議論された点、5つのアクレディテーション基準ごとの解説、資料となっている。今回の科研では、このうち学士課程能力プロファイルを分析対象とした。QAAのbenchmark文書は、導入、学問分野の定義、学問分野の特性、身につけられる能力(分野によってはベンチマーク基準)、教授・学習評価、などから構成されている。こちらについても身につけられる能力を中心に確認した。チューニングプロジェクトのTuning Specific Comptencesでは分野別に能力が示されている。

 歴史学(history)を例に能力の示し方を簡単に紹介する。デンマークの歴史学は5つの大学において歴史学がアクレディテーションを受けているが、コペンハーゲン大学において歴史学を学ぶことにより身につく能力としては、1. 自発的に活動する力、2. 学術的デンマーク語および英語を読む力、3. 学術的に正確に分析的に口頭および文章で自らの考えを表現する能力、4. 様々な対象に対する意識を持ちながら口語および文章で優れたコミュニケーションを取る能力、5. 情報の有効性、使いやすさ、信頼性を考慮し、文献や数値を批判的に扱った経験、6. 科学的結果の持続性や対象範囲を検討した経験、7. 他者の意見を批判的に見ながら様々な政治的、社会的、文化的事情を分析した経験、8. 現代デンマークに関する課題や素材に触れたり離れた時代や地域の素材に触れた経験、9. ICT技術を活用し文書、数値を扱った経験、10. プロジェクトで他者と協力して活動した経験、など10項目が挙げられている。QAAの歴史学benchmarkでは、歴史家の能力として、1. 常に異なる過去の様々な文脈においてどのように人類が存在し、活動し、思考してきたかを理解する力、2. ジャンル、内容、視点、目的について自問しながら、批判的かつ共感を持って、テキストやその他第一次資料を読み、分析する力、3. 過去のものの考え方、出来事、状況の複雑性、多様性を判断できる力、4. 歴史的記録固有の問題点を理解する力、5. 基本的批判能力、6. 知的独立性、7. 議論を整理する力、などがあげられている。チューニング・プロジェクトでの歴史学では、1. 現在の出来事、その過程と過去の関係を批判的に認識する、2. 様々な時代、文脈における歴史学的視点の違いを認識する、3. 他国または異なる文化背景から生じる視点を認識し、尊重する、4. 現在進行中の歴史学研究および議論の特性を認識する、5. 過去の一般的通時的枠組みに対する知識、6. 現代の歴史学的視点で議論されている項目、テーマを認識する、7. 過去の人類の歴史における一つまたは複数の特定の時代についての詳細な知識、8. 歴史学専門家の間で認められている専門用語、技法を用いて自らの言語、口頭でコミュニケーションを取る能力、9. 歴史学専門家の間で認められている専門用語、技法を用いて外国語、口頭でコミュニケーションを取る能力、10. 歴史学資料および原史料を自らの言語で読む能力(以下略)、など30項目が挙げられている。チューニング・プロジェクトでの記述が一番詳細なものであることが、デンマークの個別大学やQAAのbenchmarkと比較することで明らかになったことは、ある種今回の分析作業の副産物であった。

 今後は、これら日本語訳をテキストマイニングソフトやコンコーダンスソフトで処理することで、歴史学をはじめとしていくつかの学問分野において汎用的な学習成果記述を見つけ出していきたいと考えている。(文責 評価システム研究部門 堀井祐介)

 



[1]http://akkrediteringsraadet.dk/afgoerelser/

[2]http://www.qaa.ac.uk/assuring-standards-and-quality/the-quality-code/subject-benchmark-statements/honours-degree-subjects

[3]http://www.qaa.ac.uk/assuring-standards-and-quality/the-quality-code/subject-benchmark-statements/masters-degree-subjects

[4]http://www.unideusto.org/tuningeu/competences/specific.html

[5]2013年から機関別アクレディテーションを主とする仕組みに変更となった。