【No.519】
学習成果(Learning Outcomes)とルーブリック

●○●学習成果(Learning Outcomes)とルーブリック●○●

現在、全学に向けて提示されている金沢大学グローバル人材スタンダードは、学士課程<グローバル>スタンダードと大学院課程<グローバル>スタンダードとからなり、前者は本学の学士課程教育の学習成果としての5つの能力を明文化したものである。今後、これらの全学が共有する学習成果を各学類の専門分野の文脈で解釈し、これに整合する学類の学習成果へと既存の学習成果を調整する必要がある。また共通教育の新しいコア科目についての教育内容・方法、成績評価基準を検討するための指針となる。

学習成果としての5つの能力を国内外に示す上で、他大学が定める学習成果との対応関係について明確にしておく必要がある。以下に、アメリカの学士課程教育の学習成果の参照モデルとして知られるVALUE ルーブリック(Valid Assessment of Learning in Undergraduate Education  Rubrics)から本学の学習成果に対応づけることができる要素を試行的に抽出してみたい。VALUE ルーブリックは、学習成果の設定とその達成度評価に注力するアメリカ国内の82大学がAAC&U(The Association of American Colleges and University)のプロジェクトとして共同開発したもので、16の学習成果それぞれにルーブリックを作成している[1]。1つの学習成果のルーブリックでは、その学習成果は要素に分割され、それぞれの要素(評価観点)を達成していることを示す学生のパフォーマンスが(評価基準)として明文化されている。VALUE ルーブリックでは、一つの(評価観点)に対して4段階の(評価尺度)を設け、各段階の(評価基準)が明文化されている。一つの学習成果を複数に分割し、それぞれについて4段階(capstone4、milestone3、milestone2、benchmark1、おおよそ学年に対応)評価する。どの段階にあるかを(評価基準)として明文化している。各ルーブリックは(評価観点)と(評価尺度)との行列となり、行列の各要素に(評価基準)が示されている[1]。16のVALUE ルーブリックから本学の5つの能力に対応すると考えられる(評価観点)と(評価基準)をそのまま流用して、本学の学習成果に対するルーブリック作成を試行することにより、アメリカの学士課程の学習成果モデルと本学の学習成果との対応関係について考える始点にしたい。この試行はあくまで筆者個人が、本学の学習成果について理解を深め、学習成果の評価基準への変換について考察しようとするもので、9月29日に当センターが開催したセンター研究会で参加者とともに議論を行った。

5つの能力のうち、「1.自己の立ち位置を知る:鋭い倫理感と科学的知見をもって、人類の歴史学的時間と地政学的空間の中に立つ自己の位置、自己の使命を主体的に把握する能力」のルーブリック作成を試行してみる。5つの能力については、さらに具体的な説明が「解題」として示されている(6月の教育企画会議資料)。この解題に基づいて、「1.自己の立ち位置を知る」能力は自己認識、批判的分析、倫理的価値判断、問題設定に分割可能と解釈した。そこで、これらの要素に対応する2つのVALUEルーブリック(【Global learning】と【Problem solving】)から4つの(評価観点)を抜き出して以下の通りルーブリックを作成した。本学が定める学習成果としての1つの能力は、VALUEルーブリックの4つの能力に対応すると解釈したものである。ルーブリックの行列の各要素と学類の各学習成果との対応付けを通して、金沢大学グローバル人材スタンダードと学類カリキュラムマップの階層構造を作ることができるし、共通教育のコア科目をルーブリックの各要素に割り当てるなど、ルーブリックの活用が考えられる。

「1.自己の立ち位置を知る:鋭い倫理感と科学的知見をもって、人類の歴史学的時間と地政学的空間の中に立つ自己の位置、自己の使命を主体的に把握する能力(関連キーワード:科学的世界観、批判的思考力、歴史的洞察力、地政学的洞察力、規範意識)」に対するルーブリックのイメージ

評価観点

 

評価尺度

【Global learning】

Global Self-

Awareness

【Global learning】

Perspective

Taking

【Global learning】

Understanding Global Systems

【Problem solving】

Define problem

Capstone

  4

グローバル化の状況における自己の立ち位置を明確にすることによって効果的に自然界や人間社会における重要な課題に取組んでいる。

複数の競合する(文化、学問、倫理上の)状況に直面して、自然及び人間社会のシステム内の複雑な対象の多様な捉え方を評価し適用している。

グローバルシステムに対して人間の組織化と行動とが及ぼしてきた歴史的及び現代での役割と多様な影響についての深い知識を活用することにより、自然界及び人間社会における複雑な問題を解決するための見識ある適切な行動を策定し提示できる。

すべての関連する文脈上の要因を根拠として用いた明確かつ洞察に富んだ問題の明文化を行う能力を示すことができる。

Milestone

  3

自然界や人間社会における

自分や他者のローカルな行動が及ぼすグローバルな影響について評価している。

自然界や人間社会の対象について調べようとするとき、(文化、学問、倫理などの)枠組みも設計している。

自然や人間社会の複雑な問題に対する本質的な解を示すために、グローバルシステムの要素について、それらの歴史的及び現代における相互関係や人間の組織や行動が及ぼす多様な影響について分析している。

最も関連のある文脈上の要因を根拠として問題を明文化できる能力を示しており、その文章は適切に詳細である。

Milestone

  2

人間の行動が自然界や人間社会にどのように影響を及ぼすかについて分析している。

自然界や人間社会における対象を見出そうとするとき、(文化、学問、倫理上の)複数の枠組みを同定し説明している。

自然や人間社会のグローバルシステムに対する人間の組織や行動の歴史上、現代での役割、相互関係、多様な効果について調査している。

最も関連のある文脈上の要因を根拠として問題を明文化できる能力を示す痕跡があるが、その文章は表面的である。

Benchmark

  1

何らかのローカル、グローバルなことと個人の意思決定との関わりのいくつかについて同定している。

自分の(文化、学問、倫理上の)立ち位置での価値志向性を維持しながら複数の客観的な観点を同定している。

自然や人間社会に対するいくつかのグローバル、ローカルな機関、アイデア、プロセスの役割について同定している。

問題の明文化あるいはその根拠としての関連ある文脈上の要因をわずかながら同定できる能力を示している。

 

9月29日に行ったセンター研究会では、上記のルーブリックについて議論を行ったが、その中で、カリキュラムにおける各科目の位置づけを明示する科目ナンバリングについての指摘があった。このルーブリックに基づいたナンバリングのルールを策定できるのではないかとのアイデアである。通常は、ナンバリングは科目区分に対応させるが、各科目をルーブリックの特定の行列要素に、専門科目ではこれに加えて学類の学習成果に紐付けることになるので、行列要素および学類の学習成果にコードを振ってやれば、各科目のナンバリングは自動的に決まることになる。以上、金沢大学グローバル人材スタンダードのルーブリックへの変換と科目ナンバリングについての全学での本格的な議論の始点になればと思う。       (文責 大学教育研究開発部門 西山宣昭)

[1]松下佳代「パフォーマンス評価による学習の質の評価―学習評価の構図の分析にもとづいて―」京都大学高等教育研究第18号,75(2012).